阻害事由

中国(1): 審査

以前は、新規性、進歩性については、それ程厳密な審査は行われないが、とにかくクレームを実施例に開示された具体例に限定することを要求されることが多かったのですが、近年は、そのような具定例への限定を要求されることは殆ど無くなり、新規性、進歩性などに関に関しても詳細な審査通知が発行されるようになりました。しかし、日、米、欧などと比較すると審査自体はそれ程厳しくはありません。

弊所でこれまでに扱った案件でも特許化が困難な状況に陥ったような案件はありません。

尚、以前は、新規性阻害事由となる公知公用について、国内公知(国内における公知、公然の実施や文献の公開が先行技術となること)を採用しておりましたが、2009年10月1日に施行された新中国専利法により、現在は、日本などと同様に世界公知(国内のみならず外国のどこかにおける公知、公然の実施や文献の公開を先行技術に含める)を採用しております(中国専利法第22条)。

国毎の審査プラクティスの違いなどについては、「知財関連情報」のコラムでも解説しておりますのでご覧下さい。

進歩性の拒絶への対応(Part 2)

想定外の理由に基づいて進歩性を否定された場合:

前回の「想定内の拒絶を受けた場合」では、出願明細書中の記載に基づく議論のみで対応可能な場合についてお話いたしましたが、今回は新たな検討を要する内容の拒絶を受けた場合について説明いたします。 そのような場合の典型的な対応は以下の通りです。

(A)審査対象出願の発明や先行技術の開示内容に関する審査官の誤認・誤解を明らかにする。
(B)先行技術を組み合わせることの困難性[例えば、阻害要因(teach away)の存在]を明らかにする。
(C)予想外の優れた効果を明らかにする。
(D)後知恵(hind-sight)や商業的成功(Commercial Success)を主張する。
(E)先行技術に教示・示唆されていない特徴をクレームに追加して、更にその特徴による予想外の優れた効果を明らかにする。

具体的な対応の例を以下に挙げます。

(A)審査官の誤認・誤解

審査官が、審査対象出願の発明や先行技術の開示内容を誤解して、拒絶理由通知を出してくることは少なくありません。(特に米国の場合に多いという印象があります。)

その様な場合においても、ただ審査官の誤解を責めることを考えるのではなく、何故そのような誤解が生じたのかを謙虚に検討してみることが望ましい結果につながることが多いです。具体的には、以下のような手段が考えられます。

補正

審査官の誤解の理由を検討し、許容範囲内で、誤解の原因を排除し、発明をより明確に定義できる補正が可能であるならば、そのような補正を行うことが望ましいです。

仮に審査官の誤解が明らかであっても、何らかの補正を行った方が、権利化がスムーズになります。但し、補正によるエストッペル(禁反言)が生じないか慎重に検討する必要があります。例えば、特許性を明らかにするために必要な補正(例えば、先行技術に対する新規性・進歩性を明らかにするために行われた補正)であったと判断された場合、その補正によってクレームの範囲外となった部分については、出願人により放棄されたものとみなされ、均等論に基づく権利主張が出来なくなる場合があります。

審査官との面談

どうしても、審査官がどのような理解に基づいて拒絶しているのか分からない場合が有ります。そのような場合には、可能であれば、審査官との電話インタビューなどにより審査官の意図を確認してから具体的な対応を検討することが望ましいです。特に米国出願の場合、審査官との電話インタビューを行って審査官の真意を確認するということをよく行います。

(B)組み合わせの困難性:「阻害要因」ないし「阻害事由」

審査官に引かれた複数の先行技術を組み合わせることの困難性を示すための手段は幾つかありますが、その代表的例として、組み合わせに対する「阻害要因」(「阻害事由」)の存在を指摘することが挙げられます。この「阻害要因」とは、英語では"teach-away"や"negative teaching"などと称され、先行技術文献中に見出される教示であって、当業者が先行技術文献を改変(modify)して審査対象の発明に到達することを妨げる(prevent又はdiscourage)ような教示のことを意味します。

例えば、審査の対象となっている発明Xが、主成分(a)と補助成分(b)とからなる医薬品に関するものであり、この発明Xが、成分(a)を開示する先行技術文献Yと成分(b)を開示する先行技術文献Zとの組み合わせにより容易と認定された場合を想定します。この場合に、例えば、文献Yと文献Zのいずれかに成分(a)と成分(b)を組み合わせると毒性を発揮するというようなことを示唆する記載があれば、「阻害要因」があったと認められ、進歩性(非自明性)が認められることになります。

(C)予想外の優れた効果

効果の立証:

上記したような発明Xの場合に、阻害要因はないとしても、成分(a)と成分(b)とを組み合わせることによって特段のメリットが得られることが教示も示唆もされていなかった場合、成分Aと成分Bとの組み合わせによって、非常に優れた効果が得られるということを明細書の実施例・比較例に参照して説明する、若しくは追加実験によって証明することによって進歩性(非自明性)を立証することが出来ます。

米国における宣誓供述書:

米国であれば、上記のような追加実験を37 C.F.R. § 1.132に基づく宣誓書(affidavit)又は宣言書(declaration)(以下、纏めて「宣誓供述書」)として提出します。また、上記したように出願明細書に記載されている実施例のデータに基づいて非自明性を主張するような場合においても、実施例のデータに基づく考察(observation)を宣誓供述書の形として提出することが有効です。即ち、明細書に既に記載されている事項であっても、署名者が内容の信憑性に関して宣誓した宣誓供述書の形式で提出すれば、単に意見書中で実施例に参照して議論する場合と異なり、学術論文などの公知文献や専門家の見解書と同等の証拠として扱われます。

宣誓者は、発明者本人であってもそれ以外の第三者であってもよく、発明者本人による宣誓供述書であっても審査官はこれを軽んじてはならない旨がMPEP(MPEP§716.01(c)III)に規定されていますが、通常、やはり第三者によるものの方が説得力が高いと見なされます。

37 C.F.R. § 1.132の宣誓供述書で証明が可能な事項について、MPEP §716.01(a)は、以下のような事項を例示しております:

(1)発明を構成するパラメーターなどの臨界性(criticality)

(2)発明による予想外の効果(unexpected results)

(3)商業的成功(commercial success)

(4)長きに亘り未解決であった課題(long-felt but unsolved needs)

(5)他者による失敗(failure of others)

(6)専門家により提示された疑念(skepticism of experts)(「こんな発明がうまくいくはずない」というようなことを示唆する専門家の見解)

37 C.F.R. § 1.132の宣誓供述書の詳細については、以下をご参考下さい:
MPEP §716.01(a)MPEP§716.01(c)

また、宣誓供述書については、こちら にもより具体的な説明と、弊所で作成した宣誓供述書のサンプルを幾つか掲載しておりますので、参考までにご覧下さい。

実験報告書についての注意点:

(i)実施例の後出し:

上記の効果が出願当時の明細書に全く教示も示唆もされていない効果について、出願後に追加実験において初めてその効果を主張するようことは、日本を含む多くの国(米国を除く)では認められません。そのような主張を認めてしまうと、実際には出願当時には有用性が確認されていないかった発明について、特許を認めてしまうことになるからです。

尚、平成21年(行ケ)第10238号審決取消請求事件の知財高裁判決(日焼け止め剤組成物事件)が、実施例の後出しが認められた判決として良く話題に上りますが、出願当時の明細書に何ら教示も示唆もされていない効果について、出願後に実験証明しても認められると判示している訳ではありません。この件では、出願後に出願人が実験証明した効果について、出願当時の明細書に明記はされていないが、明細書の記載から読み取ることは出来るという判断で認められたものです。

この件は、効果が出願当時の明細書から読み取れるかグレーなところはありますが、明細書に全く示唆もされていない効果について実施例の後出しを許可するということを判示しているわけで無いということに注意が必要です。

一方、米国の場合には、明細書に教示も示唆もされていない効果について実験データの後出しが認められています(In re Chu, 66 F.3d 292, 299, 36 USPQ2d 1089, 1094-95 (Fed. Cir. 1995)、MPEP 2145)。これは、審査官からどのような拒絶理由を受けるか予見することは出来ないのであるから、出願明細書に記載がない効果についても、拒絶に対して、そのような効果について主張することは許されるべきという考え方に基づくようです。

そのような議論や実験データを提出する場合には、37 C.F.R. § 1.132に基づく宣誓供述書の形式で提出しないと考慮されない可能性が高いです。

(ii)実験内容の適性:

特に外国出願に対する拒絶の対応において、実験報告書の原案を発明者が作成し、それを実質的にそのまま翻訳して提出してしまうということが実務上よく行われています。そして発明者の方は、技術のプロではありますが特許のプロではないために的を得ない内容の宣誓供述書になってしまっているというケースを目にすることがあります。

その場合、いかに審査官が供述内容を真摯に検討しようとも、拒絶の撤回の根拠とはならないという状況に陥ってしまいます。

宣誓供述書の内容については、案件を良く理解した代理人と綿密に相談して上で決定することをお勧め致します。

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各国における先行技術の定義と新規性喪失の例外(Part 1)

[I] 米国における先行技術の定義

2011年9月16日、オバマ大統領が米国特許法改正案"Leahy-Smith America Invents Act"に署名し、法律(以下「米国新法」という)として成立しました。この改正における1つの重要な変更は、先発明主義から先願主義への変更です(2013年3月16日から施行)。また、同時にかなり独特であった先行技術の定義も変更されます。先行技術の定義の変更は、基本的には日本などの諸外国の制度との国際的調和を図る物である一方、米国独特のグレース・ピリオド制度は維持されるため、依然として日本などにおける先行技術の定義とは大きく相違する点もあります。

まず、国際的調和に結びつく変更点として、以下が挙げられます:

- 公知公用については、国内公知から世界公知へ変更(新規性阻害事由となる公知公用について、国内のみならず外国における公知、公然の実施や文献の公開を先行技術に含めることになった。詳細な説明はこちら。)

- 所謂「ヒルマードクトリン(Hilmer Doctrine)」の廃止(旧法下では、米国特許出願の外国優先権主張日が、他の米国特許出願に対する先行技術の効力発生日として認められなかったが、新法下では認められるようになった。詳細な説明はこちら。)

そして、依然として残る大きな相違点は、米国においては、同じ発明に関して他人の先願があっても、その前に後願の発明者が自分で発明を公開していれば、該先願は該後願の先行技術とならないことです(日本では、そのような先願は先行技術となります)。米国の新たな制度が、「先願主義」ではく「先開示主義」だと揶揄される所以です。

以下、米国新法の下での先行技術となる発明について、概要を説明します。あくまで概要ですので、微細な点や実務上滅多に遭遇しない場合については触れません。

米国における先行技術:

米国新法の下では、特許出願に係る発明に対して先行技術(prior art)となる発明は、次の2種類です(米国新法第102条)。

(1)当該特許出願の有効出願日の前に公知であった発明 (2)当該特許出願の有効出願日の前の有効出願日を有する他人を発明者とする特許出願であってその後公開又は特許に至ったものに記載された発明

注: 「有効出願日」とは、優先権を有する(先の出願の出願日の利益を受ける)出願の場合には優先日を意味し、優先権を有しない出願の場合には出願日を意味します。

先行技術の例外:

上記項目(1)及び(2)のそれぞれについて、適用が除外される場合が設けられています。

項目(1)(出願前公知)の例外: 自分自身が公表したことによって公知になった発明(ただし、その公表の日から1年以内に特許出願をすることが必要)は、先行技術としては扱われません。

項目(2)(他者の先願)の例外: 当該他人を発明者とする特許出願の前に自分自身が発明を公表している場合や、当該他人を発明者とする特許出願と当該特許出願とが同一の譲受人に所有される場合には、適用されません。

日本における先行技術の定義との比較:

上記項目(1)(出願前公知)の先行技術は、日本の特許法第29条第1項に規定される先行技術に相当し、上記項目(1)についての適用除外(自分自身が公表したことによって公知になった発明)は、日本の特許法第30条の規定(新規性喪失の例外)に相当します(ただし、日本では、発明の公表から6ヶ月以内に新規性喪失の例外適用の申請書類と共に特許出願し、更に出願日から30日以内に証明書類を提出することが必要)。

したがって、適用が除外される場合まで考慮してまとめれば、米国における上記項目(1)の先行技術は、日本では猶予期間が1年でなく6ヶ月であり、またこれを享受するために申請が必要である点を除いては、日本の特許法の第29条第1項及び第30条に規定される先行技術に相当すると考えてよいでしょう。

上記項目(2)(他者の先願)の先行技術は、日本の特許法第29条の2本文に規定される先行技術に相当します。上記項目(2)の先行技術についての適用除外となる場合を2つ挙げましたが、これら2つの場合のうち、第2の場合(当該他人を発明者とする特許出願と当該特許出願とが同一の譲受人に所有される場合)は、日本の特許法第29条の2ただし書に規定される場合に相当します。一方、第1の場合(当該他人を発明者とする特許出願の前に自分自身が発明を公表している場合)は、米国独自の規定であって、日本には対応する規定はありません。したがって、適用が除外される場合まで考慮してまとめれば、米国における上記項目(2)の先行技術は日本の特許法の第29条の2に規定される先行技術に相当するが、米国では他人の特許出願より先に自分が発明を公表してしまえば当該他人の特許出願は先行技術にはならないという点に注意すべきである、ということになるでしょう。

例えば、出願人Aが発明を公表し、その5ヶ月後に出願Yを提出したが、その出願Yの出願日の2ヶ月前に出願人Bが同じ発明に関して出願Xを提出していたとします。このような場合、日本であれば、出願Xは出願Yの先行技術となり、例え出願Yが新規性喪失の例外規定の適用を受けていたとしても、出願Yは先願である出願Xにより新規性を喪失します。勿論、出願Xも出願人Aによる発明の公表によって新規性を喪失します。

一方、米国であれば、出願Xは出願Yに対する先行技術とは見なされません。出願Xは、出願人Aによる発明の公表によって新規性を喪失します。

priorart

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進歩性(非自明性)の判断基準

日本の特許審査基準には、進歩性の判断に関して以下のように記載されています(審査基準第II部 第2章 2.5、(3)参照)。

「引用発明と比較した有利な効果が明細書等の記載から明確に把握される場合には、進歩性の存在を肯定的に推認するのに役立つ事実として、これを参酌する。」

「請求項に係る発明が引用発明と比較した有利な効果を有している場合には、これを参酌して、当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたことの論理づけを試みる。そして、請求項に係る発明が引用発明と比較した有利な効果を有していても、当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたことが、十分に論理づけられたときは、進歩性は否定される。」

「しかし、引用発明と比較した有利な効果が、技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものであることにより、進歩性が否定されないこともある。」
(下線は追加しました)

審査基準の上記記載からわかりますように、進歩性を確立するためには、単に「引用発明と比較した有利な効果」があるだけでは不充分であり、

 「当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたことが、十分に論理づけられ」ないこと、及び

 「予想外の顕著な効果」があること、

のいずれか又は両方を示すことが重要になります。

ここでは、日本の審査基準を例に取りますが、このような考え方は、万国共通と考えて良いと思います。

後者(「予想外の顕著な効果」)は、明細書の実施例や比較例のデータを利用したり、新たな実験データを提出することにより示すことになります。

そして、前者(「当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたことが、十分に論理づけられ」ないこと)を示すためには、先行技術から本発明を想到することを妨げるような事情ないし事由(所謂「阻害要因」又は「阻害事由」)の存在を示すことが最も有効です。

要するに、複数の先行技術文献の組み合わせから容易、若しくは、本発明と単一の先行技術文献との相違が、当業者が適宜選択し得る「設計的事項」(最適材料の選択、設計変更、周知の均等物との置換など)に過ぎないという理由で拒絶された場合に、先行技術文献同士を組み合わせること、若しくは設計的事項と認定された技術的特徴を先行技術に適用することを阻害する要因が存在したことを明らかにすることが出来れば、進歩性欠如の拒絶を克服することが出来ます。

阻害要因の例

「阻害要因」には大きく分けて2通りあります。一つは引用発明同士を組み合わせると取り返しのつかないデメリットが生じることが技術常識として知られているといったテクニカルな観点からの阻害要因であり、もう一つは技術的課題の解決方法が逆になるというような技術思想的な観点からの阻害要因です。

上記のテクニカルな観点からの阻害要因としては、主成分(a)と補助成分(b)とからなる医薬品を主題とする発明Xが、成分(a)を開示する先行技術文献Yと成分(b)を開示する先行技術文献Zとの組み合わせにより容易と認定されたという場合を例に取りますと、例えば、文献Yと文献Zのいずれかに「成分(a)と成分(b)を組み合わせると毒性を発揮する」ということを示唆する記載があれば、それは理想的な阻害要因の一例といえます。

また、技術思想的な観点からの阻害要因としては、本発明と先行技術の構成的な相違点が一見非常に小さくとも、その相違点が、本発明と先行技術の目的が全く異なる為に生じたものであることが明らかであるような場合が挙げられます。例えば、本発明が屋外用の塗料組成物に関するもので、先行技術が屋内用の塗料組成物に関するものであり、本発明と先行技術の組成物は同一の成分から構成されている場合を想定します。ここで、本発明には、ある特定の成分(A)の量が、屋外用途のための耐候性を維持する目的で組成物全体の10wt%以下とクレームに規定されており、一方、先行技術には、その成分(A)の一般的な量が、本発明と重複する1~50wt%と記載されているが、先行技術全体の開示から、この先行技術の目的が屋内用途のための吸湿性を向上させることであって、その目的を達成するために成分(A)の量が20wt%以上であることが必要であることが明らかであるような場合、先行技術において成分(A)の量を本発明のクレームで規定された10wt%以下にすることに対する阻害要因があったと認められると考えられます。

補助的な阻害要因

もちろん、上記のような明らかな阻害要因が常に存在するとは限りません。しかし、たとえ明らかな阻害要因が見当たらない場合でも、引用文献の記載を注意深く検討すると、単独では「阻害要因」とまでは言えないかも知れないが、他の有効な方策(たとえば、優れた効果を示す比較実験データの提出、証拠資料の提出、主クレームに何らかの補正を行なうことなど)と併用すれば、いわば補助的に進歩性を支持する要因として利用可能な情報を読み取ることができることがあります(以下、そのような利用可能な情報を便宜的に「補助的阻害要因」と称します)。

阻害要因に関する主張と「予想外の顕著な効果」に関する主張が共にそれ程強く無くとも、これらを組み合わせることによって進歩性が認められることもあります。

「補助的阻害要因」については、たとえば、上記の例で言いますと、先行技術文献Zに成分(b)が開示されているとしても、重要なものとして特筆されている場合もあるでしょうが、単に同列に列挙される数多くの化合物例の中の1つである場合もあります。後者の場合は、補助的な議論として「成分(b)は同列に列挙される数多くの選択肢の1つにすぎず、成分(b)が特に好ましい旨の趣旨は教示も示唆も全くされていないので、それを取り出して成分(a)と組み合わせる動機や理由はどこにもない」という趣旨の議論が有効な場合が有ります。

もちろん、この様な議論は、上記の通り、他の方策と組み合わせて行うものであり、単独では余り効果は見込めません。例えば、文献Yと文献Zとが類似の技術に関するものであって、且つ成分(b)を使用しても文献Zに成分(b)と同列に列挙される他の化合物を使用した場合と比較して格別の効果が無いということでは、上記の様な議論のみで審査官を説得することは困難です。

一例として、本発明、文献Y及び文献Zが二液性接着剤(主剤と硬化剤の2成分からなる接着剤)に関するものであったとして、本発明の成分(a)が主剤で成分(b)が硬化剤であると仮定しましょう。そして、本発明の成分(a)が文献Yに開示されていて、文献Zが硬化剤として列挙している中に成分(b)が含まれていたとします。その場合に、成分(a)と成分(b)を組み合わせた時に、硬化性能やその他の性能が、成分(b)以外の硬化剤化合物を使用した場合と変わりないということでは、成分(a)と成分(b)を組み合わせることに格別の困難性や意外性は見いだせないとして、容易性の拒絶は維持されてしまうと思います。また、成分(b)が周知の硬化剤であったならば、本発明における成分(b)の使用は単なる設計事項に過ぎないとして、文献Yのみに基づいて進歩性が否定されてしまうかも知れません。

具体的には、「成分(b)は同列に列挙される数多くの選択肢の1つにすぎず」という趣旨の議論は、以下のような議論と組み合わせると有効であると考えられます。

(1)成分(b)を使用した場合に、文献Zに成分(b)と同列に列挙される他の成分を使用した場合と比較して顕著な効果が有る。
(2)文献Yと文献Zとは一見類似の技術に関するものだが、単純に組み合わせることが出来ない理由がある。

上記(1)については、たとえば、「成分(b)」と同列に列挙される数多くの選択肢の少なくとも1つ以上と「成分(b)」と間の効果の顕著な差を示す比較実験データを提出できるならば、進歩性を証明するために、かなり有効な手段となります。
上記(2)については、文献Zにおいて上記のようにいくつもの選択肢が同列に列挙されているということは、文献Zにおいてはそれが全て互いに「等価物」であると認識されているということです(なお、これを英語の意見書で述べるならば、たとえば「they are equated with each other」などと表現できます)。したがって、もしも、文献Zに列挙されている化合物群の中に文献Yにおいて使用できないものが含まれている場合、当業者は、文献Zに記載されている成分(b)を含む化合物群を直ちに文献Yに適用することは出来ないと考えるでしょうから、その点を「補助的阻害要因」として利用して、文献Yと文献Zを組み合わせることの困難性を主張することが出来ます。

例えば、上で述べた二液性接着剤(主剤と硬化剤の2成分からなる接着剤)の場合を例に取ると、文献Yと文献Zは共に二液性接着剤に関するものであるが、主剤として使用される樹脂が異なる為に、適する硬化剤も異なるという様な状況が考えられます。即ち、文献Zに成分(b)と同列に記載されている硬化剤は、文献Yの主剤樹脂に対しては硬化剤として機能しないことが知られているというようなことがあれば、その事実に基づいて文献Yと文献Zとを組み合わせることが自明でないと主張することができると思います。

このように、引用例の記載を詳細に検討して、明らかな阻害要因とは言えないまでも、先行技術から本発明に想達することの困難性を示す上で少しでも役立つ事項(上記の「補助的阻害要因」)を見出すことが出来れば、他の主張と組み合わせて進歩性の拒絶を克服出来ることがあります。従いまして、特に進歩性を明確にすることが困難な状況に直面した時には、引用例の内容についての審査官の見解を鵜呑みにするのではなく、引用例の全体を様々な観点から徹底的に分析してみることも必要です。

また、上記では阻害要因と「補助的阻害要因」とに分けて述べましたが、実際においては、上記で例示した「明らかな阻害要因」のような極端な例でもない限りは、多くの場合、阻害要因として利用できるのか(それとも「補助的阻害要因」としてしか利用できないのか)は、審査官の判断を待たないと分かりません。つまり、阻害要因と「補助的阻害要因」との間に明確な線引きができないことが多いものと考えます。さらにいえば、特許庁の段階では「阻害要因」が存在しないと判断されたものが、知財高裁の判断では「阻害要因」が存在すると判断されるということもあります(例えば、以下の判例参照:平成19年(行ケ)第10007号事件;及び平成22年(行ケ)10104号事件)。

クレームの補正

拒絶理由通知への回答を行なう際に、仮に拒絶理由が審査官の明らかな誤認に基づくものであっても、まず主クレームに何らかの補正を行なって主クレームと引用例との違いを、より明確にすることで効率的な権利化が可能になることが少なくありません。

審査官が誤解した原因を検討し、実質的にクレームの範囲を変えずに、誤解の可能性を排除するような明確な表現への変更が可能であれば、一般的に、単に審査官の誤解を指摘するよりも、上記のような変更を行う方がスムーズに権利化できる確率が高くなります。

しかし、クレームの範囲に実質的な変更を加える際には、禁反言(エストッペル)の観点から、将来の権利行使に支障を来たすものでないか慎重に検討することが必要です。特許出願手続きにおいて出願人が意識的に除外した対象については、後からそのような対象について権利主張をすることは禁反言の法理に照らし許されません。特に、先行技術に対する進歩性を明確にする目的で行った補正によって、クレームの範囲外となった対象については、後で権利主張することは出来ません。(参考までに、米国では、このようなルールをRecaptureの原理と称します。)

例えば、上記の二液性接着剤の例において、審査段階で、硬化促進剤(c)を更に含むと補正し、硬化剤(b)との相乗効果で、引用例の接着材と比較して接着剤の効果性能が格段に向上するなどと主張して特許が認められたとします。その後、成分(a)と成分(b)のみを含み、成分(c)を含まない接着剤を製造・販売する第三者がいたとしても、それに対して本発明の均等物として権利侵害を主張するようなことは許されません。(この場合、出願人により意識的に除外された対象は、「成分(c)を含まない」接着剤ということになります。)

上記から明らかなように、進歩性拒絶克服の目的で行った補正によってクレームの範囲外となった対象については、後から権利主張することはできないということを念頭に置いておくことが必要です。

もちろん、補正を渋ることで権利化出来ないのであれば本末転倒ですが、進歩性明確化の為の有用性と将来の権利行使の双方の観点から、どのような補正を行うのか決定することが重要です。

まとめ

上記の要点を以下にまとめます。

- 進歩性欠如に基づく拒絶理由を受けた場合には、明確な阻害要因とまでは言えずとも、効果に関する主張などと組み合わせることにより、進歩性の立 証に役立つ事情ないし事由(上記のような「補助的阻害要因」)が存在することがあるため、引用文献の開示や関連の公知技術などを注意深く検討する。

- 将来の権利行使(禁反言)を念頭においた上で、拒絶の克服に有効な補正が可能か検討する(審査官の誤解が明らかであっても、許容範囲内での補正が可能であれば、補正を行った方が効率良く権利化することが可能になることが多い)。

具体例

参考までに、弊所で実際に提出した意見書において「補助的阻害要因」を述べた例を下記にご紹介します。下記の例では、「引用文献1」と「引用文献 2」が主引用例(primary references)として用いられ、「引用文献3」と「引用文献4」が副引用例(secondary references)として用いられて、引用例の組み合わせによる拒絶を受けたものです。

ご紹介するのは、まず各引用例について詳しく議論した後に、まとめを述べた部分です。意見書では、明細書の実施例と比較例のデータを用いて発明の優 れた効果を示し、それに加えて、引用例について下記の趣旨を議論したものです。この例においては、引用例の組み合わせに関する「補助的阻害要因」は特に主 張せず、本発明と各引用例との技術的関連性についての「補助的阻害要因」だけを主張する形になりました。この結果、一回の回答で特許査定を得ております。 主クレームの補正と、発明の優れた効果を示すデータと、各引用例についての詳しい議論との「合わせ技」により、「進歩性あり」との心証を審査官に与えるこ とができたという感触があります。

「(引用文献1~4に関する説明のまとめ、及び引用文献1~4の組み合わせについて)

審査官殿は、「引用文献1、2には、カチオン化澱粉が本願請求項1に係る発明で規定する粘度及びカチオン化度の範囲を満足することの明記はない が、....」と述べられ、本願請求項1に記載されるカチオン化澱粉の「粘度及びカチオン化度の範囲」が、引用文献3や引用文献4に開示されている旨を述 べておられます。

しかし、上記のように、引用文献1ではジアルデヒド澱粉が必須成分です。ジアルデヒド澱粉は、パルプ繊維と共有結合を形成し得るものであり、本発明 で用いられるカチオン化澱粉とは、化学的特性が大きく異なります。そのような引用文献1の開示を、本発明と同列に論じることはできません。

従って、引用文献1を引用文献3や引用文献4とどのように組み合わせても、本発明の構成に到達することは容易ではありません。

上記のように、引用文献2においては、「カチオン性水溶性高分子化合物」としての「カチオン化澱粉」と、「水溶性高分子ポリヒドロキシ化合物」とし ての「澱粉」のいずれも、他の多くの化合物例と単に横並びに列挙されているものです。よって、引用文献2の開示から、「カチオン性水溶性高分子化合物」と しての「カチオン化澱粉」と「水溶性高分子ポリヒドロキシ化合物」としての「澱粉」とを選び出して特に注目する理由はありません。

従って、引用文献2を引用文献3や引用文献4とどのように組み合わせても、本発明の構成に到達することは容易ではありません。

上記のように、引用文献3においては架橋された澱粉を用いることが必須です。従って、粘度に関して、本発明で用いる澱粉(「粘度レベルが低下された澱粉」)は、引用文献3において用いる「架橋された澱粉」とは、技術的に正反対の方向です。

従って、引用文献3を引用文献1や引用文献2とどのように組み合わせても、本発明の構成に到達することは容易ではありません。

また、上記のように、引用文献4においては、アルキルケテンダイマー(AKD)及び/又はアルケニル無水コハク酸(ASA)が必須成分であり、アル キルケテンダイマー(AKD)やアルケニル無水コハク酸(ASA)は、澱粉とは全く異なる種類のサイズ剤ですので、引用文献4は、本発明とはほとんど無関 係の技術です。そのような引用文献4の開示を、本発明と同列に論じることはできません。

引用文献4の技術の中心は、あくまでも「アルキルケテンダイマー(AKD)及び/又はアルケニル無水コハク酸(ASA)」です。

従って、引用文献4を引用文献1や引用文献2と組み合わせる動機はありませんし、また、引用文献4を引用文献1や引用文献2とどのように組み合わせても、本発明の構成に到達することは容易ではありません。

このように、引用文献1~4をどのように組み合わせても、本発明の構成に到達することは容易ではありません。

従って、本発明の添加剤組成物が引用文献1~4の組み合わせに対して進歩性を有することは明らかです。」

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「後知恵」(hind-sight)による拒絶に対処しやすい明細書作成について

審査基準における「後知恵」

現在の日本の審査基準には「後知恵」の防止に関する規定は存在していません。しかし、1993年に審査基準に導入されて以来、2000年の改訂前までの審査基準には「その他の留意事項」として「後知恵」の防止規定が存在しました。2000年の改訂で削除されたその規定は以下の通りです:

「本願の明細書から得た知識を前提として事後的に分析すると、当業者が容易に想到できたように見える傾向があるので注意を要する。例えば、原因の解明に基づく発明であって、いったん原因が解明されれば解決が容易な発明の進歩性を分析するときは、原因の解明も含めて技術水準に基づいて検討する。解決手段を考えることが当業者にとって容易であるという理由だけでは進歩性を否定することができない。」)

一方、米国の審査基準(MPEP)(MANUAL OF PATENT EXAMINING PROCEDURE)では、「2142: Legal Concept of Prima Facie Obviousness [R-6]」に「However, impermissible hindsight must be avoided and the legal conclusion must be reached on the basis of the facts gleaned from the prior art.」(...許容できない後知恵は防止しなければならず、法律的結論は先行技術から収集した事実に基づいて下さなければならない)と記載され、「後知恵」の防止に関する規定が存在します。

なお、米国の審査基準では、「後知恵」を防止する観点から、prima facie obviousness(一応の自明性)が成立する要件には以下の2項目が含まれています:
(1)TSMテスト(teaching, suggestion, or motivation test)(「2143.01: Suggestion or Motivation To Modify the References [R-6]」などを参照)と
(2)reasonable expectation of success(成功するという合理的な期待)(「2143.02: Reasonable Expectation of Success Is Required [R-6]」などを参照)。

また、EPOの審査基準(Guidelines for Examination in the EPO)では、「C_IV_11.9.2: "ex post facto" analysis; surprising technical advantage」と「C_IV_11.7.3: Could-would approach」に「事後分析("ex post facto" analysis)」(後知恵)の防止に関する規定が存在します。〕

「後知恵」に関する考察

上記のような一種の「戒め」の存在からも分かる通り、国を問わず、特許庁の審査官にとって最大のタブーの一つが、いわゆる「後知恵」(hindsight)に基づく拒絶を出してしまうことです。

「後知恵」は、進歩性(非自明性)の判断において問題になることが多く、「後知恵」による進歩性欠如の拒絶の説明で、しばしば引き合いに出されるのが有名な「コロンブスの卵」です。要するに、以前には誰にも成されていなかった発明に対して、最初に発明したことの価値を無視して、後から結果が容易に見えることのみに基づいて評価してしまうのが、「後知恵」による拒絶です。

しかし、考えてみれば、審査官が審査に先立って先行技術文献をサーチする際には、当然に本発明の内容を頭に入れてそれを基準にしてサーチするわけですのですので、そこには必然的に「後知恵」のバイアスがかかります。そして、そのようにしてサーチしてきた先行技術文献に対する発明の特許性を評価する段に至っては、その「後知恵」に基づく色眼鏡を外して、サーチを行った審査官自身にとってではなく、発明がなされた当時の「当業者」にとって発明が容易であったということを、充分な根拠をもって「理論付け」することが出来るか否かを検討します。

一般人には、この「色眼鏡」を外すことが難しいのですが、特許庁の審査官は必ず「色眼鏡」を外して発明と先行技術の関係を評価することが要求されます。

そして、その「理論付け」の根拠が一応、一見して充分なものであれば、「後知恵」はないことになり、もしもその「理論付け」の根拠が全く無い若しくは明らかに不充分であれば「後知恵」による拒絶ということになります(ただし、欧米・日本・韓国などの先進国では後者の状況は通常はごく稀にしか生じません)。

しかし、実際は、「理論付け」が充分かどうか自体についての純粋に客観的な判断基準はないわけですので、多くの場合の、ある意味では、拒絶理由にはほとんど必然的に「後知恵」的な要素が存在し得るとも言えます。この点に関連して、米国Albany Law Schoolの教授が、陪審を想定して一般市民400人を対象に、hingsightの影響についての調査を行ったところ、事前に本発明の知識を有していた人が、その発明を自明と判断する確率は、本発明の予備知識がなかった人の場合と比較して約2倍であり、TSMテストやGrahamテストに従って、判断させても結果はそれほど変わらなかったそうです。

また、発明の技術は出願時からの時間経過ともに陳腐化しますので、一般に、「後知恵」による判断が生じるリスクは出願時から経時的に増加してゆく傾向があると考えられています。つまり、出願時には「とても意外な知見」に基づくとの印象を与える発明であっても、審査の時点、さらには裁判の時点というように、時間の経過にともない、「意外な知見」との印象はどんどん減少していき、したがって、「後知恵」による判断の生じるリスクが高まると考えられています。

このように、ある意味で、拒絶理由にはほとんど必然的に「後知恵」的な要素が存在し得ると考えられ、更に、「後知恵」による判断が生じるリスクは出願時から経時的に増大してゆく傾向があると考えられます。

そして、一旦、拒絶理由を受けてしまえば、如何にその理由が「後知恵」に基づくように見えたとしても、単に「後知恵」のみを主張して拒絶が撤回されることは殆ど無いと言って良く、結局は、出願人が発明の新規性・進歩性(非自明性)を明確にすることが必要になります。

要するに、如何に「後知恵」に基づくと思われる拒絶であっても、拒絶を受けてから「後知恵だ」と主張しても「後の祭り」であり、予め「後知恵」に基づく拒絶を受けないよう、明細書作成の段階で準備をしておくことが肝心であると考えます。

「後知恵」に基づく拒絶を未然に防止するための明細書

一般的な考え方

「後知恵」に基づく拒絶を未然に防止するための明細書とは、一言で言ってしまえば、先行技術に対する新規性・進歩性(非自明性)が明確に示されている明細書ということになります。

要するに、格別な手段が有るわけではないのですが、特に一見して先行技術との構成上の違いが小さい発明は、「後知恵」による進歩性欠如(自明性)の拒絶を受け易いので、発明の構成の困難性(先行技術同士若しくは先行技術と周知技術を組み合わせることに関する困難性)や予想外の効果などについて強調しておくとよいでしょう。

実際には、この点の対応が充分でない明細書を目にすることが良くあります。特に発明者の方は、発明が属する特定の技術分野の専門家ですから、自分では構成上の小さな改変にも困難性を伴うことを良く認識しており、それを当然のことと考えてしまい、専門外の第三者にとっては容易に見えるかもしれないという認識が無い場合が少なくありません。この様なことが原因となって、進歩性(非自明性)が明確に読み取れない明細書となってしまうのだと思います。

したがって、これは、弁理士や特許技術者の仕事の範疇とも言えますが、明細書を書く際に、発明が属する特定分野の専門知識が無い第三者にとって、発明がどのように解釈されるかを客観的にイメージすることが非常に重要です。客観的な視点からの配慮を欠いた明細書での出願は、後知恵に基づく拒絶を受けやすいと言えます。

具体的には、出願明細書において、本発明に最も近い先行技術から本発明に到達することについての困難性や予想外の効果が得られることが直感的に理解できるようなポイントを、発明の課題と解決手段の項目などで、要領よく説明しておけば、「後知恵」による拒絶を未然に防止できることがあります。また、ポイントさえ巧みに述べてあれば、拒絶を受けても、それをベースにして、意見書で大幅に詳しい説明にすることが容易になります。

特に効果の話となると、米国を除く多くの国において、出願時の明細書に教示も示唆もされていないような効果について、出願後の審査の段階で主張しても考慮されませんので、出願時に何らかの記載を含めることが重要です。

具体例と注意事項

たとえば、公知技術として、ある種のポリマーAの重合反応の特徴に着目して設計されたポリマーA製造用の重合反応装置があり、本発明は、その公知の重合反応装置を他のポリマーBの製造に適用した製造方法に関する発明である、という場合を例に取ります。

一般的には、化学分野など結果の予測が難しい分野においては、反応の原料が異なれば、適する反応方式や条件も異なるという一般的常識がありますが、審査官が、上記の重合反応装置をポリマーBの製造に適用することの容易性について何ら具体的な根拠を示さずに、「本発明で成功している」という結果を念頭において、公知の重合反応装置を他のポリマーに適用することなど当たり前などという理由で拒絶をしたならば、この拒絶は「後知恵」に基づくものと言えるかも知れません。

しかし、具体的な証拠の提示は無くとも、恐らく審査官は「異なる重合反応であっても、殆どの場合に、同じ反応装置が利用できることは周知」などを指摘してくるでしょう。それに対して、単に審査官の主張は、「後知恵」に基づく不当なものだと主張しても、通常、それだけでは審査官の判断が覆ることはなく、結局は、組み合わせの困難性や予想外の効果を明らかにすることが必要になると思います。

従って、「後知恵」の拒絶を防止し、またそのような拒絶を受けても効率的に拒絶を撤回させるためには、やはり出願明細書において、発明の構成の困難性や効果の意外性などを分かり易く説明しておくということが最も有効です。

上記の例では、一見して、先行技術におけるポリマーAを、単にポリマーBに置換しただけという第一印象を受けると思います。そこで、進歩性を明らかにする為に特に有効な手段としては、例えば、以下のような点を明細書で強調しておくことが考えられます:

(1) 当業者が、ポリマーA製造用の重合反応装置をポリマーBの製造に適用することを阻害する要因(いわゆる「阻害要因」または「阻害事由」)(英語では"teach away")の存在があったことを明らかにする。

(2) 上記(1)を明らかにした上で、先行技術と同じ又は類似の効果(例えば、選択率や転化率の向上など)を証明する。

(3)先行技術には教示も示唆もされていなかったような効果を証明する。(例えば、先行技術において達成された効果が選択率と転化率の向上のみである時に、本発明ではポリマーBの重合で問題視されていた有毒な副生物の生成抑制が達成されることを証明するなど。)

上記(1)の阻害要因については、例えば、上記のポリマーAの重合に関する先行技術文献において、ポリマーAの重合反応の平衡定数の低さに着目して、上記の特定の重合装置を設計し、一定範囲以上の平衡定数を示す重合反応に、この重合装置を利用すると不都合が起きるという趣旨のことが記載されていたとしましょう。そこで、ポリマーBの重合反応の平衡定数が、上記先行技術に記載されている範囲より高ければ、阻害要因があったと言うことが出来ると思います。

上記(2)については、ポリマーAに関する上記先行技術において、上記の重合装置の使用により、選択率や転化率が向上し、本発明における効果も同様であり、且つ阻害要因も無かったということであれば、本発明の効果が意外なものとは認められない可能性が有ります。勿論、例外も有るでしょうが、阻害要因もなく且つ先行技術と同じ方向性の目的の発明ということであれば、一般的には、進歩性を認めさせるのが難しい場合が多いと思います。

一方、上記(3)のように、先行技術には教示も示唆されていなかったような効果であれば、意外な効果と認められる可能性が高いと思います。ただ、やはり、上記の例のように、一見して先行技術との構成上の差が小さい時には、阻害要因の存在を明らかにできることが理想的です。

実際に「後知恵」に基づくと思われる拒絶を受けた場合の対応

拒絶理由通への回答において「後知恵」を明示的に主張することは、審査官の判断能力を否定することに等しいため、心証の観点から、よほどの証拠(たとえば、審査官の拒絶理由の論理における明示的・致命的な欠陥の存在や、明らかな「阻害要因」の存在など)でもないかぎり、あまり露骨に「後知恵」を主張しないほうがよいのではないかと考えます。

多くの場合に望ましいアプローチとしては、「後知恵」には直接言及せずに、阻害要因などの議論をする中で、審査官自身が「後知恵」的な要素の存在を自然に自覚して改めてくれるように話しをもっていくというやり方が望ましいと考えます。

但し、担当の審査官が変った場合や、審判・訴訟手続きにおいて、審査官の判断や相手の主張に対して行うのであれば、この限りではありません。むしろ、「後知恵」を強力に主張することが得策の場合もあると考えます。また、近年の知財高裁判決の進歩性判断において「後知恵」が積極的に言及されることが増えていますので、裁判での「後知恵」の議論の有効性は増す傾向にあると考えられます
(たとえば、平成18年(行ケ)第10422号 審決取消請求事件
(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070330151919.pdf)
平成20年(行ケ)第10130号 審決取消請求事件
(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20081225160745.pdf)
平成20年(行ケ)第10096号 審決取消請求事件
(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090129104737.pdf)を参照。)

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