特許成立致

米国(6): 早期審査・審査促進(特許審査ハイウェイ(PPH)等)

米国には、多岐に亘る早期審査・審査促進に関する制度がありますが、それらの幾つかは非常にプラグマティックであり、お国柄が反映された興味深いものとなっています。例えば、優先審査(Prioritized Examination)は、$4,800という高額の費用を支払えば優先的に審査を行うというものであり、早期審査[MPEP708.02(a)に規定された審査促進プログラム(Accelerated Examination Program)]は、米国特許庁に代って出願人自らの責任で先行技術調査と特許性評価を行えば、早期に処理してもらえるというものです。また、2011年12月31日をもって終了してしまいましたが、未審査の出願を取下げることを条件に、別の出願1件について優先的に審査してもらえるという一種のバーター取引のような制度[Patent Application Exchange Program(出願交換プログラム)]も以前は存在しました。

具体的な要件や手続きについては詳細な説明がなされているサイトが多数存在しますので、ここでは各制度の特徴(メリット・デメリット)を中心に概要について説明致します。

[I] 優先審査(Prioritized Examination)制度

米国特許法改正法(Leahy-Smith America Invents Act: AIA)の発効とほぼ同時に導入された新しい制度です。

2011年9月26日以降に提出された出願について、この優先審査制度を利用すれば、平均で12ヶ月以内に最終的な審査結果(許可通知(Notice of Allowance)または最終拒絶(Final Rejection))が得られることになっています。(尚、この優先審査は"Track One"と称されておりますが、"Track Two"は通常審査であり、"Track Three"は通常より実体審査の開始を30ヵ月遅らせた審査のことを意味します。)

近年の米国特許庁における審査の遅延状況を考えると魅力的な制度では有りますが、この制度には以下のような制約やデメリットが有ります:

(1)優先審査の請求は、特許出願(パリ優先権主張出願、継続出願、分割出願を含む)若しくはRCEと同時に行うことが必要

(2)PCT経由の米国出願は対象外(但し、継続出願やRCEを行って、それと同時に優先審査を請求することは可能)

(3)費用が非常に高額である(米国特許庁に支払う申請料:Large entity $4800 、Small entity $2400)

(4)クレーム数に制限が有る(クレーム総数が30以下、且つ独立クレーム数が4以下)

(5)特許庁からのオフィスアクション(拒絶理由通知等)に対し、応答期間(3ヶ月)の延長を行った場合、優先審査の対象から外され、通常出願の取扱となる(費用の払い戻しは無し)

[II] 早期審査制度[MPEP708.02に規定された審査促進プログラム(Accelerated Examination Program)] 

2006年8月25日以降の出願について、早期審査制度[審査促進プログラム(Accelerated Examination Program)]を利用することもできます。こちらも、優先審査(Prioritized Examination)の場合と同様に、平均して12ヶ月以内に最終的な審査結果(許可通知(Notice of Allowance)または最終拒絶(Final Rejection))が得られることになっております。

対象となる出願や申請のタイミングは、上記の優先審査とほぼ同様(但し、RCE提出と同時に請求することはできない)ですが、優先審査と比較して以下の様な相違点が有ります:

(1)特許庁に支払う申請料は$130と低額(優先審査では、$4,800(Large Entity))

(2)クレーム数の制約が、上記優先審査の場合より若干厳しい(クレーム総数が20以下且つ独立クレーム数が3以下)

(3)出願人は、先行技術調査を行い、出願と同時に、特許性を明らかにした早期審査補助文書(Accelerated Examination Support Document)を提出することが必要

(4)特許庁からのオフィスアクション(拒絶理由通知等)に対して30日以内に応答することが必要。期間延長は原則として認められず、期限を徒過すると出願放棄となる

特に(3)の出願人による先行技術調査と早期審査補助文書(Accelerated Examination Support Document)の作成に要する手間と費用、並びに提出した情報に漏れが合った際にInequitable Conduct(不衡平行為)によって権利行使不能(unenforceable)となるリスクの観点から、この手続きの制度の利用に対するネガティブな意見も多く聞かれます。(絶対に利用すべきではないと強く主張している米国の弁護士もいるようです。)

尚、この審査促進プログラムについて、以下の場合には、申請により(1)の費用が免除されます:

- 発明者の少なくとも1人が、病気又は65歳以上の場合

- 発明が、環境改善(environmental quality)、エネルギー資源の開発又は省エネルギー(development or conservation of energy resources)、対テロリズム(countering terrorism)に関するものの場合

[注:しばしば誤解されている方がいらっしゃるようですので、念のために指摘しておきますと、MPEP 708.02のサブセクションI-II及びV-XII(製造の予定や侵害されている等の事情や組み換えDNA、超伝導など特殊発明に関する要件)は、2006年8月25日以前の申請に関する要件であり、現時点での請求には適用されません。]

上記のことから分かる通り、優先審査及び早期審査は、コスト、手間、リスクの観点から、気軽に利用できる制度とは言い難いものとなっています。

日本において既に所望の権利範囲で特許許可されているならば、日本の審査結果に基づく審査促進を可能にするPPHが、最適なオプションの1つとして検討に値すると思われます。

[III] 特許審査ハイウェイ(PPH)

日米間では、平成20年1月4日から、日米特許審査ハイウェイ(PPH)を本格実施しています。データ的には、日本-米国PPHの適用を受けた場合の許可率は約95%と言われております。(http://www.vennershipley.co.uk/show-news-id-202.html

[III-1] PPHの概要

PPHとは、他国の審査結果又はPCTの調査成果に基づいて審査促進(早期審査)をするものです。これに関して、PPHを利用すると、日本で特許査定になったら、その結果をもって直ちに米国でも特許が取得出来るとお考えの方が多いようですが、そうではありません。あくまで日本の審査結果を利用して審査促進するというものです。結果的に、特許成立する確率は高いですが、例えば米国特許庁(USPTO)は、他国の審査結果に従うことを要求されたり推奨されたりするものではありません。

弊所で、USPTOにPPHを申請した件では、USPTOが日本では引かれなかった新たな先行技術文献を引いてきたり、日本で既に考慮された先行技術文献に基づいた新たな拒絶理由を提示してきたことも有りました。そのような件でも、結果的には通常審査よりも早期に特許成立致しましたが、USPTOが、他国の審査結果に従い直ちに特許許可するとは限らないということは念頭に入れておく必要があります。

PPHの申請に関する情報は、日本特許庁のホームページに公開されています。(http://www.jpo.go.jp/torikumi/t_torikumi/highway_pilot_program.htm

[III-2] 日本国特許庁の国内出願の審査結果を利用した特許審査ハイウェイ(PPH)の適用をうけるための条件

PPHの適用をうけるための条件を簡単に纏めますと以下の通りです。

(1) 日本出願と米国出願の対応関係について:

 PPHの適用が可能な日本出願と米国出願の対応関係は大きく分けて以下の3通りになります。
 - 米国出願と日本出願のどちらかが他方の優先権出願である(米国出願又は日本出願がPCT経由の出願である場合を含む)。
 - 米国、日本以外の第三国における出願が、米国出願と日本出願の共通の優先権出願である(米国出願又は米国出願と日本出願の両方がPCT経由の出願である場合を含む)。
 - 米国出願と日本出願とが、共通のPCT出願から派生したものである(ここでPCT出願は、優先権主張していないものや米国及び日本以外の国における出願に基づく優先権を主張しているものも含む)。

尚、米国出願が優先権出願である場合、この出願は仮出願であっても構いません。

また、PCT経由の米国出願で、国際調査機関(JPO又はUSPTO)又は国際予備審査機関(JPO又はUSPTO)が、PCT出願の請求項の特許性に関して肯定的な見解を示した場合には、それに基づいてPPH(PCT-PPH試行プログラム)を申請することも可能です。より具体的には、PCT出願における少なくとも一つの請求項が新規性、進歩性、そして産業上の利用可能性を有することを示す、国際調査機関(JPO又はUSPTO)又は国際予備審査機関(JPO又はUSPTO)の見解書若しくは国際予備審査機関(JPO又はUSPTO)の国際予備審査報告に基づいてPPHを申請することが可能です。詳細につきましては、日本特許庁のホームページに提供されている以下の資料をご参考下さい: http://www.jpo.go.jp/torikumi/t_torikumi/pdf/patent_highway/after_uspto_japanese_kai.pdf

このPCT-PPH試行プログラムは、2012年1月28 日に終了する予定であり、現時点では試行期間延長や本格実施についての情報はありません。

(2) JPOによる特許性判断:

日本出願の少なくとも一つの請求項が、JPOによって特許可能と判断されていなければなりません。

(3) 日本出願の請求項と米国出願の請求項の対応関係:

PPHに基づく審査を申請する米国出願のすべての請求項が、対応する日本出願の特許可能と判断された一又は複数の請求項と十分に対応しているか、十分に対応するように補正されていることが必要です。尚、米国該出願の請求項の範囲が日本出願の請求項の範囲より狭い場合も、請求項は「十分に対応」するとみなされます。

(4) PPH申請可能な時期:

PPHに基づく審査を申請する米国出願は、USPTOによる審査が開始されていない必要があります。

尚、親出願において認められたPPHプログラムへの参加申出及び特別な地位は、継続出願には引き継がれません。継続出願も独自に上記(1)~(4)の要件を満たす必要があります。

[III-3] PPH申請時に提出する書類

PPHの申請書と共にJPOによる審査に関する以下の書類を提出する必要があります。

(1) 許可になった請求項及びその英訳文

(2) 日本出願の「特許査定」の直前の日本出願の審査通知(すなわち、最新の「拒絶理由通知書」)の写と、その英訳文(最初の審査通知が特許査定である場合には、特許査定の翻訳文は不要で、最初の審査通知が特許査定であった旨を説明する)

(3) JPOの審査通知においてJPOの審査官により引用された文献[情報開示申告書(IDS)として提出]

(4) 日本出願と米国出願の請求項の対応表

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二次的考慮事項(Secondary Consideration)の主張:商業的成功(Commercial Success)

商業的成功(Commercial Success)

進歩性(非自明性)欠如の拒絶に対する対応のアプローチの一つとして、商業的成功(Commercial Success)の主張についてこちらで説明いたしましたが、今回は、その具体例を1つ挙げたいと思います。

化学反応用の触媒の発明においては、「得られる化合物の収率において、本発明の触媒と従来技術の触媒との間に僅か1%前後ほどの差しかないが、この一見して「僅かな差」でも商業的には非常に重要であり、実は「高収率」と評価すべきものであり、したがって本発明には進歩性がある」という状況があり得ます。そして、この場合、審査官から、収率において一見して「僅かな差」しかないことを指摘されて進歩性を否定される場合があります。そのような拒絶理由を受けた場合には、収率の「僅かな」向上でも商業的には重要であることを審査官に分かりやすく説明する必要があります。

参考までに、上記のような拒絶理由に対して、実際に弊所で作成・提出した意見書において述べた議論の例を以下にご紹介します。これは韓国特許庁による拒絶に対して行った主張ですが、この主張が認められて特許成立致しました。また、対応の米国特許出願も同様の理由で拒絶を受けましたが、以下の主張内容を、37 C.F.R. § 1.132に基づく宣誓供述書の形式で提出した結果、特許性を認められました。(なお、以下の例では、発明の効果として「高収率」と「工業的使用に適した高い耐摩耗強度」を主張したものですが、以下では、詳細説明としては、「高収率」に関するものだけを示します。)

「上記のように、アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの製造においては、目的生成物の収率が高く、また工業的使用に適した高い耐摩耗強度を有する触媒の開発が従来望まれており、本発明はそれを達成したものであるが、ここでいう「高収率」や「工業的使用に適した高い耐摩耗強度」の具体的な意味について以下に説明する。

まず、収率は、少しでも向上することが望まれる。その理由について以下に説明する。

石油化学工業においては、取扱量(即ち原料物質の量および目的生成物の量)が莫大である。従って反応工程の合理化や生産コストの低減などを目的として、少しでも高い収率を有する触媒が求められる。特に本願発明の触媒を用いる、アクリロニトリルやメタクリロニトリルの製造用の大規模(商業的規模)プラントにおけるプロセスでは、収率が例えば僅か0.1%増加した場合でも、1つのプラントで得られる生成物の生産量は年間数百トン規模で増加する。従って、収率などの触媒性能はたとえ僅かな向上であっても、石化資源の有効活用や製造の合理化に大きく寄与できる。以下、この点について具体的に説明する。

一般に、日本国内における通常のアクリロニトリル製造プラントの年間生産量は1プラント当たり約10万~30万トンである。例えば年間生産規模が約10万トンのプラントの場合、本願明細書の比較例3のようにアクリロニトリルの収率が84.0%であるとすると、原料として必要なプロピレンの量は下記式によって求めることができる。

(プロピレン量):100,000(トン/年)/53/0.84 42 = 94,300(トン/年) (1) (上記式(1)中、「53」はアクリロニトリルの分子量であり、「42」はプロピレンの分子量である。)

これに対し、本願明細書の実施例2のようにアクリロニトリルの収率を84.2%とする(即ち比較例3におけるよりも0.2%向上する)と、原料として必要なプロピレンの量は下記式によって求めることができる。

(プロピレン量):100,000(トン/年)/53/0.842 42 = 94,100(トン/年) (2) (上記式(2)中、「53」及び「42」は上記式(1)におけるのと同じ)

従って、年間生産量10万トンのアクリロニトリル製造プラントにおいては、収率が僅か0.2%向上することにより、原料プロピレンの量を、94,300(トン/年)-94,100(トン/年)= 約200(トン/年)も削減することが可能になる。これは大変な量であり、これをコストに換算すると、その削減効果は、プロピレン取引価格(極東アジア市況2006年10月実績)が(約14万円/トン;ドル換算で$1,185/トン)なので(14万円/トン) 200(トン/年)=2,800万円/年(ドル換算で$237,000/年)にもなる。(注:上記の「約14万円」は、「$1,185」から、円ドル為替レート「118.5円/$」で円換算した値(1,185×118.5=140,422.5円)から端数422.5を切り捨てた値である。後述のアクリロニトリル取引価格についても同様である。)(なお、原料には他にアンモニアもあり、それも節約できるが、簡便のためここでは考慮に入れない。)

さらに、これが例えば本願明細書の比較例5のようにアクリロニトリル収率が82.5%である場合と、本願明細書の実施例4のようにアクリロニトリル収率が84.5%である場合とに当てはめて比較すると、その収率の差は2.0%なので、200(トン/年) 10 =2,000(トン/年)の原料プロピレン量削減となり、従って、実施例4の触媒を使用する場合は、比較例5の触媒を使用する場合と比較して、2,800万円/年(ドル換算で$237,000/年) 10 = 28,000万円(=2.8億円)/年(ドル換算で$2,370,000/年)ものコスト削減になる。

別な見方をすれば、触媒を用いた場合の目的生成物の収率を少しでも高めることにより、使用する原料の量を変えずに、アクリロニトリルを増産できることになる。例えば、94,300(トン/年)の原料プロピレンからは、上記式(1)のように収率が84.0%のとき、10万トン/年のアクリロニトリルが製造される。一方、収率が84.2%に向上(0.2%向上)した場合、同じ94,300(トン/年)の原料プロピレンからは、100,200(トン/年)のアクリロニトリルが製造できる。この値は、下記式(3)によって求められる。

(アクリロニトリル量):94,300(トン/年)/42 0.842 53 = 100,200(トン/年)(3) (上記式(3)中、「42」はプロピレンの分子量であり、「53」はアクリロニトリルの分子量である。)

即ち、0.2%の収率向上に伴う生産増分は100,200(トン/年)-100,000(トン/年)= 200(トン/年)である。これを売上高ベースでみた場合、現在のアクリロニトリル取引価格(極東アジア市況20XX年X月実績)を約19.3万円/トン(ドル換算で$1,630/トン)とすると、19.3万円/トン($1,630/トン) 200(トン/年)=3,860万円/年($326,000/年)の売上高増となる。そして、収率が2.0%向上した場合は、上記売上高増分の10倍、即ち3.86億円/年($3,260,000/年)の売上高増となる。

さらに、原料プロピレンの量を削減することは、反応に伴う温室ガス(CO2)の排出量削減にもつながり、環境保護の面でも貢献できる。約200(トン/年)の原料プロピレンを削減することにより、約 630(トン/年)の温室ガス(全てCO2になると仮定した場合)の排出を抑制できる。上記の排出削減量(約 630(トン/年))は、下記式(4)によって求められる。

(温室ガス量): (200(トン/年)/42) 44 3 = 630(トン/年) (4) (上記式(4)中、「42」はプロピレンの分子量であり、「44」はCO2の分子量、そして「3」はプロピレン1分子から生成するCO2の分子数である。)

上記から明らかなように、取扱規模の莫大なアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの製造においては、僅か0.1%や0.2%の収率の向上が、数百トン規模以上の原料プロピレン使用量の削減または目的生成物生産量の増加、あるいは数千万円(または数十万ドル)規模以上の原料コスト削減または売上高の増加に貢献する。このように、僅かでも収率が向上することは工業的生産においは極めて大きな商業的成功(commercial success)につながるものであり、殊に最近のような原油市場の置かれている厳しい現状に鑑みれば、この効果は一層重要なものとなる。(また、環境保護にも大いに貢献する。)

このようなわけで、アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの製造においては、目的生成物の収率はたとえ0.1%でも向上することが切望されている。」

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