無関係

欧州(7): 異議申立手続き

欧州特許出願が許可になった後、第三者は特許異議申立(Opposition)をすることが可能です。

この異議申立手続きの結論は、”特許取消し”か”特許維持”か(revocation or maintenance of the European patent)ということになります。統計的には、異議申立を受けた件の約1/3が特許取り消しになっております。

この異議申立手続きで特許取消しとなった場合、当然、EPC経由での加盟国への登録は出来ません。

また、欧州特許庁(EPO)での異議申立手続きにおいて特許維持との結論を得ても、登録先の国で特許無効訴訟を提起されることがあり得ます。そのような場合は、各国の国内法に従い、特許の有効・無効が争われ、EPOの異議決定とは矛盾する結論となることもあり得ます。

日本にもかつては異議申立制度が存在しましたが、2003年に廃止されてしまいました。

現在、日本や米国にも第三者が特許の無効を訴える制度はあります。[*日本では特許無効審判、米国では当事者系(Inter partes)再審査制度がある。米国では、2013年より、欧州の異議申立制度に近い付与後異議申立制度を導入する予定。] 日本や米国においては、少なくとも特許の存続期間中であればいつでも特許無効を訴えることができますが、欧州特許に対する異議申立てには「欧州特許を付与する旨の公告後9月以内」という期限が設定されております。この期限が過ぎてしまうと、欧州特許が登録された各指定国において個別に無効訴訟などを起こさなければならなくなるので、多くの企業はライバル会社の欧州特許出願で特許成立すると障害となる恐れがあるものについては、経緯を監視して、欧州特許庁に許可されたら異議を申立てるということをしております。

特許異議申立期間

欧州特許掲載公報発行の日から9ヶ月の異議申立期間内に異議申立書(申請書のみならず異議理由も含む)を提出し、異議申立手数料[745ユーロ(10万円弱)]を納付します。

特許異議申立申請の有資格者

特許権者以外の誰でも異議申立をすることができ、対象の特許との利害関係などを明らかにする必要はありません。異議申立人が、企業名等を伏せるために、ダミー(Straw man)名義での異議申立することも可能です。

特許異議申立理由

以下の理由に基づいて、異議申立することができます。

- 特許性(新規性、進歩性、主題適格性、産業上の利用可能性)の欠如。

- 実施可能要件違反(当業者が実施可能な程度に発明が記載されていない)。

- 特許が、出願当初の明細書に開示されていなかった主題を含む(新規事項の導入)。

不明瞭性や単一性の欠如は異議理由としては採用されません。

異議部(Opposition Division)の構成

通常、EPO異議部は、3人の審査官で構成される合議体であり、この内2人は、審査に関与していなかったことが要求されます。そして、この審査に関与しなかった2人の審査官の内の一方が議長(Chairman)を務めます。

異議手続きの流れ

多くの場合、当事者により口頭審理が請求されますので、口頭審理が請求された場合の典型的な手続きの流れを示します。

1. 異議申立書を特許権者に通知

2. 異議申立ての方式審査(修正可能な方式上の不備が有る場合には、異議申立人は修正を促され、修正不能な方式上の不備が有る場合には、異議申立ては却下される)

3. 異議申立に対する特許権者の答弁書の提出期限(通常、4ヶ月)を知らせる通知

4. 特許権者の答弁書提出(提出しなくても、そのことにより直ちに特許取消しにはならない)

5. その後、通常、何度か異議申立人と特許権者による提出物の応酬があり、異議部が適切と判断した時期に口頭審理の召喚状を当事者に送付(多くの場合、異議部の予備見解が添付される。また、口頭審理前の書面提出の期限(通常、口頭審理の2ヶ月前)が設定される)

6. 特許権者及び/又は異議申立人による、口頭審理前の準備書面提出

7. 口頭審理が行われ、その場で異議決定の言い渡し

8. 口頭審理の1~2ヶ月後に書面での異議決定送付

Main Request(主請求)とAuxiliary Request(副請求)

特許権者は、複数セットのクレームを提出し、それをEPOに検討させることができます。

より具体的には、第一希望のクレームセットを"Main Request"(主請求)として提出し、第二希望以降のクレームセットを"Auxiliary Request"(副請求)として提出することができます。

Main Requestとしては、1セットのクレームしか提出することができませんが、Auxiliary Requestは複数提出することができます。Auxiliary Requestを複数提出する場合には、Auxiliary Request 1, Auxiliary Request 2.....の様に番号付けし、EPOは番号の若い方から優先的に検討します。

上記した通り、補正による新規事項も異議理由になりますので、補正が新規事項を導入するものであると判断されると、それが理由で特許取消しになってしまいますので、補正には注意が必要です。

また、異議理由に無関係な補正を行うと、例えそれが従属クレームに関するものであっても、補正全体が却下される可能性があります(Rule 80 EPC)。

口頭審理(Oral Proceedings)

口頭審理の請求

異議申立手続きでは、通常、当事者の一方又は両方が口頭審理(Oral Proceedings)を要求します。

口頭審理の召喚状(Summons)と異議部の予備見解

通常、異議申立から1.5年~3年位に口頭審理への召喚状を受けます。そして、この召喚状には、異議部の予備的見解が添付されていることが有ります。

通常、口頭審理の前に期限を切って(通常は口頭審理の2ヶ月前)、新たな書面(証拠、議論、補正クレーム(主請求、副請求)など)の提出を認めています。

その日以後の提出物に関しては、所謂”late-file”とみなされ、EPOはこれを考慮する義務を有しませんが、証拠の関連性などによっては考慮される場合が有ります。

口頭審理の実施

所用時間: EPOにおいて、通常は終日行われますが、簡単な案件は、半日で終わることもあります。また、逆に異議申立人が複数の場合など、数日にわたって行われることもあります。

出席者: 口頭審理には、前もってEPOに知らせておけば、基本的には誰でも出席することは出来ますが、発言を許される人は制限されます。例えば、出願人企業の知的財産部の方なども出席できますが、確実に発言権を確保するためには事前に技術の専門家(Technical Expert)であることをEPOに通知しておくことが望ましいです。

言語: 口頭審理は原則的に特許明細書が作成された言語で行われますますが、要請があればそれ以外の公用語への同時通訳が許されます。

補正: 口頭審理中に、補正の機会が与えられることがあります。多くの場合、口頭審理中に休憩時間が設けられ、この休憩時間中に、代理人が特許権者と相談しながら補正クレームを作成するということがよく行われます。

異議決定: 異議決定は、殆どの場合、口頭審理の最後に言い渡され、書面での決定書は通常1~2ヶ月後に送達されます。

審判(Appeal)

異議部の決定に不服の当事者は、審判請求書を決定通知の日から2ヶ月以内、審判理由補充書を書面による決定書通知の日から4ヶ月以内に提出できます。これらの期間は延長不可です。

 

尚、井上&アソシエイツは、欧州の異議申立て手続きに関しては、受ける方も攻撃する方も経験豊富です。これまでに数多くの異議申立て事件に携わり、理由書、答弁書、弁駁書などを作成して参りました。通常、欧州代理人は、弊所で作成した原稿をほぼそのまま採用して提出します。そして、守る方、攻撃する方のいずれも好成績を収めております。お客様から具体的な指示を頂かずに、基本的な方針決定から具体的な証拠準備も含めて弊所で全て行ってしまうというようなことも屡々です。欧州での異議申立て手続の対応に苦慮されているというようなことがございましたら、是非、経験と実績が豊富な井上&アソシエイツにご相談下さい。

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医療・バイオ関連発明の方法クレームについて

医療・バイオ関連発明の方法クレームの書き方(1): 日本出願の場合

米国とオーストラリア以外の諸外国では、人体を対象とした「手術方法」、「治療方法」や「診断方法」は特許の対象にはなりません。治療に用いることを直接的に意図した発明でなくとも、人体に作用する工程を含むような発明も、治療方法や手術方法とみなされて拒絶されるケースは少なくありません。そのため、医療・バイオ関連発明の出願において方法のクレームを作製する場合には、以下の点に注意する必要があります。

(1)ヒトを対象とした方法は特許の対象にならないが、動物を対象とした方法は特許の対象になる。しかし、「ヒト」も「動物」の1種なので、「ヒト以外の動物」と明示する必要がある。

(2)生体内で行う方法は特許の対象にならないが、in vitro(試験管内)で行う方法は特許の対象になる。可能であれば、in vitroの方法であることを明示する。

(3)医師の行う作業、例えば、人体からの試料の採取や、人体への薬品の投与、病気の判断については記載しない。

(4)医師などによる装置の操作は記載せず、装置そのものの動作として記載する。

特にクレームの書き方に注意の必要な発明としては、次のものが挙げられます。

 ・生体由来の細胞や組織などの処理方法に特徴のある発明

 ・医療機器の作動方法

 ・アシスト機器技術関連発明

・ 生体由来の細胞や組織などの処理方法に特徴のある発明

生体由来の細胞や組織などの処理方法に特徴のある発明の典型的な例としては、血液透析の方法(人体から血液を取り出し、有害物質を除去し、同一人に戻す方法)が挙げられますが、このように、人体から採取したものを同一人に治療のために戻すことを前提とした方法は、例え、人体から試料を採取する工程に関する記載がなくとも、原則として特許の対象にはなりません。

しかし、このような技術の例外として、自家採取物を用いた医薬品または医療材料の製造方法は、製造した医薬品を、原料を採取した者と同一人に治療のために投与することが前提になっていても、特許の対象となります。例えば、「Xタンパク質をコードするベクターをヒトに投与する遺伝子治療方法」はヒトにベクターを投与するという行為が「手術・治療方法」に該当するため特許の対象外ですが、「人体から採取した細胞に、Xタンパク質をコードするベクターを導入する、遺伝子治療用細胞製剤の製造方法」は特許の対象になります。同様に、ヒトから採取した細胞を用いた ①分化誘導技術、②分離・純化技術、③安全性の検査技術等の再生医療に必要な技術も特許の対象です。

・ 医療機器の作動方法

医療機器そのものは物の発明として特許の対象になりますが、その作動方法も特許の対象になります。例えば、「内視鏡による体腔内の観察方法」は、体腔内の観察という行為が「手術・治療方法」に該当するため特許の対象外ですが、「内視鏡の作動方法」は特許の対象です。このような場合、医師の行う操作に関する記載(例:「操作者が回転指示器を操作する」)は認められませんが、装置の動作に関する記載(例:「回転指示信号に応じて回転指示器が作動する」)は認められます。

・ アシスト機器技術関連発明

介護ロボットや歩行補助装置のようなアシスト機器技術関連発明について方法のクレームを作成する場合には、発明の性質上、人体の状態の判定(例:「歩行の状態を判定する」)や、人体への作用工程(例:「作業者の作業負担を軽減する」)に関する表現が必要になります。この分野の発明については、医療(例えば、リハビリ)を目的とした発明は特許の態様にはなりませんが、医療目的ではない発明(例えば、重労働を行う作業者の支援用)の場合には、機器による判定や作用が人間を手術、治療または診断する方法に該当しないことは明らかなため、上述のような表現を用いたとしても、特許対象外とみなされることはありません。

医療・バイオ関連発明の方法クレームの書き方(2): 欧州出願の場合

欧州特許法第53(c)では、手術や治療によってヒトや動物を処置する方法は特許の対象にはならないと規定されています。具体的には、医療従事者の行う作業は全て「手術や治療のための方法」に該当すると考えられており、例えば、単純な注射を行う工程が1つでも発明の方法に含まれていたら、特許の対象になりません。こういった欧州における「手術や治療のための方法」の定義は厳しすぎるという声もあり、2010年2月16日付の欧州特許庁(EPO)の拡大審判部による審決(G1/07)によって、新たな基準が設けられました。

G1/07において拡大審判部は、「心臓への造影剤の注入」という工程を含むMRIによる撮像方法について、「心臓への造影剤の注入」という工程は「生体に対する処置方法」に該当するため、この撮像方法は特許による保護の対象にならないと判断しました。しかしながら、この判断について、「手術や治療の実施が健康被害のリスクを伴うため、医療従事者の介入が必要な方法」のみを特許による保護の対象外とすべきであると結論付けています。

つまり、単に医療現場で実施される方法であるという理由だけでは、特許の対象外にはならないと判断しています。そこで問題になるのは、発明の生体に対する安全性や侵襲性ですが、これらの点については特に判断基準は設けられていません。現状では、特許の対象となる方法の発明をあまり拡大解釈することはできませんが、以下の方法は特許による保護の対象になると考えられます。

・生体を対象とした行為であっても、安全で日常的な技術であれば、そのような行為を含む方法も特許の対象となる。

・非治療的な薬品の投与を含む方法(但し、投与方法に伴う健康リスクがあるものは特許の対象としない)

・装置の運転方法のみに係わる発明であって、装置が人体に与える効果とは無関係の発明

・生体を対象としているが、健康被害が問題とならない行為(例えば、動物の屠殺)を含む方法

医療・バイオ関連発明の方法クレームの書き方(3): 米国出願の場合

米国では、人体を対象とした「手術方法」、「治療方法」や「診断方法」は特許の対象になります。また、米国の特許法には日本や欧州には存在する倫理規定のようなものも存在しないため、人体に作用する工程を含む発明が特許の対象にならないと判断されることはありません。(しかし、当然のことですが、特許として認められるかどうかは又別の問題です。)

米国出願において注意しなければならない点は、公知物質に基づく「物」の発明(例えば、公知物質の第2医薬用途に基づく製剤や、用法・用量に特徴のある製剤など)は特許対象外であるため、方法の発明として出願しなければならないという点です。

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