将来

新興国

更に、より将来を見越して投資的な観点から考えるならば、BRICsやNext 11などの新興国、特に中国の次の「世界の工場」として見込まれているインドやベトナムなどにも出願するということも考えられます。

特にインドは、中国と同様、近年、精力的に知的財産制度の整備を進めております。中国と同様、市場の規模が大きいので中国以外の新興国の中では当然注目度はNo.1です。しかし、模倣など知的財産軽視の国民性が問題となっている点も中国の場合と同じです。

また、世界7位の人口(約1億5千万人)を誇り、人件費も安いバングラディシュ(Next 11に含まれる)や、民主化が進むミャンマーも、近年、大いに注目を集めています。

課題1:出願明細書の質と出願コストのバランス

イニシャルコスト(出願時の費用)は一番分かり易いコストですので、これを低減しようとしがちですが、イニシャルコストの低減に力を入れすぎると、見かけ上は一時的にコストダウンが達成されるかも知れませんが、中・長期的な観点からは余計な経費が必要になったり、損失につながることが少なくありません。

特許が知財戦略における重要なツールであるならば、出願時は費用よりも明細書の質を優先すべきであると考えます。

質の高い明細書は、以下のようなメリットをもたらします。

 ① 中間費用(拒絶に対する対応など権利化までのコスト)の低減
 ② 特許不成立又は無効となるリスクの低下
 ③ 意図した範囲の特許保護
 ④ 意図した範囲の技術に関するライセンス料の回収

従って、出願明細書の質を向上させることは、長い目で見ればコスト削減や損失の防止にもつながるはずです。

 

課題1に対する弊所の対応

弊所の考えは上記の通り出願時はコストよりも明細書の質を重視すべきということですので、弊所が明細書の質を向上させるため心がけている点を列挙します。

外国出願の基礎となる最初の日本出願については、通常、明細書の質はある程度犠牲にしても早期に提出することが重要視されます。従って、外国出願する際には、明細書を徹底的に検討し直す必要が有るはずです。基本的なチェックポイントとして、例えば、以下のようなものが挙げられます。

開示要件について


(1)関連技術に関する周知・公知事項を把握した上で実施可能要件が満たされているか検討
(2)適切な用語が使用されているか(用語が不適切であるが故に、権利化や権利行使に支障を来たすことが少なくない)
(3)クレームされた発明が、明細書に充分サポートされているか

新規性・進歩性について

(4)再度の先行技術調査
(5)外国特許庁による審査結果の予想
(6)上記(5)に基づいて、対応案を提示(実施例・比較例の追加や審査段階において許容範囲内での減縮を可能にする記載の追加など)

また、発明が属する技術分野、クレームの形式(物、方法、プロダクト-バイ-プロセスなど)、発明の種類(用途発明、選択発明、特殊パラメータ発明など)及び出願する国による要求の違いも充分に考慮に入れた上で、外国出願用明細書を作成します。

いずれも当たり前のことではありますが、これらを適切に行うには豊富な経験が必要です。

井上&アソシエイツの担当者は、上記した通り、米国・欧州の特許庁による拒絶に対する回答書なども数百件とこなしてきた経験者ですので、外国出願用明細書に何が要求されるのか知り尽くしております。

質の高い明細書を作成することにかける熱意及び技術については、他の特許事務所に劣ることはありません。料金も標準的な範囲内であると思います。(以前は、お客様から「質は高いが料金も高い」と言われましたが、近年の不況により値下げし、現在は大手の特許事務所よりは安い位であると思います。しかし、書類の質については一切妥協致しません。)

弊所では、将来、特許成立するか否かを無視して、ただ出願するということは絶対に致しません。あらゆる状況を想定して、出願人の許容範囲で且つ確実に特許にできると確信した明細書で出願致します。

弊所は少数精鋭で、このような実務が可能であるスタッフのみが外国特許出願案件を担当致します。

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米国(2): RCE (Request for Continued Examination)

もう一つ米国特許制度の大きな特徴と言えるのが、RCE(Request for Continued Examination)の存在です。

RCEは、最後の審査通知(final office action)が出た後に、拒絶を克服できない場合に、継続審査を要求できる制度です。[*但し、意匠特許(design patent)や再審査中の特許に関しては、利用できません。]そしてこのRCEは出願が生きている間は何度でも請求することができます。(数年前に、米国特許庁がこのRCEの回数を制限するためのルール改正を行うことを発表したが、訴訟になり、結局は特許庁が敗訴してルール改正は無くなった。)

要するに、米国出願は、出願が生きている限り何度最後の拒絶を受けても許可になるまで何度でもチャレンジできるということになります。このような制度は、米国にしかありません。例えば、日本でしたら、特許性を否定され続けた場合には以下の経緯を辿ることになります。

日本の場合
最後の審査通知 → 拒絶査定 (特許庁審査部)

拒絶査定不服審判 (特許庁審判部)

知的財産高等裁判所への提訴

最高裁判所への上告

日本においても、裏技的な手段として、拒絶査定を受けたら分割出願を行うということもありますが、この場合、勿論、分割出願の請求項を親出願と同じにならないよう補正する必要があります。即ち、分割出願はあくまで新たな出願として審査されるのであって、米国のように審査が継続されるわけではありません。(日本では、もし仮に分割出願の請求項に親出願の審査において拒絶された発明が含まれていると、最初の審査通知であっても、最後の拒絶理由通知への応答の場合と同様に補正の制限が課される。要するに削除、減縮、誤記訂正、明瞭化の目的の補正のみが可能で、新たな特徴を付加するような補正は許可されない。)

欧州では、拒絶査定になってしまったら、欧州特許庁の審判部(Board of Appeal)における拒絶査定不服審判で争いますが、原則その先はありません。即ち、拒絶査定不服審判で特許性を認められないと特許は不成立ということになります。以前は、日本と同様に分割出願を行って延命するという方法があったのですが、2010年の法改正により、分割出願の時期と機会が制限され、拒絶査定を受けた際の延命措置としての分割出願は実質的に不可能になりました。

RCEが可能な時期

審査終結状態にある(prosecution is closed)が、出願が生きている段階であれば請求することができます。具体的には、例えば、以下のような状況で、RCEが可能です。

・ 最後の審査通知(Final Action)発行後で且つ出願放棄確定前

・ 許可通知(Notice of Allowance)発行後で且つ登録料納付前

・ USPTO審判部における審判係属中

審判請求書(Notice of Appeal)提出後に、RCEした場合には、審判請求は取り下げられたとみなされ、審査が再開されます。

審査中で最新の審査通知がfinalで無い場合には、RCEは認められません。

RCE申請手続き

RCEの申請は、料金(large entityで$930、small entitiyで$465)の支払いと共に、RCE申請フォームと以下の書類を提出することが必要です。

出願の状態 RCE請求時に提出する必要がある書類
最後の審査通知(Final Action)後 最後の審査通知に対する応答(既に提出済みの場合は、原則的に必要無し)
査定系クウェイル通知*(Ex Parte Quayle action)後  (*方式的不備を訂正すれば特許査定となる旨を通知するもの) Ex Parte Quayle actionに対する回答
許可通知(Notice of Allowance)後 IDS、補正、新たな議論、新たな証拠など
審判請求後 最後の審査通知に対する応答(例えば、提出済みの審判理由書や審判部の見解に対する答弁書における議論を援用する旨の上申書)


RCEを提出する状況で一番多いのは、Final Actionを受けて補正書、意見書、証拠などを提出したが、それが新たな争点(New Issue)を提起するものであって考慮出来ないとの指摘をUSPTOから受けて、その対応としてRCEを提出するという状況だと思います。そのような場合に、単に提出済み書類を考慮させたいのであれば、RCE申請フォームと料金を支払うだけで済みます。そしてRCEにより審査が再開され、審査官はFinal Action後に提出したクレームの補正や証拠を考慮した上で、non-finalの審査通知若しくは許可通知(Notice of Allowance)を発行します。

RCEに関する注意事項

場合によっては、折角RCEしたのに、RCE後の最初の審査通知がFinal(しかもRCE前のFinal Actionと同じ拒絶理由)となってしまうことも有りますので注意が必要です。

具体的には、以下の2つの要件が同時に満たされると、RCE後の最初の審査通知がFinal Actionとなってしまいます。

(1) RCE前のクレームとRCE後のクレームとが同一である。

(2) RCE後の審査における拒絶の理由がRCE前の審査における拒絶の理由と同一である。

このような状況になるのは、例えば、Final Actionに対して補正を行わず単に反論のみを提出した場合、Final Actionに対に対する回答が間に合わず、延命措置としてRCEを提出した場合などが挙げられます。

上記のような状況になる可能性がある場合には、RCEと同時若しくはRCE後、速やかに何らかの補正を提出するなどの手段を講じることが望ましいです。その際の補正は純粋に形式的なものでよく、例えば、得に重要でない特徴に関する従属クレームの追加などでも構いません。また、そのクレームが不要であれば、後で削除することもできます。

もしも補正や新たな証拠を提出する予定があるが、準備に暫く時間がかかるような場合には、RCEと同時又はその直後に審査の一時中断を申請する(Request for a 3-month Suspension of Action by the USPTO under 37 CFR 1.103 (c))ということも考えられます。

RCE制度の現状と今後

上記したようにRCEの回数を制限しようとするルール改正は断念されましたが、近年、別の手法でRCE制度の利用を抑制する方向の動きが見られます。

USPTOにおける処理スケジュール

1つは、2009年11月15日から導入されている新たな管理体制です。

以前は、原則として、審査官はRCE後2ヶ月以内にアクションを出すことが求められており、RCEにより、審査が大きく遅れるようなことはありませんでした。しかし、2009年11月15日以降は、RCEが請求された件は、“special new” docket に入れられることになり、そこでは「2ヶ月以内」という制約はなく、審査官は、自らの仕事の負荷に応じて比較的自由なスケジュールで処理することが許されています。

これに伴い、最近は、RCE後の処理の遅れが目立つようになってきています。米国特許庁のウェブサイトで提供されているPAIR(Patent Application Information Retrieval)システムで、出願の経過を確認することができますが、最近は、RCEを請求すると、その後 “Docketed New Case—Ready for Examination” という状態になったまま長らく動きが止まってしまいます。RCE後、半年以上経過してもアクションが出ないケースもあります。

RCE請求の手数料の値上げ

RCEを利用するために、米国特許庁へ支払う料金は、それが何回目の請求であるかに関わらず1回のRCEにつきlarge entityで$930、small entityで$465であったものが、2013年3月19日以降は、一回目のRCEの料金がlarge entity$1,200、small entity$600に、二回目以降のRCEの料金がlarge entity$1,700、small entity$850に値上げされます(2013年1月18日に公表された新料金)。

RCEを不要にする制度の試行

RCE等を利用せずに、審査の効率化を図る目的で以下のような試行プログラムが実施されています。

・ After Final Compact Prosecution (AFCP) 試行プログラム (試行期間:2013年5月18日まで(当初、2012年6月16日までの予定だったが延長された))

現行の規則に従えば、最終庁指令通知(Final Office Action)後に提出された補正や証拠を審査官に考慮させるためには、RCE等の手続きが必要になることが多いが、AFCP試行プログラムでは、Final後に提出された補正や新たな証拠について、限定的な(特許で約3時間、意匠で約1時間以内で済むような)検討や調査によって、該補正や証拠により特許査定できるとの判断が可能な場合、RCE等を行わずに補正や証拠を審査官に考慮させることが可能。

・ Quick Path Information Disclosure Statement (QPIDS)試行プログラム(試行期間:2013年9月30日まで(当初、2012年6月16日までの予定だったが延長された))

米国の現行のシステムにおいては、登録料支払い後にIDSを提出して考慮させる為には、RCEや継続出願が必要だが、QPIDS)試行プログラムでは、登録料支払い後にIDSをUSPTOに考慮させることが可能。


特にAFCPは、試行期間が延長されましたが、出願人や実務者にとって非常に有益な試みであり、常設的なプラクティスとなることが望まれます。これまでは、審査の経緯や審査官の主張の趣旨から考えて、本格的な検討や調査を行わずとも、出願を特許可能な状態にできることが明らかな補正や証拠であっても、Final後は、新たな争点(New Issue)を提起するものであって考慮できないとの指摘を受け、結局、RCEや審判請求が必要になってしまい、非合理的なプラクティスだと感じていた出願人や実務者も多いはずです。そのような指摘も受けての試行プログラムでしょうから、本格実施へ移行する可能性も十分にあると考えられます。

2000年に導入されて以来、盛んに利用されてきたRCE制度ですが、上記のことから分かりますとおり、近い将来、その運用が大きく変わる可能性があります。

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中国(4): 模倣や個人輸入の問題

時々、お客様より「中国は、模倣や個人輸入の問題があるから出願しても意味が無いのでは?」という様なご質問を受けることがあります。

中国の知的財産軽視の根底には、「他人が考えたのと同じ物を作ったり、作り方を真似しても、『物』自体を盗んだのではない。何が悪いのか?」という考えがあるそうです(http://ja.wikipedia.org/wiki/中国の知的財産権問題)。

中国での模倣や中国からの個人輸入は仕方ないとあきらめてしまえばそれまでですが、中国の市場規模の大きさ及び生産能力の高さからして「仕方ない」で済むレベルでは無いと思います。中国特許を持っていても模倣や個人輸入を完全に抑制できないにしても、特許が無ければいざという時に戦う武器が全く無いことになってしまいます。

模倣に関しては、問題は明らかであると思いますので、個人輸入の問題に関して考えてみたいと思います。

個人輸入について

日本や米国、欧州の多くの国においては、これらの国で特許された製品であっても、国外で取得した当該製品を個人輸入するという行為には、特許権者の許可は必要有りません(特許権の効力は特許製品の業としての輸入等にのみ及ぶので、事業行為でない個人的な輸入を禁ずることができないため)。例えば、ある製品に関して日本で特許を有していたとしても、中国において製造された該製品を、個人で中国から輸入するという行為は日本においては特許権の侵害とはなりません。また、同様に、米国や欧州(フランス、イタリアなどの例外有り)で特許を取得した場合も、これらの国において中国から個人輸入する行為は特許侵害とはなりません。

ご存じの通り、特に中国などの外国からの個人輸入が実際に問題となっております。しかし、上記の通り、個人で輸入する限りはこれを規制する法律はなく、また個人を偽って実際には事業目的で特許製品を輸入したような場合には違法行為となりますが、これを水際で取り締まることは非常に困難です。従って、インターネット販売などにより一旦日本に輸入されてしまえば、それを規制する有効な手段は無いというのが現状です。

個人輸入に対する対応策

上で述べたような問題点を鑑みますと、個人輸入対策としては、中国で特許を取得して、中国国内での製造・販売、中国国外への輸出を抑止するということしか無いと思います。

即ち、中国において特許権を有する場合、中国国内で特許製品を製造・販売する行為や中国国外に輸出する行為は侵害行為となりますので、特許製品が日本に輸出される以前に中国国内での製造及び輸出業者への販売の差し止めなどを請求することが可能になります。[参考までに、中国では知的財産権侵害の場合、裁判以外に行政摘発による処分も可能ですが、相手の侵害事実を立証するために現地の調査会社に依頼して詳細な事実関係を明らかにする必要があります。この調査には通常30~50万円程度の費用がかかりますが、中小企業の場合、JETROの助成制度によって3分の2が補助されます。(http://www.jetro.go.jp/services/ip_service/)]

逆に、中国における権利が無い場合には、中国国内における特許製品の製造・販売・輸出、中国からの個人輸入などの行為が全て合法ということになってしまいますので、中国で大量に生産され、日本にも大量に(合法的に)個人輸入されてくるという状況が生じ得ます。

尤もご存じの通り、中国における特許権の行使には様々な問題が有ります。例えば、国民性として知的財産権を尊重するという意識が低いこと、政府の取り締まりが甘いこと、特許訴訟において中国企業側に有利な判決が出やすいこと、特許侵害に対する損害賠償額が低いため[損害賠償額の上限は100万元(1元=13円として1,300万円)であり(2011年現在)、一般的には20~30万元(260~390万円)]特許による侵害抑止効果が低いことなどの問題が有ります。

しかし、中国において権利を有していないと、実際に中国に関連して問題が発生したときに何ら対抗手段がないということになってしまいます。

更には、近年、中国では国家戦略として知的財産に力を入れており、現在も急速に特許出願件数が増加しております。中国国内の企業等が所有する知的財産権が増加すれば、必然的に権利の保護強化の方向に向かうことが予想されます。従いまして、近い将来に、中国でも日本や欧米と近いレベルの保護が実現する可能性もあると思います。

以上のことから、中国からの個人輸入をご懸念であれば、尚更、中国に出願しておくことが賢明であると考えます。

結論

現在の世界的不況下で、どの国に出願するのが将来的にも最も効果的なのか判断するのは非常に困難ですが、中国は現在、経済的に最も有望且つ安定した国ですので、未だ知的財産保護が充分でないにしても、中国に出願することはやはり大きな意義があると思います。

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進歩性(非自明性)の判断基準

日本の特許審査基準には、進歩性の判断に関して以下のように記載されています(審査基準第II部 第2章 2.5、(3)参照)。

「引用発明と比較した有利な効果が明細書等の記載から明確に把握される場合には、進歩性の存在を肯定的に推認するのに役立つ事実として、これを参酌する。」

「請求項に係る発明が引用発明と比較した有利な効果を有している場合には、これを参酌して、当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたことの論理づけを試みる。そして、請求項に係る発明が引用発明と比較した有利な効果を有していても、当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたことが、十分に論理づけられたときは、進歩性は否定される。」

「しかし、引用発明と比較した有利な効果が、技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものであることにより、進歩性が否定されないこともある。」
(下線は追加しました)

審査基準の上記記載からわかりますように、進歩性を確立するためには、単に「引用発明と比較した有利な効果」があるだけでは不充分であり、

 「当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたことが、十分に論理づけられ」ないこと、及び

 「予想外の顕著な効果」があること、

のいずれか又は両方を示すことが重要になります。

ここでは、日本の審査基準を例に取りますが、このような考え方は、万国共通と考えて良いと思います。

後者(「予想外の顕著な効果」)は、明細書の実施例や比較例のデータを利用したり、新たな実験データを提出することにより示すことになります。

そして、前者(「当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたことが、十分に論理づけられ」ないこと)を示すためには、先行技術から本発明を想到することを妨げるような事情ないし事由(所謂「阻害要因」又は「阻害事由」)の存在を示すことが最も有効です。

要するに、複数の先行技術文献の組み合わせから容易、若しくは、本発明と単一の先行技術文献との相違が、当業者が適宜選択し得る「設計的事項」(最適材料の選択、設計変更、周知の均等物との置換など)に過ぎないという理由で拒絶された場合に、先行技術文献同士を組み合わせること、若しくは設計的事項と認定された技術的特徴を先行技術に適用することを阻害する要因が存在したことを明らかにすることが出来れば、進歩性欠如の拒絶を克服することが出来ます。

阻害要因の例

「阻害要因」には大きく分けて2通りあります。一つは引用発明同士を組み合わせると取り返しのつかないデメリットが生じることが技術常識として知られているといったテクニカルな観点からの阻害要因であり、もう一つは技術的課題の解決方法が逆になるというような技術思想的な観点からの阻害要因です。

上記のテクニカルな観点からの阻害要因としては、主成分(a)と補助成分(b)とからなる医薬品を主題とする発明Xが、成分(a)を開示する先行技術文献Yと成分(b)を開示する先行技術文献Zとの組み合わせにより容易と認定されたという場合を例に取りますと、例えば、文献Yと文献Zのいずれかに「成分(a)と成分(b)を組み合わせると毒性を発揮する」ということを示唆する記載があれば、それは理想的な阻害要因の一例といえます。

また、技術思想的な観点からの阻害要因としては、本発明と先行技術の構成的な相違点が一見非常に小さくとも、その相違点が、本発明と先行技術の目的が全く異なる為に生じたものであることが明らかであるような場合が挙げられます。例えば、本発明が屋外用の塗料組成物に関するもので、先行技術が屋内用の塗料組成物に関するものであり、本発明と先行技術の組成物は同一の成分から構成されている場合を想定します。ここで、本発明には、ある特定の成分(A)の量が、屋外用途のための耐候性を維持する目的で組成物全体の10wt%以下とクレームに規定されており、一方、先行技術には、その成分(A)の一般的な量が、本発明と重複する1~50wt%と記載されているが、先行技術全体の開示から、この先行技術の目的が屋内用途のための吸湿性を向上させることであって、その目的を達成するために成分(A)の量が20wt%以上であることが必要であることが明らかであるような場合、先行技術において成分(A)の量を本発明のクレームで規定された10wt%以下にすることに対する阻害要因があったと認められると考えられます。

補助的な阻害要因

もちろん、上記のような明らかな阻害要因が常に存在するとは限りません。しかし、たとえ明らかな阻害要因が見当たらない場合でも、引用文献の記載を注意深く検討すると、単独では「阻害要因」とまでは言えないかも知れないが、他の有効な方策(たとえば、優れた効果を示す比較実験データの提出、証拠資料の提出、主クレームに何らかの補正を行なうことなど)と併用すれば、いわば補助的に進歩性を支持する要因として利用可能な情報を読み取ることができることがあります(以下、そのような利用可能な情報を便宜的に「補助的阻害要因」と称します)。

阻害要因に関する主張と「予想外の顕著な効果」に関する主張が共にそれ程強く無くとも、これらを組み合わせることによって進歩性が認められることもあります。

「補助的阻害要因」については、たとえば、上記の例で言いますと、先行技術文献Zに成分(b)が開示されているとしても、重要なものとして特筆されている場合もあるでしょうが、単に同列に列挙される数多くの化合物例の中の1つである場合もあります。後者の場合は、補助的な議論として「成分(b)は同列に列挙される数多くの選択肢の1つにすぎず、成分(b)が特に好ましい旨の趣旨は教示も示唆も全くされていないので、それを取り出して成分(a)と組み合わせる動機や理由はどこにもない」という趣旨の議論が有効な場合が有ります。

もちろん、この様な議論は、上記の通り、他の方策と組み合わせて行うものであり、単独では余り効果は見込めません。例えば、文献Yと文献Zとが類似の技術に関するものであって、且つ成分(b)を使用しても文献Zに成分(b)と同列に列挙される他の化合物を使用した場合と比較して格別の効果が無いということでは、上記の様な議論のみで審査官を説得することは困難です。

一例として、本発明、文献Y及び文献Zが二液性接着剤(主剤と硬化剤の2成分からなる接着剤)に関するものであったとして、本発明の成分(a)が主剤で成分(b)が硬化剤であると仮定しましょう。そして、本発明の成分(a)が文献Yに開示されていて、文献Zが硬化剤として列挙している中に成分(b)が含まれていたとします。その場合に、成分(a)と成分(b)を組み合わせた時に、硬化性能やその他の性能が、成分(b)以外の硬化剤化合物を使用した場合と変わりないということでは、成分(a)と成分(b)を組み合わせることに格別の困難性や意外性は見いだせないとして、容易性の拒絶は維持されてしまうと思います。また、成分(b)が周知の硬化剤であったならば、本発明における成分(b)の使用は単なる設計事項に過ぎないとして、文献Yのみに基づいて進歩性が否定されてしまうかも知れません。

具体的には、「成分(b)は同列に列挙される数多くの選択肢の1つにすぎず」という趣旨の議論は、以下のような議論と組み合わせると有効であると考えられます。

(1)成分(b)を使用した場合に、文献Zに成分(b)と同列に列挙される他の成分を使用した場合と比較して顕著な効果が有る。
(2)文献Yと文献Zとは一見類似の技術に関するものだが、単純に組み合わせることが出来ない理由がある。

上記(1)については、たとえば、「成分(b)」と同列に列挙される数多くの選択肢の少なくとも1つ以上と「成分(b)」と間の効果の顕著な差を示す比較実験データを提出できるならば、進歩性を証明するために、かなり有効な手段となります。
上記(2)については、文献Zにおいて上記のようにいくつもの選択肢が同列に列挙されているということは、文献Zにおいてはそれが全て互いに「等価物」であると認識されているということです(なお、これを英語の意見書で述べるならば、たとえば「they are equated with each other」などと表現できます)。したがって、もしも、文献Zに列挙されている化合物群の中に文献Yにおいて使用できないものが含まれている場合、当業者は、文献Zに記載されている成分(b)を含む化合物群を直ちに文献Yに適用することは出来ないと考えるでしょうから、その点を「補助的阻害要因」として利用して、文献Yと文献Zを組み合わせることの困難性を主張することが出来ます。

例えば、上で述べた二液性接着剤(主剤と硬化剤の2成分からなる接着剤)の場合を例に取ると、文献Yと文献Zは共に二液性接着剤に関するものであるが、主剤として使用される樹脂が異なる為に、適する硬化剤も異なるという様な状況が考えられます。即ち、文献Zに成分(b)と同列に記載されている硬化剤は、文献Yの主剤樹脂に対しては硬化剤として機能しないことが知られているというようなことがあれば、その事実に基づいて文献Yと文献Zとを組み合わせることが自明でないと主張することができると思います。

このように、引用例の記載を詳細に検討して、明らかな阻害要因とは言えないまでも、先行技術から本発明に想達することの困難性を示す上で少しでも役立つ事項(上記の「補助的阻害要因」)を見出すことが出来れば、他の主張と組み合わせて進歩性の拒絶を克服出来ることがあります。従いまして、特に進歩性を明確にすることが困難な状況に直面した時には、引用例の内容についての審査官の見解を鵜呑みにするのではなく、引用例の全体を様々な観点から徹底的に分析してみることも必要です。

また、上記では阻害要因と「補助的阻害要因」とに分けて述べましたが、実際においては、上記で例示した「明らかな阻害要因」のような極端な例でもない限りは、多くの場合、阻害要因として利用できるのか(それとも「補助的阻害要因」としてしか利用できないのか)は、審査官の判断を待たないと分かりません。つまり、阻害要因と「補助的阻害要因」との間に明確な線引きができないことが多いものと考えます。さらにいえば、特許庁の段階では「阻害要因」が存在しないと判断されたものが、知財高裁の判断では「阻害要因」が存在すると判断されるということもあります(例えば、以下の判例参照:平成19年(行ケ)第10007号事件;及び平成22年(行ケ)10104号事件)。

クレームの補正

拒絶理由通知への回答を行なう際に、仮に拒絶理由が審査官の明らかな誤認に基づくものであっても、まず主クレームに何らかの補正を行なって主クレームと引用例との違いを、より明確にすることで効率的な権利化が可能になることが少なくありません。

審査官が誤解した原因を検討し、実質的にクレームの範囲を変えずに、誤解の可能性を排除するような明確な表現への変更が可能であれば、一般的に、単に審査官の誤解を指摘するよりも、上記のような変更を行う方がスムーズに権利化できる確率が高くなります。

しかし、クレームの範囲に実質的な変更を加える際には、禁反言(エストッペル)の観点から、将来の権利行使に支障を来たすものでないか慎重に検討することが必要です。特許出願手続きにおいて出願人が意識的に除外した対象については、後からそのような対象について権利主張をすることは禁反言の法理に照らし許されません。特に、先行技術に対する進歩性を明確にする目的で行った補正によって、クレームの範囲外となった対象については、後で権利主張することは出来ません。(参考までに、米国では、このようなルールをRecaptureの原理と称します。)

例えば、上記の二液性接着剤の例において、審査段階で、硬化促進剤(c)を更に含むと補正し、硬化剤(b)との相乗効果で、引用例の接着材と比較して接着剤の効果性能が格段に向上するなどと主張して特許が認められたとします。その後、成分(a)と成分(b)のみを含み、成分(c)を含まない接着剤を製造・販売する第三者がいたとしても、それに対して本発明の均等物として権利侵害を主張するようなことは許されません。(この場合、出願人により意識的に除外された対象は、「成分(c)を含まない」接着剤ということになります。)

上記から明らかなように、進歩性拒絶克服の目的で行った補正によってクレームの範囲外となった対象については、後から権利主張することはできないということを念頭に置いておくことが必要です。

もちろん、補正を渋ることで権利化出来ないのであれば本末転倒ですが、進歩性明確化の為の有用性と将来の権利行使の双方の観点から、どのような補正を行うのか決定することが重要です。

まとめ

上記の要点を以下にまとめます。

- 進歩性欠如に基づく拒絶理由を受けた場合には、明確な阻害要因とまでは言えずとも、効果に関する主張などと組み合わせることにより、進歩性の立 証に役立つ事情ないし事由(上記のような「補助的阻害要因」)が存在することがあるため、引用文献の開示や関連の公知技術などを注意深く検討する。

- 将来の権利行使(禁反言)を念頭においた上で、拒絶の克服に有効な補正が可能か検討する(審査官の誤解が明らかであっても、許容範囲内での補正が可能であれば、補正を行った方が効率良く権利化することが可能になることが多い)。

具体例

参考までに、弊所で実際に提出した意見書において「補助的阻害要因」を述べた例を下記にご紹介します。下記の例では、「引用文献1」と「引用文献 2」が主引用例(primary references)として用いられ、「引用文献3」と「引用文献4」が副引用例(secondary references)として用いられて、引用例の組み合わせによる拒絶を受けたものです。

ご紹介するのは、まず各引用例について詳しく議論した後に、まとめを述べた部分です。意見書では、明細書の実施例と比較例のデータを用いて発明の優 れた効果を示し、それに加えて、引用例について下記の趣旨を議論したものです。この例においては、引用例の組み合わせに関する「補助的阻害要因」は特に主 張せず、本発明と各引用例との技術的関連性についての「補助的阻害要因」だけを主張する形になりました。この結果、一回の回答で特許査定を得ております。 主クレームの補正と、発明の優れた効果を示すデータと、各引用例についての詳しい議論との「合わせ技」により、「進歩性あり」との心証を審査官に与えるこ とができたという感触があります。

「(引用文献1~4に関する説明のまとめ、及び引用文献1~4の組み合わせについて)

審査官殿は、「引用文献1、2には、カチオン化澱粉が本願請求項1に係る発明で規定する粘度及びカチオン化度の範囲を満足することの明記はない が、....」と述べられ、本願請求項1に記載されるカチオン化澱粉の「粘度及びカチオン化度の範囲」が、引用文献3や引用文献4に開示されている旨を述 べておられます。

しかし、上記のように、引用文献1ではジアルデヒド澱粉が必須成分です。ジアルデヒド澱粉は、パルプ繊維と共有結合を形成し得るものであり、本発明 で用いられるカチオン化澱粉とは、化学的特性が大きく異なります。そのような引用文献1の開示を、本発明と同列に論じることはできません。

従って、引用文献1を引用文献3や引用文献4とどのように組み合わせても、本発明の構成に到達することは容易ではありません。

上記のように、引用文献2においては、「カチオン性水溶性高分子化合物」としての「カチオン化澱粉」と、「水溶性高分子ポリヒドロキシ化合物」とし ての「澱粉」のいずれも、他の多くの化合物例と単に横並びに列挙されているものです。よって、引用文献2の開示から、「カチオン性水溶性高分子化合物」と しての「カチオン化澱粉」と「水溶性高分子ポリヒドロキシ化合物」としての「澱粉」とを選び出して特に注目する理由はありません。

従って、引用文献2を引用文献3や引用文献4とどのように組み合わせても、本発明の構成に到達することは容易ではありません。

上記のように、引用文献3においては架橋された澱粉を用いることが必須です。従って、粘度に関して、本発明で用いる澱粉(「粘度レベルが低下された澱粉」)は、引用文献3において用いる「架橋された澱粉」とは、技術的に正反対の方向です。

従って、引用文献3を引用文献1や引用文献2とどのように組み合わせても、本発明の構成に到達することは容易ではありません。

また、上記のように、引用文献4においては、アルキルケテンダイマー(AKD)及び/又はアルケニル無水コハク酸(ASA)が必須成分であり、アル キルケテンダイマー(AKD)やアルケニル無水コハク酸(ASA)は、澱粉とは全く異なる種類のサイズ剤ですので、引用文献4は、本発明とはほとんど無関 係の技術です。そのような引用文献4の開示を、本発明と同列に論じることはできません。

引用文献4の技術の中心は、あくまでも「アルキルケテンダイマー(AKD)及び/又はアルケニル無水コハク酸(ASA)」です。

従って、引用文献4を引用文献1や引用文献2と組み合わせる動機はありませんし、また、引用文献4を引用文献1や引用文献2とどのように組み合わせても、本発明の構成に到達することは容易ではありません。

このように、引用文献1~4をどのように組み合わせても、本発明の構成に到達することは容易ではありません。

従って、本発明の添加剤組成物が引用文献1~4の組み合わせに対して進歩性を有することは明らかです。」

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PCT(7): 国際出願用の明細書作成

優先権出願の明細書とPCT出願明細書

日本特許庁に提出されるPCT国際出願については、日本出願に基づく優先権を主張して提出されることが殆どです。

PCT国際出願に記載された発明が、優先権を主張した日本出願明細書の開示に含まれていれば、優先権を享受できます。しかし、PCT出願明細書の開示内容を日本出願明細書と同じにする必要はありません。

PCT出願明細書作成の際に、表現を改善したり、優先権が効かなくて良ければ新規事項を追加することもできます。一方、各国国内段階に移行する際に各国特許庁に提出するのは、あくまでPCT出願明細書の翻訳文ですので、この段階では、新規事項の追加はできませんし、その他の修正も補正という形でしか行うことができません。勿論、補正もPCT出願明細書の開示にサポートされている必要があります。

最先の日本出願とPCT国際出願の性質の違いを考えるならば、日本出願については、多少、明細書の質を犠牲にしても速やかに提出されるのが一般的であり、一方、PCT国際出願は、高額な出願費用をかけて、多くの場合数カ国での権利化を目指す重要な発明に関するものですから、外国において可能な限り確実に権利化できる内容の明細書とする為、明細書の質の向上に努めることが望ましいと考えます。

PCT出願用の明細書作成時に注意する点

日本出願明細書に基づいてPCT出願用明細書を作成する際に心掛けるべきことは、所望の権利範囲を確保しつつ特許化の確実性を上げること、そしてもう一つは各国で通用する内容の明細書とすることです。

1.外国で確実に権利化するための改善と補強

まず、記載要件や先行技術に対する新規性・進歩性の観点から再検討することが必要です。

日本出願時には、先行技術調査の結果、新規性そして進歩性の観点から権利化できる見込みが充分に高いと判断されれば、出願の形式を整え、速やかに提出するというのが一般的なプラクティスであると思います。

これに対して、PCT出願はあくまで外国出願です。実際に外国の国内段階に移行する際に各国の特許庁に提出するのはPCT出願明細書の「翻訳文」です。従って、PCT出願明細書は、たとえ日本語で提出しても、外国出願用の明細書です。

PCT出願経由で外国出願するということは、重要性が高い発明に関するものでしょうし、またPCT出願及び各国移行には相当の費用が必要になります。

従って、当然のことながら、PCT出願時には、外国でなるべく確実に権利化できるよう、発明は充分に明確に定義されているか、実施可能要件など記載は充分か、先行技術に対する新規性・進歩性を明らかにできるよう態様が記載されているか、また発明の効果を主張する際に有効なデータが充分かなど、様々な観点から慎重に再検討することが必要です。

一般には、クレームや明細書がシンプルであれば、特許成立した際に広い権利範囲を押さえることができるため、望ましいと言われます。しかし、特許は成立したとしても、権利範囲が広ければ利害関係を有する第三者も増え、そしてそのような第三者から攻撃を受けた時(特許無効を訴えられた時)に、シンプルな明細書は、戦う武器が少ないということになってしまうこともあります。従って、明細書は一概にシンプル・イズ・ベストというわけにはいかず、様々な要因を考慮した上で、何を記載する必要があり、何を省けるのか慎重に検討する必要があります。

勿論、基礎となる日本出願明細書の質も出願人により様々であり、日本出願の時点でかなり質の高い明細書を作成する企業も有ります。しかし、そのような場合でも、PCT国際出願に際して弊所で再検討した際には、必ず何らかの改善ポイントがありました。しかも些細な表現上の問題などではなく、弊所の経験上、重大な事態に発展する可能性がある問題が必ず存在しました。

余談になりますが、近年のようにPCT制度が盛んに利用されるようになる以前は、パリ条約優先権を主張して、最初の日本出願から1年以内に外国に直接出願していたわけですが、その際には、単に日本出願の翻訳ではなく、日本出願明細書はあくまで原案と考えて、修正や補強を行い外国出願用の英文明細書を作成するということが一般的でした。PCTの利用が一般に浸透し、日本語で出願できるようになってから、内容の再検討などは行わずに、日本出願の明細書をそのままPCTの形式に変更しただけで提出することが行われるようになってしまったようです。 

優先権の有効性

場合によっては、PCT出願の際に追加で記載した特徴については、優先権を認められないかもしれません。しかし、外国出願に優先権が効かない事項が1つでも含まれていたら、出願全体に関して全く優先権が無効になるということではありません。優先権出願に開示されていなかった部分についての優先権が認められないということです。また、優先権出願からPCT出願の間に、それと同一の発明が公開なされなかったならば、優先権が効かなくても問題有りません。

優先権出願に無かった記載をPCT出願明細書に加えることで、特許が成立する可能性が高くなるならば、追加を検討する価値はあるはずです。

2.翻訳し易さ

PCT出願の国内段階移行時には、多くの場合、PCT出願明細書の翻訳文の作成が必要になります。近年、最初から英語でPCT出願する日本の出願人も増えてはいるようですが、まだまだ少数派です。

弊所では、日本語でPCT出願した場合、日本語のPCT出願明細書を作成した本人が中心になって、各国移行時の英文明細書を作成しますので、翻訳時に困難に直面するようなことはあまりありません。それでもやはり、なるべく翻訳に負担がかからないような日本語の明細書を作成するよう心掛けています。一般的に、普段から使い慣れている日本語であるが故に、客観性に欠ける文章になっていても気付かないということが起こりえます。第三者が読んだ時に、誤解されることなく、容易に意図が正しく伝わるかどうか丁寧に検証しなければなりません。この観点から、どのような日本語明細書にすれば理解し易いかが身をもって分かるため、明細書の翻訳も出来る人間がPCT国際出願用の日本語明細書に関与することが理想であると考えます。

3.国によるプラクティスの違い

上記項目1.で述べたような一般的な注意事項に加えて、国によるプラクティスの違いも考慮する必要があります。

特許制度については、国際的な調和(ハーモナイゼーション)を目指す動きが見られますが、依然として国によるプラクティスの相違から明細書に要求される事項に違いが有ります。表現的上の問題(例えば、医薬の用途発明に関して、許容されるクレームの形式の相違など)であれば、各国の国内段階に移行してからでも対応が可能ですが、PCT出願の段階で記載しておかないと後から対処できないものも存在します。以下に、そのような記載の例を挙げます。

1) 欧州における補正の厳しさ

明細書中に極めて明確な根拠がないと補正が認められない傾向がある。従って、将来、補正の可能性があるのであれば、補正後の態様について明細書に明記しておく必要がある。

2) 日本における特殊パラメータ発明に関する記載要件の厳しさ

日本や韓国においては、パラメータの意義の説明やパラメータによって達成される効果を明らかにする為に充分な実施例が必要。

記載要件や実施例の量については、米国や欧州では充分と看做されるようなものであっても、日本や韓国では不十分と判断されることがある。

3) 発明の効果に関する記載

特に米国出願に関しては、明細書に効果を記載すると、それにより権利範囲が制限されてしまうため、なるべく記載しない方が良いという考えがある。

米国では、出願時に明細書に記載されていなかった効果について、後から主張することができるので、米国にしか出願しないのであれば、効果については詳細に記載しなくても問題ないかも知れない。

また、米国以外の国においても、明細書における効果の記載により、権利範囲が制限される可能性はある。

しかし、日本、欧州、中国を初めとする多くの国においては、出願時の明細書から読み取れないような効果について、後から主張しても認められない。従って、米国以外にも出願する見込みがあるのであれば、進歩性(非自明性)につながるような効果は記載しておく必要がある。

4) 米国におけるBest Modeの開示

但し、2011年のAIAにより、Best Mode要件違反は無効理由とはならなくなった。

纏め

以上の様に、PCT国際出願用の明細書は、日本語であっても、実際には外国出願用の明細書であり、PCT出願する発明が重要な発明であって、そしてそれを確実に経済的に権利化することを望むのであれば、単に日本出願明細書をそのままPCTの形式に変換するのでなく、この機を活用して明細書を再検討することが望ましいと考えます。

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