同時

韓国

韓国は非常に特許に力を入れており、年間の出願件数が常に上位5位以内に入る特許大国の一つです。比較的最近の出来事としては、2011年の2月に、韓国Samsung Electronics Co., Ltd.と米国IBM Corpが、特許を相互利用できるようにするクロスライセンス契約を結んだと発表したことが大きな話題になりました。2010年における両社の米国内特許登録数は1位と2位です。

また、韓国においては、近年、造船産業の長期的な技術開発投資が進んでおり、特許出願件数も急増しています。2009年の韓国内企業による造船海洋分野の特許出願件数は1,800件を越えており、2位の米国の約1,200件を大きく引き離しています(日本は約800件)。

韓国の特許制度は日本の制度と類似した部分が多いのですが、2012年3月15日に米韓自由貿易協定(FTA)が発効となったのと同時に、特許・商標法が改正されました。大きな変更点の1つとして、新規性喪失の例外規定の適用期間(学会発表などにより自ら発明を公知にしてしまった後、新規性を喪失せずに特許出願できる猶予期間、所謂「グレースピリオド」)が、6ヶ月から12ヶ月(1年)に変更されました。日本では、このグレースピリオドは、6ヶ月です。

米国(1): 先発明主義から先願主義への移行とグレースピリオド(発明公開後の出願猶予期間)

米国の特許制度の最大の特徴は、先発明主義とグレースピリオド(発明公開後の出願猶予期間)でしたが、2011年9月16日にオバマ米大統領が「リーヒ・スミス米国発明法案」(Leahy-Smith America Invents Act))に署名したことにより、先発明(first-to-invent)主義から先願(first-to-file)主義へ移行することが決定しました。一方、1年間のグレースピリオド(one year grace period)制度は維持されます。グレースピリオド(猶予期間)の制度自体は、日本など米国以外の国にも存在しますが、米国におけるグレースピリオドは、元来、先発明主義に直結した制度であり、他の国とは適用の条件などが異なります。米国の先願主義は「1年間のグレースピリオド付き先願主義」(又は"first-inventor-to-file system"や"first-to-disclose system")のように称されることもあり、先願主義に移行後、このグレースピリオドの制度がどのように活用されるのか注目が集まっています。

先発明主義から先願主義への移行

米国は、最初に発明をした発明者に特許権を与える先発明主義を採用しておりましたが、2011年の法改正により、原則的に最初に出願をした発明者に特許権を与える先願主義へ移行します。但し、この移行は直ちに行われるわけではなく、2013年3月16日以降の出願が先願主義に基づいて処理されることになります。

先発明主義への移行の主要な目的は、国際的な調和(harmonization)を図ること及び抵触審査(Interference)手続きなどの先発明主義に由来する複雑な手続きを省くことで特許庁における手続きを効率化し、70万件にも及ぶ未処理案件(backlog)を減ずることにあります。

Prior art(先行技術)の定義拡張

日本を含む米国以外のほぼ全ての国は先願主義を採用していますので、今回の米国の先願主義への移行は、米国外における特許実務に与える影響は少ないと思われます。

しかし、先願主義への移行に伴いPrior art(先行技術)の定義が拡張されることに注意する必要が有ります。要するに先願主義への移行前であれば先行技術とならなかったものが、先願主義移行後は先行技術として引用される可能性があります。拡張されるのは以下の2点です。

1. 「世界公知」への移行

旧法下では新規性喪失の事由となり得る公知・公用は、米国内におけるものに限定されていたが、今回の法改正により米国外での公知・公用にも及ぶようになる(所謂「世界公知」への移行)。

即ち、旧法の102条(a)においては、例えば米国特許出願人による発明の前に日本で既に公然実施されていた技術によって米国出願の発明の新規性が否定されることはなかったが、新法の102条(a)(1)では、そのような米国外における公然実施によっても米国出願の発明の新規性が否定されることとなった(但し、米国外で公然実施した技術の発明者や共同発明者(又は発明者若しくは共同発明者により開示された技術を獲得した他人)などが公然実施を開始した日から1年以内に該発明者本人が米国出願した場合を除く)。

2. ヒルマードクトリン(Hilmer Doctrine)の廃止

米国以外の第一国出願の出願日も後願排除目的に有効な出願日(effective filing date)として認められることになった。

旧法の102条(e)では、所謂「ヒルマードクトリン(Hilmer Doctrine)」により、パリ条約ルートで出願された米国出願の第一国における出願日(パリ条約に基づく優先日)は、その米国出願の先行技術(Prior Art)としての有効日としては認められなかった。

例えば、2011年4月1日出願の日本出願に基づく優先権を主張して、2012年3月31日に(PCT出願をせずに直接)米国出願(出願A)した場合、この出願Aが後願排除の効力を発揮する日は、旧法下では、米国出願日である2012年3月31日であった。従って、この出願Aと同一の発明を開示する出願Bが、出願Aの優先日よりも後であり、米国出願日よりも前である2011年6月1日に出願された場合、出願Aは出願Bに対するPrior Art(先行技術)とは認められなかった(但し、出願Aの発明日を発明Bの発明日よりも前に遡及(swear-back)させることが出来る場合を除く)。しかし、改正法下では、この出願Aが後願排除の効力を発揮する日は優先日である2011年4月1日となり、上記出願B(出願日:2011年6月1日)は、出願Aに対して新規性を喪失することとなる。

また、PCT出願からの米国移行出願の場合、旧法下ではPCT公開公報が英語であれば、その国際出願日が、後願排除の有効日として認められる一方、英語以外の場合には、認められないということになっていたが、法改正により、PCT出願の言語に関わらず、そのPCTが優先権主張していれば優先日、優先権主張していなければ国際出願日が、後願排除の有効日と見なされることになる。

先願主義の適用条件

優先権主張日などの最先の出願日が、2013年3月16日以前であれば、原則的に旧法(先発明主義)による扱いになりますが、一つでも2013年3月16日以後のクレームがあると、新法(先願主義)での扱いになってしまいます。

また、優先権主張日が、2013年3月16日よりも前の出願であっても、補正により、優先権出願にサポートされていないクレームが一つでも含まれることになると、新法(先願主義)での扱いになります。そして、この場合、再度の補正によって、補正前のクレームに戻しても、旧法が適用されることとはなりません。

グレースピリオド(猶予期間)

米国においては、発明が公になっても1年以内であれば特許出願できます。これをしばしば“one year grace period”と称します。このグレースピリオドの制度は2011年の法改正においても維持されます。先願主義への移行後のグレースピリオド適用条件(新規性喪失の例外条件)は、改正法の102条(b)(1)に規定されております。

日本、中国などにも発明の公開後6ヶ月の出願猶予期間があり、韓国には米国と同じく1年(12ヶ月)の猶予期間があります(中国における出願猶予期間についてはこちらに、韓国に関してはこちらに、日米の場合と比較しながら説明してあります)。欧州には、猶予期間の規定自体はあるのですが、この利用はほぼ不可能に近いものとなっています(この点についてはこちらをご覧下さい)。また、日本、米国、欧州、中国、韓国におけるグレースピリオド制度の比較をこちらの表に示してあります。

猶予期間は米国の1年に対し日本などでは6ヶ月ですが、米国と日本とではこの期間の違い以外にも実務上の大きな違いがあります。

日本では、特許法第30条に基づいて新規性喪失の例外の適用を受けることができますが、公知になった日から6ヶ月以内に出願と同時に例外規定の適用を受けたい旨の書面を提出し、更に出願から3ヶ月以内に証明書類を提出しなければなりません。

尚、平成23年6月8日に公布され、平成24年4月1日から施行されている改正特許法においては、例外規定の条件(特許法第30条)が緩和されました。旧法においては、新規性喪失の例外の適用を受けるためには公知にした手段に様々な制約(学会発表で公知にした場合、特許庁長官指定の学術団体による学会における発表である必要があるなど)がありましたが、改正後は、特許を受ける権利を有する者の行為に起因して公となった発明については、広く新規性喪失の例外規定の適用を受けることができるようになりました。それでも所定の期間内に所定の手続きを取った場合に受けられる例外的な措置であることには変りありません。

一方で、米国においては、本人であれば公開した手段は問われず、猶予期間の適用申請手続きも必要ありません。これは、米国における猶予期間は、元々は先発明主義を採用していることに関連して、発明さえしていればその後いつ特許出願しても良いということになってしまうと公益を損なうことになるので、発明を公にしてから1年以内に出願しなければならないという時期的制限を設けることが主要な目的でありました。しかし、上記したように、発明を公知にした発明者本人に限り、先願主義に移行後もこの1年間の猶予期間の制度は維持されます。

従って、先願主義への移行によって発明日への遡及(swear-back)が不可能になった後、この1年間のグレースピリオドというカードをどのように利用するかということに注目が集まっています。

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米国(2): RCE (Request for Continued Examination)

もう一つ米国特許制度の大きな特徴と言えるのが、RCE(Request for Continued Examination)の存在です。

RCEは、最後の審査通知(final office action)が出た後に、拒絶を克服できない場合に、継続審査を要求できる制度です。[*但し、意匠特許(design patent)や再審査中の特許に関しては、利用できません。]そしてこのRCEは出願が生きている間は何度でも請求することができます。(数年前に、米国特許庁がこのRCEの回数を制限するためのルール改正を行うことを発表したが、訴訟になり、結局は特許庁が敗訴してルール改正は無くなった。)

要するに、米国出願は、出願が生きている限り何度最後の拒絶を受けても許可になるまで何度でもチャレンジできるということになります。このような制度は、米国にしかありません。例えば、日本でしたら、特許性を否定され続けた場合には以下の経緯を辿ることになります。

日本の場合
最後の審査通知 → 拒絶査定 (特許庁審査部)

拒絶査定不服審判 (特許庁審判部)

知的財産高等裁判所への提訴

最高裁判所への上告

日本においても、裏技的な手段として、拒絶査定を受けたら分割出願を行うということもありますが、この場合、勿論、分割出願の請求項を親出願と同じにならないよう補正する必要があります。即ち、分割出願はあくまで新たな出願として審査されるのであって、米国のように審査が継続されるわけではありません。(日本では、もし仮に分割出願の請求項に親出願の審査において拒絶された発明が含まれていると、最初の審査通知であっても、最後の拒絶理由通知への応答の場合と同様に補正の制限が課される。要するに削除、減縮、誤記訂正、明瞭化の目的の補正のみが可能で、新たな特徴を付加するような補正は許可されない。)

欧州では、拒絶査定になってしまったら、欧州特許庁の審判部(Board of Appeal)における拒絶査定不服審判で争いますが、原則その先はありません。即ち、拒絶査定不服審判で特許性を認められないと特許は不成立ということになります。以前は、日本と同様に分割出願を行って延命するという方法があったのですが、2010年の法改正により、分割出願の時期と機会が制限され、拒絶査定を受けた際の延命措置としての分割出願は実質的に不可能になりました。

RCEが可能な時期

審査終結状態にある(prosecution is closed)が、出願が生きている段階であれば請求することができます。具体的には、例えば、以下のような状況で、RCEが可能です。

・ 最後の審査通知(Final Action)発行後で且つ出願放棄確定前

・ 許可通知(Notice of Allowance)発行後で且つ登録料納付前

・ USPTO審判部における審判係属中

審判請求書(Notice of Appeal)提出後に、RCEした場合には、審判請求は取り下げられたとみなされ、審査が再開されます。

審査中で最新の審査通知がfinalで無い場合には、RCEは認められません。

RCE申請手続き

RCEの申請は、料金(large entityで$930、small entitiyで$465)の支払いと共に、RCE申請フォームと以下の書類を提出することが必要です。

出願の状態 RCE請求時に提出する必要がある書類
最後の審査通知(Final Action)後 最後の審査通知に対する応答(既に提出済みの場合は、原則的に必要無し)
査定系クウェイル通知*(Ex Parte Quayle action)後  (*方式的不備を訂正すれば特許査定となる旨を通知するもの) Ex Parte Quayle actionに対する回答
許可通知(Notice of Allowance)後 IDS、補正、新たな議論、新たな証拠など
審判請求後 最後の審査通知に対する応答(例えば、提出済みの審判理由書や審判部の見解に対する答弁書における議論を援用する旨の上申書)


RCEを提出する状況で一番多いのは、Final Actionを受けて補正書、意見書、証拠などを提出したが、それが新たな争点(New Issue)を提起するものであって考慮出来ないとの指摘をUSPTOから受けて、その対応としてRCEを提出するという状況だと思います。そのような場合に、単に提出済み書類を考慮させたいのであれば、RCE申請フォームと料金を支払うだけで済みます。そしてRCEにより審査が再開され、審査官はFinal Action後に提出したクレームの補正や証拠を考慮した上で、non-finalの審査通知若しくは許可通知(Notice of Allowance)を発行します。

RCEに関する注意事項

場合によっては、折角RCEしたのに、RCE後の最初の審査通知がFinal(しかもRCE前のFinal Actionと同じ拒絶理由)となってしまうことも有りますので注意が必要です。

具体的には、以下の2つの要件が同時に満たされると、RCE後の最初の審査通知がFinal Actionとなってしまいます。

(1) RCE前のクレームとRCE後のクレームとが同一である。

(2) RCE後の審査における拒絶の理由がRCE前の審査における拒絶の理由と同一である。

このような状況になるのは、例えば、Final Actionに対して補正を行わず単に反論のみを提出した場合、Final Actionに対に対する回答が間に合わず、延命措置としてRCEを提出した場合などが挙げられます。

上記のような状況になる可能性がある場合には、RCEと同時若しくはRCE後、速やかに何らかの補正を提出するなどの手段を講じることが望ましいです。その際の補正は純粋に形式的なものでよく、例えば、得に重要でない特徴に関する従属クレームの追加などでも構いません。また、そのクレームが不要であれば、後で削除することもできます。

もしも補正や新たな証拠を提出する予定があるが、準備に暫く時間がかかるような場合には、RCEと同時又はその直後に審査の一時中断を申請する(Request for a 3-month Suspension of Action by the USPTO under 37 CFR 1.103 (c))ということも考えられます。

RCE制度の現状と今後

上記したようにRCEの回数を制限しようとするルール改正は断念されましたが、近年、別の手法でRCE制度の利用を抑制する方向の動きが見られます。

USPTOにおける処理スケジュール

1つは、2009年11月15日から導入されている新たな管理体制です。

以前は、原則として、審査官はRCE後2ヶ月以内にアクションを出すことが求められており、RCEにより、審査が大きく遅れるようなことはありませんでした。しかし、2009年11月15日以降は、RCEが請求された件は、“special new” docket に入れられることになり、そこでは「2ヶ月以内」という制約はなく、審査官は、自らの仕事の負荷に応じて比較的自由なスケジュールで処理することが許されています。

これに伴い、最近は、RCE後の処理の遅れが目立つようになってきています。米国特許庁のウェブサイトで提供されているPAIR(Patent Application Information Retrieval)システムで、出願の経過を確認することができますが、最近は、RCEを請求すると、その後 “Docketed New Case—Ready for Examination” という状態になったまま長らく動きが止まってしまいます。RCE後、半年以上経過してもアクションが出ないケースもあります。

RCE請求の手数料の値上げ

RCEを利用するために、米国特許庁へ支払う料金は、それが何回目の請求であるかに関わらず1回のRCEにつきlarge entityで$930、small entityで$465であったものが、2013年3月19日以降は、一回目のRCEの料金がlarge entity$1,200、small entity$600に、二回目以降のRCEの料金がlarge entity$1,700、small entity$850に値上げされます(2013年1月18日に公表された新料金)。

RCEを不要にする制度の試行

RCE等を利用せずに、審査の効率化を図る目的で以下のような試行プログラムが実施されています。

・ After Final Compact Prosecution (AFCP) 試行プログラム (試行期間:2013年5月18日まで(当初、2012年6月16日までの予定だったが延長された))

現行の規則に従えば、最終庁指令通知(Final Office Action)後に提出された補正や証拠を審査官に考慮させるためには、RCE等の手続きが必要になることが多いが、AFCP試行プログラムでは、Final後に提出された補正や新たな証拠について、限定的な(特許で約3時間、意匠で約1時間以内で済むような)検討や調査によって、該補正や証拠により特許査定できるとの判断が可能な場合、RCE等を行わずに補正や証拠を審査官に考慮させることが可能。

・ Quick Path Information Disclosure Statement (QPIDS)試行プログラム(試行期間:2013年9月30日まで(当初、2012年6月16日までの予定だったが延長された))

米国の現行のシステムにおいては、登録料支払い後にIDSを提出して考慮させる為には、RCEや継続出願が必要だが、QPIDS)試行プログラムでは、登録料支払い後にIDSをUSPTOに考慮させることが可能。


特にAFCPは、試行期間が延長されましたが、出願人や実務者にとって非常に有益な試みであり、常設的なプラクティスとなることが望まれます。これまでは、審査の経緯や審査官の主張の趣旨から考えて、本格的な検討や調査を行わずとも、出願を特許可能な状態にできることが明らかな補正や証拠であっても、Final後は、新たな争点(New Issue)を提起するものであって考慮できないとの指摘を受け、結局、RCEや審判請求が必要になってしまい、非合理的なプラクティスだと感じていた出願人や実務者も多いはずです。そのような指摘も受けての試行プログラムでしょうから、本格実施へ移行する可能性も十分にあると考えられます。

2000年に導入されて以来、盛んに利用されてきたRCE制度ですが、上記のことから分かりますとおり、近い将来、その運用が大きく変わる可能性があります。

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米国(3): 現在の米国における特許政策(並びに自明性審査とその対策)

プロパテント政策の変化

米国においては、プロパテント政策(発明技術の独占的実施権を可能にする特許による権利保護を重視する政策)が、1980年代後半にレーガン大統領により導入され今世紀初頭まで維持されてきましたが、世界的な不況が深刻化するにつれ、大きな変化が見られます。

不況に加えて、プロパテント政策による弊害とも言える所謂「パテント・トロール(patent troll)」による特許権の濫用も大きな問題となっています。「パテント・トロール」とは、大学や研究機関以外のnonpracticing entity(特許発明を実施しない者)であって、第三者の特許権を譲り受け、その特許権を主張して大企業に巨額の損害賠償を要求するような組織のことです。このパテント・トロールの暗躍は、質の低い特許を乱発したことによる弊害であると言われております。

一般的には、近年の不況に伴い、プロパテントからアンチパテント(特許権より独占禁止法の遵守に重きを置く政策)へシフトしたと言われることが多いようですが、一概に、完全にアンチパテントへ傾いたと断言することは難しいようです。 近年の出来事を見ると、審査基準の厳格化や権利行使の範囲を制限する変化が目立ちますが、一方で、特許の活用を促進する方向の変化も見られます。要は、この不況を乗り切るために重要なツールの一つとして特許を有効に活用出来るように制度を整えているということであると思います。

近年の判例や2011年9月の法改正(Leahy-Smith America Invents Act)から読み取れる米国の知的財産権に関する姿勢は以下の通りです:

進歩性基準を厳格化し特許の質を向上

 - KSR Int'l Co. v. Teleflex, Inc., 550 U.S. 398 (2007) (これにより非自明性の審査が厳しくなった。)

付与後特許に対する異議申立ての機会を拡張

 - 付与後異議申立制度(Post-grant review)の導入(2011年のAmerica Invents Act)

過剰な権利行使を抑制

 - Abbott Labs v. Sandoz, 566 F.3d 1282 (Fed. Cir. 2009) (所謂"product-by-process"形式のクレームの権利範囲を、クレームで規定したprocessで得られる物に制限した。)

 - 複数の被告に対する訴訟の併合(joinder of parties)についての制限(2011年のAmerica Invents Act)(以前は、1つの特許訴訟において複数の被告を訴えることが可能であり、パテントトロールが複数の企業に対して同時に特許権侵害訴訟を提起し損害賠償金請求することが問題視されていた。この対策として、「同一の特許を侵害している」ことのみをもって複数の被告を1つの訴訟事件で訴えたり、1つの訴訟事件に併合したりすることができないこととされた(§299)。)

 - In re Seagate Technology, LLC, 497 F. 3d 1360 (Fed. Cir. 2007) (特許侵害訴訟において、3倍賠償の対象となる故意侵害の有無の立証責任を、侵害者から特許権者側に移した)

 - 故意侵害及び侵害教唆対策としての鑑定書の入手・提出の不要化(2011年のAmerica Invents Act)(上記Seagate事件における判示の一部を成文法化。鑑定書を入手しなかったことや裁判所に提示しなかったことを、故意侵害(willful infringement)の認定や、侵害教唆(inducement of infringement)の意思の認定に使用できないと規定された(§298)。2012年9月16日以降に発行された特許に対して適用。)

特許出願人又は特許権者の過失に対する罰則適用条件を緩和

 - ベストモード要件違反を特許無効の理由から除外(2011年のAmerica Invents Act)

 - Therasense, Inc. v. Becton, Dickinson & Co. (Fed. Cir. 2011) (en banc))(不公正行為(Inequitable Conduct)の立証を困難にした)

 - 補助的審査(Supplemental Examination)制度の導入(2011年のAmerica Invents Act)(情報開示義務(IDS)違反の救済措置)

特許出願に関する門戸は狭めない

 - Bilski最高裁判決[Bilski v. Kappos, 130 S. Ct. 3218, 561 US, 177 L. Ed. 2d 792 (2010)] (CAFCの大法廷(en banc)が「machine-or-transformation testが、ビジネス方法に関する発明が特許保護の対象になるか否かについての唯一の判定手段」と判示したのを最高裁が覆した。)

KRS判決による非自明性判定基準の変化:

以前は審査が厳しいと言われている化学分野の特許出願で、かなり厳しい審査結果を予想していたにも関わらず、あっさりと特許になって拍子抜けしたようなケースも多々ありました。しかし、最近は我々も実感として、KSR判決を境に自明性(複数の先行技術文献の組み合わせに対する容易性)の審査が非常に厳しくなったと思います。正直な所、KSR判決以前は、「減縮補正を行わないと103条(自明性)で拒絶されるだろうな」と思う様な件が、拒絶を受けずにそのまま特許にということも結構ありました(しかも、審査結果が出るのが早かった)。現在は、特許庁における審査は、より時間をかけてかなり厳密に行われているという印象です。KSR判決において最高裁は以前よりも厳格な非自明性の基準が提示しましたが、判断基準が厳格になった以上に、米国特許庁審査官の自明性審査に対する姿勢が厳しくなったと感じます。

実際に、統計的にみても、米国ではKSR判決以後では拒絶査定を受け審判請求を行う件数が増え(KSR判決前の2006年では3349件→KSR判決後の2008年では6385件)且つ審判請求を行って拒絶が撤回される確率が率低下しています(KSR判決前の2006年では41%→KSR判決後の2008年では28%)。

尚、参考までに、KSR判決後約2年間において、CAFC(連邦巡回区控訴裁判所)が、化学・生化学系の発明を非自明(進歩性有り)と判断したケースが約62%であったのに対して、非化学・生化学系の発明を非自明と判断したケースは約33%であったとの統計データもあるそうです(http://www.jurisdiction.com/dsmith.pdf)。このことは、KSR判決によって、化学・生化学の分野のように効果を予見することが難しい分野では非自明と判断されやすく、一方、機械などの構造物などの効果を予見しやすい分野の発明は自明と判断されやすくなったということを示していると解釈することできます。

最近、米国特許成立の確率が回復(向上)傾向にあるという情報も散見されますが、実際、数字上はそうであっても、これが淘汰(即ち、元々特許性が明らかでない出願は繰り返し拒絶を受けたために放棄されてしまった)や出願人が出願する発明を精査していることによるという可能性もあると思います。弊所の印象としては、現在でも、KSR判決直後と比較すると非自明性の判断も大分緩和されたようにも思いますが、KRS判決以前と比較すると未だ厳しいように思います。実際に弊所で扱っている案件でも、非自明性の拒絶に対してほぼ完璧な対応ができたような場合(先行技術の組み合わせに対する阻害要因の存在を明らかにし、更に実験証明で予想外の優れた効果を明らかにしたような場合)であっても、その後、審査官の理解不足による拒絶を受け、更に何度かインタビューを行って説明したり、細かい補正をすることによって漸く許可になったということもありました。要するに審査官の側に、非自明性の審査は厳格に行うべきという意識があると思います。

自明性の拒絶に対する対応

自明性の拒絶を受けた場合の典型的な対応は以下の通りです:

(a) 審査対象出願の発明や先行技術の開示内容に関する審査官の誤認を明らかにする。
(b) 先行技術の組み合わせに対する阻害要因(teach away)の存在を明らかにする。
(c) 予想外の優れた効果を明らかにする。
(d) 先行技術に教示・示唆されていない特徴をクレームに追加して、更にその特徴による予想外の優れた効果を明らかにする。

その他にも商業的な成功(所謂“secondary consideration”(二次的考慮事項)の例)などが考慮されることもありますが、これらはあくまで二次的に考慮される事項であって、一般的には上記の(a)~(d)で十分な対応が難しい場合に補足的に主張すべき事項です。やはり先ず上記(a)~(d)の観点からの反論を検討すべきでしょう。上記のKSR判決以前は、自明性の拒絶に対して「引用された2つの先行技術文献が異なる技術分野に属するものであるから組み合わせは不当」という反論で拒絶が撤回されることが屡々ありました。しかし、KRS判決以降は、異なる技術分野に属する先行技術文献であっても組み合わせることが当業者の常識の範囲内で容易であれば自明であるということになりました。従いまして、原則的には上記のような対応を考えるべきです。

上記(a)の審査官の誤解についてですが、特に米国の審査官は、技術内容の誤解に基づいて拒絶してくることが多いという印象があります。審査官の指摘を鵜呑みにせずに、自らの出願のクレームの記載や先行技術文献の開示内容を詳細に検討することが重要です。

また、その様な場合においても、ただ審査官の誤解を責めることを考えるのではなく、何故そのような誤解が生じたのかを謙虚に検討してみることが望ましい結果につながることが多いです。具体的には、審査官の誤解の理由を検討し、許容範囲内で、誤解の原因を排除し、発明をより明確に定義できる補正が可能であるならば、そのような補正を行うことが望ましいです。仮に審査官の誤解が明らかであっても、何らかの補正を行った方が、権利化がスムーズになります。

上記(b)の「阻害要因」については、一瞥してそのような阻害要因が見あたらないような場合でも、注意深く、執念深く、引用された先行技術文献を徹底検討すると、「阻害要因」として若しくは「阻害要因」とまではいえずとも先行技術の組み合わせを断ち切るために利用できる記載が見つかることも良くあります。一見自明性の拒絶が妥当に思えても、直ぐにあきらめないことが大切です。米国に限らず外国出願の多くは、現地代理人への依存度が高いと思います。しかし、現地代理人は、自分で明細書を作成したのではないということもあり、明細書や引用された先行技術文献を必要以上に詳細に検討することは通常有りません。現地代理人が半ばギブアップの状態でも、弊所で明細書や先行技術文献を徹底的に検討して有効な反論材料を見出したようなことも少なくありません。

上記(c)の「予想外の優れた効果」に関しては、米国の特許プラクティスの1つの大きな特徴として、出願明細書に記載されていない効果について、出願後に主張することが可能です。(日本や欧州においては、出願時の明細書に教示も示唆もされていなかったような効果に基づいて進歩性を主張することは原則的に許されません。)

また、米国において「予想外の優れた効果」の立証に有効なツールとして、37 C.F.R. 1.132に基づく宣誓書(affidavit)又は宣言書(declaration)(以下、纏めて「宣誓供述書」)があります。この宣誓供述書形式で提出された証言やデータについては、審査官は、公知文献や専門家の見解書と同等の証拠として真摯に検討することが義務付けられています。この宣誓供述書は、最後に文字通り「署名者は、故意の虚偽陳述及びそれに類するものは、18 U.S.C.. 1001 に基づき罰金若しくは拘禁、又はその併科により処罰されること・・・について警告を受けており、本人自身の知識によって行う全ての陳述が真実であること・・・を宣言する」と宣誓して署名するものです。

37 C.F.R. § 1.132の宣誓供述書の詳細については、以下をご参考下さい:
MPEP §716.01(a)MPEP§716.01(c)

また、宣誓供述書については、こちら にもより具体的な説明と、弊所で作成した宣誓供述書のサンプルを幾つか掲載しておりますので、参考までにご覧下さい。

他の国では一般的に審査段階では宣誓供述書の形式での提出は要求されません。しかし欧州の場合、審査の段階では実験証明書を宣誓供述書の形式にする必要はありませんが、異議申立手続きや審判手続きにおいては宣誓供述書の形式にすることが要求されます。

尚、自明性(進歩性欠如)の拒絶に対する対応の仕方については、こちら でも解説しておりますので、ご覧下さい。

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米国(6): 早期審査・審査促進(特許審査ハイウェイ(PPH)等)

米国には、多岐に亘る早期審査・審査促進に関する制度がありますが、それらの幾つかは非常にプラグマティックであり、お国柄が反映された興味深いものとなっています。例えば、優先審査(Prioritized Examination)は、$4,800という高額の費用を支払えば優先的に審査を行うというものであり、早期審査[MPEP708.02(a)に規定された審査促進プログラム(Accelerated Examination Program)]は、米国特許庁に代って出願人自らの責任で先行技術調査と特許性評価を行えば、早期に処理してもらえるというものです。また、2011年12月31日をもって終了してしまいましたが、未審査の出願を取下げることを条件に、別の出願1件について優先的に審査してもらえるという一種のバーター取引のような制度[Patent Application Exchange Program(出願交換プログラム)]も以前は存在しました。

具体的な要件や手続きについては詳細な説明がなされているサイトが多数存在しますので、ここでは各制度の特徴(メリット・デメリット)を中心に概要について説明致します。

[I] 優先審査(Prioritized Examination)制度

米国特許法改正法(Leahy-Smith America Invents Act: AIA)の発効とほぼ同時に導入された新しい制度です。

2011年9月26日以降に提出された出願について、この優先審査制度を利用すれば、平均で12ヶ月以内に最終的な審査結果(許可通知(Notice of Allowance)または最終拒絶(Final Rejection))が得られることになっています。(尚、この優先審査は"Track One"と称されておりますが、"Track Two"は通常審査であり、"Track Three"は通常より実体審査の開始を30ヵ月遅らせた審査のことを意味します。)

近年の米国特許庁における審査の遅延状況を考えると魅力的な制度では有りますが、この制度には以下のような制約やデメリットが有ります:

(1)優先審査の請求は、特許出願(パリ優先権主張出願、継続出願、分割出願を含む)若しくはRCEと同時に行うことが必要

(2)PCT経由の米国出願は対象外(但し、継続出願やRCEを行って、それと同時に優先審査を請求することは可能)

(3)費用が非常に高額である(米国特許庁に支払う申請料:Large entity $4800 、Small entity $2400)

(4)クレーム数に制限が有る(クレーム総数が30以下、且つ独立クレーム数が4以下)

(5)特許庁からのオフィスアクション(拒絶理由通知等)に対し、応答期間(3ヶ月)の延長を行った場合、優先審査の対象から外され、通常出願の取扱となる(費用の払い戻しは無し)

[II] 早期審査制度[MPEP708.02に規定された審査促進プログラム(Accelerated Examination Program)] 

2006年8月25日以降の出願について、早期審査制度[審査促進プログラム(Accelerated Examination Program)]を利用することもできます。こちらも、優先審査(Prioritized Examination)の場合と同様に、平均して12ヶ月以内に最終的な審査結果(許可通知(Notice of Allowance)または最終拒絶(Final Rejection))が得られることになっております。

対象となる出願や申請のタイミングは、上記の優先審査とほぼ同様(但し、RCE提出と同時に請求することはできない)ですが、優先審査と比較して以下の様な相違点が有ります:

(1)特許庁に支払う申請料は$130と低額(優先審査では、$4,800(Large Entity))

(2)クレーム数の制約が、上記優先審査の場合より若干厳しい(クレーム総数が20以下且つ独立クレーム数が3以下)

(3)出願人は、先行技術調査を行い、出願と同時に、特許性を明らかにした早期審査補助文書(Accelerated Examination Support Document)を提出することが必要

(4)特許庁からのオフィスアクション(拒絶理由通知等)に対して30日以内に応答することが必要。期間延長は原則として認められず、期限を徒過すると出願放棄となる

特に(3)の出願人による先行技術調査と早期審査補助文書(Accelerated Examination Support Document)の作成に要する手間と費用、並びに提出した情報に漏れが合った際にInequitable Conduct(不衡平行為)によって権利行使不能(unenforceable)となるリスクの観点から、この手続きの制度の利用に対するネガティブな意見も多く聞かれます。(絶対に利用すべきではないと強く主張している米国の弁護士もいるようです。)

尚、この審査促進プログラムについて、以下の場合には、申請により(1)の費用が免除されます:

- 発明者の少なくとも1人が、病気又は65歳以上の場合

- 発明が、環境改善(environmental quality)、エネルギー資源の開発又は省エネルギー(development or conservation of energy resources)、対テロリズム(countering terrorism)に関するものの場合

[注:しばしば誤解されている方がいらっしゃるようですので、念のために指摘しておきますと、MPEP 708.02のサブセクションI-II及びV-XII(製造の予定や侵害されている等の事情や組み換えDNA、超伝導など特殊発明に関する要件)は、2006年8月25日以前の申請に関する要件であり、現時点での請求には適用されません。]

上記のことから分かる通り、優先審査及び早期審査は、コスト、手間、リスクの観点から、気軽に利用できる制度とは言い難いものとなっています。

日本において既に所望の権利範囲で特許許可されているならば、日本の審査結果に基づく審査促進を可能にするPPHが、最適なオプションの1つとして検討に値すると思われます。

[III] 特許審査ハイウェイ(PPH)

日米間では、平成20年1月4日から、日米特許審査ハイウェイ(PPH)を本格実施しています。データ的には、日本-米国PPHの適用を受けた場合の許可率は約95%と言われております。(http://www.vennershipley.co.uk/show-news-id-202.html

[III-1] PPHの概要

PPHとは、他国の審査結果又はPCTの調査成果に基づいて審査促進(早期審査)をするものです。これに関して、PPHを利用すると、日本で特許査定になったら、その結果をもって直ちに米国でも特許が取得出来るとお考えの方が多いようですが、そうではありません。あくまで日本の審査結果を利用して審査促進するというものです。結果的に、特許成立する確率は高いですが、例えば米国特許庁(USPTO)は、他国の審査結果に従うことを要求されたり推奨されたりするものではありません。

弊所で、USPTOにPPHを申請した件では、USPTOが日本では引かれなかった新たな先行技術文献を引いてきたり、日本で既に考慮された先行技術文献に基づいた新たな拒絶理由を提示してきたことも有りました。そのような件でも、結果的には通常審査よりも早期に特許成立致しましたが、USPTOが、他国の審査結果に従い直ちに特許許可するとは限らないということは念頭に入れておく必要があります。

PPHの申請に関する情報は、日本特許庁のホームページに公開されています。(http://www.jpo.go.jp/torikumi/t_torikumi/highway_pilot_program.htm

[III-2] 日本国特許庁の国内出願の審査結果を利用した特許審査ハイウェイ(PPH)の適用をうけるための条件

PPHの適用をうけるための条件を簡単に纏めますと以下の通りです。

(1) 日本出願と米国出願の対応関係について:

 PPHの適用が可能な日本出願と米国出願の対応関係は大きく分けて以下の3通りになります。
 - 米国出願と日本出願のどちらかが他方の優先権出願である(米国出願又は日本出願がPCT経由の出願である場合を含む)。
 - 米国、日本以外の第三国における出願が、米国出願と日本出願の共通の優先権出願である(米国出願又は米国出願と日本出願の両方がPCT経由の出願である場合を含む)。
 - 米国出願と日本出願とが、共通のPCT出願から派生したものである(ここでPCT出願は、優先権主張していないものや米国及び日本以外の国における出願に基づく優先権を主張しているものも含む)。

尚、米国出願が優先権出願である場合、この出願は仮出願であっても構いません。

また、PCT経由の米国出願で、国際調査機関(JPO又はUSPTO)又は国際予備審査機関(JPO又はUSPTO)が、PCT出願の請求項の特許性に関して肯定的な見解を示した場合には、それに基づいてPPH(PCT-PPH試行プログラム)を申請することも可能です。より具体的には、PCT出願における少なくとも一つの請求項が新規性、進歩性、そして産業上の利用可能性を有することを示す、国際調査機関(JPO又はUSPTO)又は国際予備審査機関(JPO又はUSPTO)の見解書若しくは国際予備審査機関(JPO又はUSPTO)の国際予備審査報告に基づいてPPHを申請することが可能です。詳細につきましては、日本特許庁のホームページに提供されている以下の資料をご参考下さい: http://www.jpo.go.jp/torikumi/t_torikumi/pdf/patent_highway/after_uspto_japanese_kai.pdf

このPCT-PPH試行プログラムは、2012年1月28 日に終了する予定であり、現時点では試行期間延長や本格実施についての情報はありません。

(2) JPOによる特許性判断:

日本出願の少なくとも一つの請求項が、JPOによって特許可能と判断されていなければなりません。

(3) 日本出願の請求項と米国出願の請求項の対応関係:

PPHに基づく審査を申請する米国出願のすべての請求項が、対応する日本出願の特許可能と判断された一又は複数の請求項と十分に対応しているか、十分に対応するように補正されていることが必要です。尚、米国該出願の請求項の範囲が日本出願の請求項の範囲より狭い場合も、請求項は「十分に対応」するとみなされます。

(4) PPH申請可能な時期:

PPHに基づく審査を申請する米国出願は、USPTOによる審査が開始されていない必要があります。

尚、親出願において認められたPPHプログラムへの参加申出及び特別な地位は、継続出願には引き継がれません。継続出願も独自に上記(1)~(4)の要件を満たす必要があります。

[III-3] PPH申請時に提出する書類

PPHの申請書と共にJPOによる審査に関する以下の書類を提出する必要があります。

(1) 許可になった請求項及びその英訳文

(2) 日本出願の「特許査定」の直前の日本出願の審査通知(すなわち、最新の「拒絶理由通知書」)の写と、その英訳文(最初の審査通知が特許査定である場合には、特許査定の翻訳文は不要で、最初の審査通知が特許査定であった旨を説明する)

(3) JPOの審査通知においてJPOの審査官により引用された文献[情報開示申告書(IDS)として提出]

(4) 日本出願と米国出願の請求項の対応表

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欧州(7): 異議申立手続き

欧州特許出願が許可になった後、第三者は特許異議申立(Opposition)をすることが可能です。

この異議申立手続きの結論は、”特許取消し”か”特許維持”か(revocation or maintenance of the European patent)ということになります。統計的には、異議申立を受けた件の約1/3が特許取り消しになっております。

この異議申立手続きで特許取消しとなった場合、当然、EPC経由での加盟国への登録は出来ません。

また、欧州特許庁(EPO)での異議申立手続きにおいて特許維持との結論を得ても、登録先の国で特許無効訴訟を提起されることがあり得ます。そのような場合は、各国の国内法に従い、特許の有効・無効が争われ、EPOの異議決定とは矛盾する結論となることもあり得ます。

日本にもかつては異議申立制度が存在しましたが、2003年に廃止されてしまいました。

現在、日本や米国にも第三者が特許の無効を訴える制度はあります。[*日本では特許無効審判、米国では当事者系(Inter partes)再審査制度がある。米国では、2013年より、欧州の異議申立制度に近い付与後異議申立制度を導入する予定。] 日本や米国においては、少なくとも特許の存続期間中であればいつでも特許無効を訴えることができますが、欧州特許に対する異議申立てには「欧州特許を付与する旨の公告後9月以内」という期限が設定されております。この期限が過ぎてしまうと、欧州特許が登録された各指定国において個別に無効訴訟などを起こさなければならなくなるので、多くの企業はライバル会社の欧州特許出願で特許成立すると障害となる恐れがあるものについては、経緯を監視して、欧州特許庁に許可されたら異議を申立てるということをしております。

特許異議申立期間

欧州特許掲載公報発行の日から9ヶ月の異議申立期間内に異議申立書(申請書のみならず異議理由も含む)を提出し、異議申立手数料[745ユーロ(10万円弱)]を納付します。

特許異議申立申請の有資格者

特許権者以外の誰でも異議申立をすることができ、対象の特許との利害関係などを明らかにする必要はありません。異議申立人が、企業名等を伏せるために、ダミー(Straw man)名義での異議申立することも可能です。

特許異議申立理由

以下の理由に基づいて、異議申立することができます。

- 特許性(新規性、進歩性、主題適格性、産業上の利用可能性)の欠如。

- 実施可能要件違反(当業者が実施可能な程度に発明が記載されていない)。

- 特許が、出願当初の明細書に開示されていなかった主題を含む(新規事項の導入)。

不明瞭性や単一性の欠如は異議理由としては採用されません。

異議部(Opposition Division)の構成

通常、EPO異議部は、3人の審査官で構成される合議体であり、この内2人は、審査に関与していなかったことが要求されます。そして、この審査に関与しなかった2人の審査官の内の一方が議長(Chairman)を務めます。

異議手続きの流れ

多くの場合、当事者により口頭審理が請求されますので、口頭審理が請求された場合の典型的な手続きの流れを示します。

1. 異議申立書を特許権者に通知

2. 異議申立ての方式審査(修正可能な方式上の不備が有る場合には、異議申立人は修正を促され、修正不能な方式上の不備が有る場合には、異議申立ては却下される)

3. 異議申立に対する特許権者の答弁書の提出期限(通常、4ヶ月)を知らせる通知

4. 特許権者の答弁書提出(提出しなくても、そのことにより直ちに特許取消しにはならない)

5. その後、通常、何度か異議申立人と特許権者による提出物の応酬があり、異議部が適切と判断した時期に口頭審理の召喚状を当事者に送付(多くの場合、異議部の予備見解が添付される。また、口頭審理前の書面提出の期限(通常、口頭審理の2ヶ月前)が設定される)

6. 特許権者及び/又は異議申立人による、口頭審理前の準備書面提出

7. 口頭審理が行われ、その場で異議決定の言い渡し

8. 口頭審理の1~2ヶ月後に書面での異議決定送付

Main Request(主請求)とAuxiliary Request(副請求)

特許権者は、複数セットのクレームを提出し、それをEPOに検討させることができます。

より具体的には、第一希望のクレームセットを"Main Request"(主請求)として提出し、第二希望以降のクレームセットを"Auxiliary Request"(副請求)として提出することができます。

Main Requestとしては、1セットのクレームしか提出することができませんが、Auxiliary Requestは複数提出することができます。Auxiliary Requestを複数提出する場合には、Auxiliary Request 1, Auxiliary Request 2.....の様に番号付けし、EPOは番号の若い方から優先的に検討します。

上記した通り、補正による新規事項も異議理由になりますので、補正が新規事項を導入するものであると判断されると、それが理由で特許取消しになってしまいますので、補正には注意が必要です。

また、異議理由に無関係な補正を行うと、例えそれが従属クレームに関するものであっても、補正全体が却下される可能性があります(Rule 80 EPC)。

口頭審理(Oral Proceedings)

口頭審理の請求

異議申立手続きでは、通常、当事者の一方又は両方が口頭審理(Oral Proceedings)を要求します。

口頭審理の召喚状(Summons)と異議部の予備見解

通常、異議申立から1.5年~3年位に口頭審理への召喚状を受けます。そして、この召喚状には、異議部の予備的見解が添付されていることが有ります。

通常、口頭審理の前に期限を切って(通常は口頭審理の2ヶ月前)、新たな書面(証拠、議論、補正クレーム(主請求、副請求)など)の提出を認めています。

その日以後の提出物に関しては、所謂”late-file”とみなされ、EPOはこれを考慮する義務を有しませんが、証拠の関連性などによっては考慮される場合が有ります。

口頭審理の実施

所用時間: EPOにおいて、通常は終日行われますが、簡単な案件は、半日で終わることもあります。また、逆に異議申立人が複数の場合など、数日にわたって行われることもあります。

出席者: 口頭審理には、前もってEPOに知らせておけば、基本的には誰でも出席することは出来ますが、発言を許される人は制限されます。例えば、出願人企業の知的財産部の方なども出席できますが、確実に発言権を確保するためには事前に技術の専門家(Technical Expert)であることをEPOに通知しておくことが望ましいです。

言語: 口頭審理は原則的に特許明細書が作成された言語で行われますますが、要請があればそれ以外の公用語への同時通訳が許されます。

補正: 口頭審理中に、補正の機会が与えられることがあります。多くの場合、口頭審理中に休憩時間が設けられ、この休憩時間中に、代理人が特許権者と相談しながら補正クレームを作成するということがよく行われます。

異議決定: 異議決定は、殆どの場合、口頭審理の最後に言い渡され、書面での決定書は通常1~2ヶ月後に送達されます。

審判(Appeal)

異議部の決定に不服の当事者は、審判請求書を決定通知の日から2ヶ月以内、審判理由補充書を書面による決定書通知の日から4ヶ月以内に提出できます。これらの期間は延長不可です。

 

尚、井上&アソシエイツは、欧州の異議申立て手続きに関しては、受ける方も攻撃する方も経験豊富です。これまでに数多くの異議申立て事件に携わり、理由書、答弁書、弁駁書などを作成して参りました。通常、欧州代理人は、弊所で作成した原稿をほぼそのまま採用して提出します。そして、守る方、攻撃する方のいずれも好成績を収めております。お客様から具体的な指示を頂かずに、基本的な方針決定から具体的な証拠準備も含めて弊所で全て行ってしまうというようなことも屡々です。欧州での異議申立て手続の対応に苦慮されているというようなことがございましたら、是非、経験と実績が豊富な井上&アソシエイツにご相談下さい。

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