却下

欧州(7): 異議申立手続き

欧州特許出願が許可になった後、第三者は特許異議申立(Opposition)をすることが可能です。

この異議申立手続きの結論は、”特許取消し”か”特許維持”か(revocation or maintenance of the European patent)ということになります。統計的には、異議申立を受けた件の約1/3が特許取り消しになっております。

この異議申立手続きで特許取消しとなった場合、当然、EPC経由での加盟国への登録は出来ません。

また、欧州特許庁(EPO)での異議申立手続きにおいて特許維持との結論を得ても、登録先の国で特許無効訴訟を提起されることがあり得ます。そのような場合は、各国の国内法に従い、特許の有効・無効が争われ、EPOの異議決定とは矛盾する結論となることもあり得ます。

日本にもかつては異議申立制度が存在しましたが、2003年に廃止されてしまいました。

現在、日本や米国にも第三者が特許の無効を訴える制度はあります。[*日本では特許無効審判、米国では当事者系(Inter partes)再審査制度がある。米国では、2013年より、欧州の異議申立制度に近い付与後異議申立制度を導入する予定。] 日本や米国においては、少なくとも特許の存続期間中であればいつでも特許無効を訴えることができますが、欧州特許に対する異議申立てには「欧州特許を付与する旨の公告後9月以内」という期限が設定されております。この期限が過ぎてしまうと、欧州特許が登録された各指定国において個別に無効訴訟などを起こさなければならなくなるので、多くの企業はライバル会社の欧州特許出願で特許成立すると障害となる恐れがあるものについては、経緯を監視して、欧州特許庁に許可されたら異議を申立てるということをしております。

特許異議申立期間

欧州特許掲載公報発行の日から9ヶ月の異議申立期間内に異議申立書(申請書のみならず異議理由も含む)を提出し、異議申立手数料[745ユーロ(10万円弱)]を納付します。

特許異議申立申請の有資格者

特許権者以外の誰でも異議申立をすることができ、対象の特許との利害関係などを明らかにする必要はありません。異議申立人が、企業名等を伏せるために、ダミー(Straw man)名義での異議申立することも可能です。

特許異議申立理由

以下の理由に基づいて、異議申立することができます。

- 特許性(新規性、進歩性、主題適格性、産業上の利用可能性)の欠如。

- 実施可能要件違反(当業者が実施可能な程度に発明が記載されていない)。

- 特許が、出願当初の明細書に開示されていなかった主題を含む(新規事項の導入)。

不明瞭性や単一性の欠如は異議理由としては採用されません。

異議部(Opposition Division)の構成

通常、EPO異議部は、3人の審査官で構成される合議体であり、この内2人は、審査に関与していなかったことが要求されます。そして、この審査に関与しなかった2人の審査官の内の一方が議長(Chairman)を務めます。

異議手続きの流れ

多くの場合、当事者により口頭審理が請求されますので、口頭審理が請求された場合の典型的な手続きの流れを示します。

1. 異議申立書を特許権者に通知

2. 異議申立ての方式審査(修正可能な方式上の不備が有る場合には、異議申立人は修正を促され、修正不能な方式上の不備が有る場合には、異議申立ては却下される)

3. 異議申立に対する特許権者の答弁書の提出期限(通常、4ヶ月)を知らせる通知

4. 特許権者の答弁書提出(提出しなくても、そのことにより直ちに特許取消しにはならない)

5. その後、通常、何度か異議申立人と特許権者による提出物の応酬があり、異議部が適切と判断した時期に口頭審理の召喚状を当事者に送付(多くの場合、異議部の予備見解が添付される。また、口頭審理前の書面提出の期限(通常、口頭審理の2ヶ月前)が設定される)

6. 特許権者及び/又は異議申立人による、口頭審理前の準備書面提出

7. 口頭審理が行われ、その場で異議決定の言い渡し

8. 口頭審理の1~2ヶ月後に書面での異議決定送付

Main Request(主請求)とAuxiliary Request(副請求)

特許権者は、複数セットのクレームを提出し、それをEPOに検討させることができます。

より具体的には、第一希望のクレームセットを"Main Request"(主請求)として提出し、第二希望以降のクレームセットを"Auxiliary Request"(副請求)として提出することができます。

Main Requestとしては、1セットのクレームしか提出することができませんが、Auxiliary Requestは複数提出することができます。Auxiliary Requestを複数提出する場合には、Auxiliary Request 1, Auxiliary Request 2.....の様に番号付けし、EPOは番号の若い方から優先的に検討します。

上記した通り、補正による新規事項も異議理由になりますので、補正が新規事項を導入するものであると判断されると、それが理由で特許取消しになってしまいますので、補正には注意が必要です。

また、異議理由に無関係な補正を行うと、例えそれが従属クレームに関するものであっても、補正全体が却下される可能性があります(Rule 80 EPC)。

口頭審理(Oral Proceedings)

口頭審理の請求

異議申立手続きでは、通常、当事者の一方又は両方が口頭審理(Oral Proceedings)を要求します。

口頭審理の召喚状(Summons)と異議部の予備見解

通常、異議申立から1.5年~3年位に口頭審理への召喚状を受けます。そして、この召喚状には、異議部の予備的見解が添付されていることが有ります。

通常、口頭審理の前に期限を切って(通常は口頭審理の2ヶ月前)、新たな書面(証拠、議論、補正クレーム(主請求、副請求)など)の提出を認めています。

その日以後の提出物に関しては、所謂”late-file”とみなされ、EPOはこれを考慮する義務を有しませんが、証拠の関連性などによっては考慮される場合が有ります。

口頭審理の実施

所用時間: EPOにおいて、通常は終日行われますが、簡単な案件は、半日で終わることもあります。また、逆に異議申立人が複数の場合など、数日にわたって行われることもあります。

出席者: 口頭審理には、前もってEPOに知らせておけば、基本的には誰でも出席することは出来ますが、発言を許される人は制限されます。例えば、出願人企業の知的財産部の方なども出席できますが、確実に発言権を確保するためには事前に技術の専門家(Technical Expert)であることをEPOに通知しておくことが望ましいです。

言語: 口頭審理は原則的に特許明細書が作成された言語で行われますますが、要請があればそれ以外の公用語への同時通訳が許されます。

補正: 口頭審理中に、補正の機会が与えられることがあります。多くの場合、口頭審理中に休憩時間が設けられ、この休憩時間中に、代理人が特許権者と相談しながら補正クレームを作成するということがよく行われます。

異議決定: 異議決定は、殆どの場合、口頭審理の最後に言い渡され、書面での決定書は通常1~2ヶ月後に送達されます。

審判(Appeal)

異議部の決定に不服の当事者は、審判請求書を決定通知の日から2ヶ月以内、審判理由補充書を書面による決定書通知の日から4ヶ月以内に提出できます。これらの期間は延長不可です。

 

尚、井上&アソシエイツは、欧州の異議申立て手続きに関しては、受ける方も攻撃する方も経験豊富です。これまでに数多くの異議申立て事件に携わり、理由書、答弁書、弁駁書などを作成して参りました。通常、欧州代理人は、弊所で作成した原稿をほぼそのまま採用して提出します。そして、守る方、攻撃する方のいずれも好成績を収めております。お客様から具体的な指示を頂かずに、基本的な方針決定から具体的な証拠準備も含めて弊所で全て行ってしまうというようなことも屡々です。欧州での異議申立て手続の対応に苦慮されているというようなことがございましたら、是非、経験と実績が豊富な井上&アソシエイツにご相談下さい。

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欧州(9): 早期審査・審査促進(特許審査ハイウェイ(PPH)等)

欧州出願について、早期審査を受けるための手続きとして、PACE (Program for accelerated prosecution of European patent applications)があります。また、欧州特許庁と相互の特許審査ハイウェイ(Patent Prosecution Highway, PPH)利用について合意している国における出願が欧州出願よりも先に許可になった場合には、その情報に基づいてPPHを利用することにより早期審査を受けることが出来ます。

以下、PACEとPPHの要件について簡潔に説明し、最後に両手続きを比較します。

PACE (Program for accelerated prosecution of European patent applications)

EPOのPACEプログラムでは、EPC出願に対するサーチ(先行技術調査)と審査手続のいずれか又は両方を促進することができます。

PACEは、EPO手数料は不要で、単に申請するだけで利用できます(要するに、早期審査を希望する理由の説明などは不要です)。

また、申請する時期についても特に制限は無く、例えば既にEPOから1回以上の審査通知を受けた後でも申請する事ができます。

PACEプログラムの利用を認めるか否かはEPOの自由裁量で決定され、EPO審査部の作業負荷上の問題がなければ、PACEプログラム利用が認められます。

弊所で、これまでにPACEプログラムの利用申請をした件で、申請が却下されたことは無く、また実際に申請後速やかに審査通知が発行されました。利用者が増加すれば、料金を含めた運用が変更される可能性がありますが、現時点では利用者は全出願の1割に満たないという状況であり、そのため無料且つほぼ無条件で利用が認められるという状態でも充分な審査促進効果が達成されているということのようです。尚、利用者が少ない理由については、手続きや効果に問題があるということではなく、欧州特許に関しては、むしろ出願人が早い審査を望まないケースの方が多いからであると言われています。

サーチ(調査)段階におけるPACE

優先権主張していないEP出願の場合、PACEの申請を行わずとも、通常、原則的に出願日から約6ヶ月以内にサーチレポートが発行されます。

優先権主張したEP出願の場合には、PACEの申請により、EPOは可及的速やかにサーチレポートを発行することになっています。

審査段階におけるPACE

審査請求が適正になされていれば、基本的にいつでもPACEによる早期審査を請求することができます。

EPOは、PACE申請受理後、3ヶ月以内に最初の審査報告書を発行するよう努めます。但し、審査通知に対して応答期間の延長を行わずに応答することが要求され、もし延長してしまうと、通常審査に戻されてしまいます。

特許審査ハイウェイ(PPH)

2010年1月29日から開始されていた日本国特許庁(JPO)-欧州特許庁(EPO)間の特許審査ハイウェイ(PPH)試行プログラムは2012年1月28日に一旦終了しましたが、要件を改定した上で、PPH施行プログラムが継続されます。この施行期間は、2012年1月29日から2014年1月28日までの2年間です。

また、以下の説明は、JPO-EPO間のPPH施行プログラムに関してですが、日本出願に基づく優先権を主張して(場合によってはPCT経由で)、米国と欧州の両方に出願した場合、米国の方が先に特許になるということが多いと思います。そのような場合、米国特許庁(USPTO)-EPO間のPPH施行プログラムを利用することも出来ます。

但し、日本や米国でクレームを補正して許可になった場合には、欧州では補正の許容条件が厳しいことに留意が必要です。PPHを利用する場合でも、他国で認められた補正が、無条件で欧州でも認められるわけではありません。あくまで、補正が欧州の規則に違反していないことが必要です。

特に米国での審査結果を利用する米国特許庁(USPTO)-EPO間のPPH施行プログラムの場合、比較的補正に寛容な米国で許容された補正が、欧州では認められないということも十分に考えられます。例えば、数値範囲は、米国であれば基本的に明細書の記載されている数値(実施例における特定の数値を含む)を適宜選択してクレームにおける数値範囲の上限と下限とすることが認められますが、欧州では明確に記載されている数値範囲のみにしか補正することが出来ません。また、米国では図面を根拠とした補正にも比較的寛容ですが、欧州では、図面にしか根拠が無い補正は認められない傾向があります。

1. PPHの概要

PPHとは、他国の審査結果又はPCTの調査成果に基づいて審査促進(早期審査)をするものです。これに関して、PPHを利用すると、日本で特許査定になったら、その結果をもって直ちに米国でも特許が取得出来るとお考えの方が多いようですが、そうではありません。あくまで日本の審査結果を利用して審査促進するというものです。結果的に、特許成立する確率は高いですが、例えば欧州特許庁(EPO)は、他国の審査結果に従うことを要求されたり推奨されたりするものではありません。

2. 日本国特許庁の国内出願の審査結果を利用した特許審査ハイウェイ(PPH)の適用をうけるための条件

PPHの適用をうけるための条件を簡単に纏めますと以下の通りです。

1) 日本出願と欧州出願の対応関係について:

 PPHの適用が可能な日本出願と欧州出願の対応関係は大きく分けて以下の3通りになります。

 - 欧州出願と日本出願のどちらかが他方の優先権出願である(欧州出願又は日本出願がPCT経由の出願である場合を含む)。

 - 欧州、日本以外の第三国における出願が、欧州出願と日本出願の共通の優先権出願である(欧州出願又は欧州出願と日本出願の両方がPCT経由の出願である場合を含む)。

 - 欧州出願と日本出願とが、共通のPCT出願から派生したものである(ここでPCT出願は、優先権主張していないものも含む)。

また、PCT経由の欧州出願で、国際調査機関(JPO又はEPO)又は国際予備審査機関(JPO又はEPO)が、PCT出願の請求項の特許性に関して肯定的な見解を示した場合には、それに基づいてPPH(PCT-PPH試行プログラム)を申請することも可能です(PCT-PPH:三極特許庁間におけるPCT成果物に基づく特許審査ハイウェイ試行プログラム)。こちらも、当初、2012年1月28日で終了の予定でしたが、要件を修正し、PCT-PPHの期限を2014年1月28日まで延長されることになりました。より具体的には、PCT出願における少なくとも一つの請求項が新規性、進歩性、そして産業上の利用可能性を有することを示す、国際調査機関(JPO又はEPO)又は国際予備審査機関(JPO又はEPO)の見解書若しくは国際予備審査機関(JPO又はEPO)の国際予備審査報告に基づいてPPHを申請することが可能です。詳細につきましては、日本特許庁のホームページに提供されている以下の資料をご参考下さい:

http://www.jpo.go.jp/torikumi/t_torikumi/pph_pct/pdf/pct/pct_epo_apply_japanese.pdf

2) JPOによる特許性判断:

日本出願の少なくとも一つの請求項が、JPOによって特許可能と判断されていなければなりません。

3) 日本出願の請求項と欧州出願の請求項の対応関係:

PPHに基づく審査を申請する欧州出願のすべての請求項が、対応する日本出願の特許可能と判断された一又は複数の請求項と十分に対応しているか、十分に対応するように補正されていることが必要です。尚、欧州該出願の請求項の範囲が日本出願の請求項の範囲より狭い場合も、請求項は「十分に対応」するとみなされます。

4) PPH申請可能な時期:

PPHに基づく審査を申請する欧州出願は、EPOによる審査が開始されていない必要があります。

3. PPH申請時に提出する書類

PPHの申請書と共にJPOによる審査に関する以下の書類を提出する必要があります。

1) 日本で許可になったクレームと欧州出願のクレームの対応関係に関する宣誓書(Declaration)、

2) 日本特許庁が発行した全ての審査通知の写とその翻訳文(欧州特許庁公用語である英語、フランス語又はドイツ語のいずれか)、

3) 許可になった請求項及びその翻訳文、及び

4) 日本特許庁に引用された非特許文献全ての写

PPHの申請が認められると、上記のPACEプログラムに従って処理されます。

PACEとPPHとの比較

日本や米国で既に特許成立している場合に、PACEとPPHのどちらを選択すべきかは、一概には言えず、状況に応じて判断されることとなります。

手間と費用

PACEもPPHも、EPO手数料は不要です。しかし、PACEは単に簡単な申請書類を提出するだけであるのに対して、PPHは、他国の審査結果に関する種々の資料等の提出が必要になるため、代理人手数料が高くなります。どの程度高くなるかは、資料のボリューム次第です。

従って、手間と費用の観点からは、PACEの方が有利であると言えます。

早期権利化

PPHも結局、申請が認められればPACEプログラムに従って処理されるため、最初の審査通知が出るまでの期間は、PPHでもPACEでも大きな差はないと思われます。

PPHの利用は、日本や米国で、出願人の所望の権利範囲で特許許可されたということが前提になると思いますが、PPHは、他国の審査結果に関する資料が提供されるため、審査手続きの迅速化の効果は期待できます。

特に、かなり近い技術を開示した先行技術文献があり、日本や米国において、その先行技術との違いを明確にする為に補正を行い、更に効果の違いを明確にする為に実験データを補完して許可を得たというような場合には、PPHによる早期権利化が達成される可能性は高いと考えられます。

但し、上記したように欧州は補正の制限が厳しいため、日本や米国において補正クレームで許可されたような場合に、その補正が欧州で許容されるようなものでないならばPACEを選択する方が賢明ということになります。

また、例えばEPOのサーチレポートで、カテゴリーXの文献(単独で新規性の障害となる文献)が引かれているのに、日本では、そのような文献が考慮されずに特許許可されたような場合には、EPOの審査官は、日本の審査結果はあまり参考にしないでしょうから、余計な費用をかけてPPHを利用するよりも、PACEを利用するほうが賢明であると言えるでしょう。

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欧州(1)

Q. EP出願で指定した国に、別途直接ナショナル出願をすることは許されるのか?

A. 許されます。例えば、EP出願でドイツを指定して、さらに別途ドイツ特許庁に直接出願をすることが出来ます。最終的にはどちらかを選択する必要がありますが、重要な案件の場合に、保険の意味でEP出願とナショナル出願を両方提出しておくということが可能です。

Q. 審査通知などに対する回答期限には猶予期間(グレースピリオド(Grace Period))があると聞いたが本当か?

A. 10日間の猶予期間が有ります(Rule 126(2) EPC)。基本的に、EPOからの通知により応答期限が生じる場合全てに当てはまります。ここではEPOの通知の配送に10日間かかったものとみなし、EPO通知の日付から10日後を応答期限の起算日と見なします。

即ち、応答期間の満了日+10日ではないことに注意が必要です。

例えば、応答期間が4ヶ月のEPO通知で、5月30日が発行日である場合、4ヶ月の期限の満了日は9月30日ですが、10日間の猶予期間を加味した満了日は、この9月30日 +10日の10月10日ではなく、6月9日(EPO通知発行日 +10日) + 4ヶ月の10月9日です。

尚、口頭審理(Oral Proceedings)の召喚状に記載されているRule 116 EPCの期限(口頭審理前の書類提出期限)に関しては猶予期間は有りませんのでこの点にも注意が必要です。

Q. 欧州特許にも、新規性喪失の例外の規定(グレースピリオド(Grace Period))はあるのか?

A. 欧州特許にも、新規性喪失の例外の規定自体はあるのですが、適用の条件が非常に厳しく、発明が公知になってしまっても特許出願できるのは以下のような場合に限られます。

①出願人またはその法律上の前権利者(legal predecessor, 即ち出願人に権利を譲渡した人)に対する明らかな不正行為によって公知になった場合。(例えば、貴社が、顧客に対して貴社と守秘義務を負わせた上で、貴社の発明を開示したにも関わらず、貴社の発明を公開してしまったような場合。)

②公のまたは公に認められた国際博覧会における出願人またはその法律上の前権利者によって発明が開示された場合。
(http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/fips/epo/pc/chap3.htm)

上記②についてですが、ここでの「公に認められた国際博覧会」とは所謂「万博」であり、何年かに一度しか開催されないようなものです(例えば、2010年は上海万博のみ)(EPO Official Journal April 2010のp.280:
http://archive.epo.org/epo/pubs/oj010/04_10/04_2620.pdf)。

従いまして、欧州において新規性喪失の例外の適用を受けられるのは極めて限られた場合のみになりますので、欧州での出願が重要であれば、事前の発表は控えるのが賢明です。

Q. EPOに対する異議申立てを、異議申立人が自発的に取下げた場合、その時点で異議終結となるのか?

A. 異議申立を取り下げてもEPOが自らの判断で審理を継続する場合もあります。つまり、EPOは職権により主体的に審査を行なうということで、このことはArticle 114 EPC(http://www.epo.org/law-practice/legal-texts/html/epc/2010/e/ar114.html)により規定され、Rule 84(2) EPC(http://www.epo.org/law-practice/legal-texts/html/epc/2010/e/r84.html)において確認されています。因みに、日本における特許無効審判の場合、無効確定前であれば、無効審判は終結します。

EPOにおける異議申立の場合、ケース毎に以下のような扱いになります。

(a) 唯一の異議申立人が異議を取下げた場合:

異議終結とするかは異議部の判断による。
原則的には、既に提出された証拠が特許性に影響を与えることが明らかな場合にのみ手続きを継続する。
異議終結させる場合にはEPOは通知を出す。

(b) 異議却下(特許維持)の異議決定を受けて、唯一の異議申立人が審判請求並びに理由補充書を提出し、これに対する特許権者の回答書を受けた後に異議を取下げた場合:

控訴が取下げられたものとして、異議決定が確定して異議終了。

(c) 特許取り消しの異議決定を受けて、特許権者が審判請求並びに審判理由補充書を提出した後に、異議申立人が異議取下げた場合:

請求人は特許権者であるから異議取り下げは、審判手続きに影響を与えない。審判部は、審理を継続し、異議決定の妥当性を検証する義務がある。

尚、上記(a)及び(c)において、審理が継続された場合、異議を取下げた異議申立人の当事者としての地位が維持されることがあるが、そのような場合おいて、異議申立人は積極的に参加することを要求されない。

Q. 欧州においても米国のように実験証明書などを宣誓供述書の形式で提出することは有効か?

A. 欧州では、審査の段階では、追加の実験データ等を宣誓供述書の形で提出する必要はないと言われております。しかし、極めて重要なデータなどは宣誓供述書の形で提出すれば、審査官の心証に影響する可能性は有ると考えられます。 一方で、異議申立て手続きや審判手続きにおいては、実験データなどは宣誓供述書の形で提出する必要があります。

Q. EPOで進歩性判断のテストとして採用されているProblem-Solution Approachとはどのようなものか?

A. Problem-Solution Approach(課題-解決手段アプローチ)は、欧州特許庁(EPO)が採用している進歩性判断のテストであり、EPOの審査ガイドラインにおいて解説されています。 具体的には、以下のようの手順で進歩性を評価します。

(i)  determining the "closest prior art",

(ii)  establishing the "objective technical problem" to be solved, and

(iii)  considering whether or not the claimed invention, starting from the closest prior art and the objective technical problem, would have been obvious to the skilled person.

これに補足を加えて訳すと以下のようになります。

(i)クレームされた発明と最も近い技術を開示する"最近似先行技術"を特定する。

(ii)最近似先行技術を念頭に置き、クレームされた発明が解決する技術的課題を決定する。
[補足: ここで実質的に要求されているのは、クレームされた発明と先行技術の技術的相違点(先行技術には記載されていない当該発明の特徴)を特定し、その技術的相違点に起因する先行技術に対する該発明のアドバンテージを特定することです。このアドバンテージを上記の「技術的課題」と考えれば良いと思います。]

(iii)クレームされた発明が提供する当該技術的課題の解決手段について、当業者が、最近似先行技術から出発して、該解決手段に到達することが自明であったかどうかを判断する。

[補足: 最近似先行技術を検討し、当該技術的課題に直面した当業者が、他の公知技術などを考慮した上で、クレームされた発明が提供する解決手段に到達する見込みについて判断し、この見込みが"could"(「したかもしれない」や「した可能性がある」)では「自明であった」とは言えず、"would"(「したであろう」)であった場合に「自明であった」と判断されます。この"would"は、米国MPEPにおける"with reasonable expectation of success"(「合理的成功の見込みをもって」)とほぼ同意と考えて良いと思います。]

国毎に独自の進歩性判断のテストがありますが、根本的な部分は共通していると考えて良いと思います。 我々も明細書を書くときには、上記の様なアプローチに従って、進歩性を確保できるようなクレームや明細書本文、実施例の構成を考えます。

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米国:QPIDS試行プログラム

米国:登録料支払い後にIDSをUSPTOに考慮させるQPIDS試行プログラムの実施 

米国の現行のシステムにおいては、登録料支払い後にIDSを提出して考慮させる為には、継続出願または継続審査要求(RCE)をすることが必要ですが、登録料支払い後にIDSをUSPTOに考慮させる"Quick Path Information Disclosure Statement" (QPIDS)試行プログラムが、2012年5月16日~2012年9月30日の間実施されます。

QPIDS試行プログラムの適用を受けるためには、EFS-webにて、料金の支払いと共に以下の提出が必要です。

1. QPIDS transmittal (new form PTO/SB/09)

2. IDS、1.97(e) の適時性陳述書(timeliness statement) 及び料金$180

3. 特許発行取下げ申請と料金$130

4. 暫定的継続審査請求("conditional"  Request for Continued Examination(RCE))と料金$930 (large entities)

特許発行取下げ申請が認められると、審査官が速やかに検討し、審査の再開が妥当と判断されると、RCEが認められ、IDS料金は返還されます。

逆に審査の再開が不要と判断されると、修正されたNotice of Allowanceが発行され、RCEは却下され、RCE料金も返還されます。

翻訳の質:レベル2(標準的品質)

レベル2の「技術的観点から、原文の内容と矛盾無く翻訳されている」は、要するに、無難な標準レベルの翻訳が可能ということです。

多くの技術翻訳者・特許翻訳者はこのレベルであり、またこのレベル以上でも無いと思います。技術的に理解出来ない部分が多々有りながらも、とにかく原文との矛盾が起りにくいように工夫して翻訳していると思います。

何故、このような工夫が必要かというと、当然、異なる言語間の直接的変換は不可能である(これが可能であれば、翻訳ソフトで十分なはず)からですが、原文の意味を本当に理解せずに、原文と矛盾しないようにすると、必然的に、原文より広く曖昧な表現になる傾向があります。そして、その結果、原文で意図されていた技術内容が読み取れない翻訳文となってしまうことがあります。

外国特許出願に関しても、誤訳とは言えないまでも翻訳が原因で、審査官に技術を正しく理解してもらえずに問題になることがあります。弊所では、他の翻訳会社などで翻訳された明細書で提出された特許出願案件を中途で預かったり、検討した経験がありますが、その際に発生していた問題の例を以下に挙げます。

尚、以下の例で取り上げている問題点は、プロの翻訳者や技術の専門家にしか理解出来ないというものではなく、特許について多少の知識が有る方であれば容易に理解出来るものであると思います。

例1(翻訳が原因で不明確との拒絶を受けた外国特許出願)

日本企業が出願した米国特許出願のクレームにおいて、特定の膜の物性が、その評価方法と共に規定されていましたが、不明確であるとして112条(記載不備)の拒絶を受けていました。

原文(日本語)とその英訳文

原文:

-- 該膜を介して水と塩水とを対向して接触させた際に、測定開始後5日目の水/塩水の電気伝導度(EC)の差が5.5dS/m以下の膜である --

英訳文(弊所以外の翻訳会社による):

-- the film is one showing a difference in the electric conductivity (EC) in a water/saline solution system at the time of five days after the start of measurement is 5.5 dS/m or less, when the water and saline solution in the system are brought into contact through the film so that the water and saline solution face each other through the film. --

上記英訳文の問題点

この件では、112条(記載不備)の拒絶に対して、当時の日本国内代理人も米国代理人も、このままの表現で明確であると何度か反論して、いずれも審査官に却下されていました。

しかし、弊所で検討させて頂いたところ、この表現では不明確との指摘は尤もであり、補正の必要があると考えました。

問題点(1) : 測定対象特性の不明確さ

“difference in the electric conductivity”が、何処と何処で測定された電気伝導度(EC)の差なのかが不明確である。

問題点(2) : 測定操作の不明確さ

”at the time of five days after the start of measurement ・・・ when the water and saline solution in the system are brought into contact through the film ・・・”というように、afterとwhenが組み合わされて使用されているが、測定において、この水と塩水をどのようなタイミングで接触させているのかが分かり難い。

問題点(3) : テクニカルな観点からの不十分な記載

更に、純粋に翻訳上の問題ではないが、ここで行われているような膜を介したイオン濃度の差の評価においては、測定開始時点の塩水の濃度によって結果は全く異なるものとなるはずであるのに、塩水の濃度が記載されていない。(明細書本文には記載されていた。)

上記の翻訳は標準的なものと言えるかも知れませんが、技術翻訳、特に特許翻訳の場合、原文で意図されたことが翻訳後の文章から明確に読み取れるかということをより一層慎重に検討する必要があります。この際に、技術的観点及び特許実務の観点から、原文に不足・不備が無いかも検討すべきです。

弊所による補正

以上のような観点から、弊所で以下のように補正することを米国代理人に指示し、その結果112条の拒絶は撤回されました。

-- the film shows an electrical conductivity (EC) difference of 5.5 dS/m or less as determined by a method comprising contacting water with a saline solution having a salt concentration of 0.5 % by weight through said nonporous hydrophilic film, measuring respective electrical conductivities of the water and the saline solution 5 days after the start of the contact, and calculating the difference in electrical conductivity as between the water and the saline solution. -- (下線は、強調のために付加した)

要するに、(1)まず、膜を介して水と特定濃度の塩水を接触させ、(2)5日後の水のECと塩水のECを測定し、(3)得られた2つのEC値の差を求める、という測定手順が明確になるように補正しました。実際に、発明者が言わんとしていたのは、このようなシンプルなことです。

ここで、塩濃度は補正でないと追加できませんが、それ以外の箇所については、原文の意味を本当に理解していれば、翻訳の段階で対処出来た筈です。上記の他社による翻訳は、原文の真意を英語に変換することよりも、日本語の翻訳という枠に囚われすぎて、意図が伝わらない英文になってしまったということと推測します。

例2(翻訳が原因で先行技術との違いが不明確になってしまった外国特許出願)

この例は、合金分野の発明に関する日本企業の米国特許出願で、こちらも弊所以外の翻訳会社が明細書を英訳したものです。事情により、弊所で検討する機会がありましたが、翻訳のレベルとしては標準的なものであるようでした。しかし、一見、無難に見えた明細書の英訳文において不明確な翻訳があり、恐らくは、それが原因で審査官に発明の本質を理解してもらえずに困難な状況に陥っていました。

原文(日本語)とその英訳文

まず、原文とその英訳文は以下の通りです。

原文:

-- 最後の中間溶体化熱処理とは、全工程中のある工程と別のある工程の中間に複数回施される溶体化熱処理の内で、工程の順序として最後に施される溶体化熱処理をいう --

英訳文(弊所以外の翻訳会社による):

-- the "final heat treatment for intermediate solution treatment" is the heat treatment for solution treatment which is conducted lastly in order of the steps, among the heat treatments for solution treatment, which are conducted in a plurality of times between one step and another step in the whole process.  --

上記の英訳文が特許出願の審査に及ぼした影響(弊所の推測)

この特許出願案件においては、従来の合金とは異なる合金を製造する上で、「最後の中間溶体化熱処理」が行われるタイミングが非常に重要なのですが、英訳文においては、「最後の中間溶体化熱処理」が、いつ行われる処理なのかが非常に分かり難く、恐らくは、それが原因で、審査官に『製造方法が先行技術に開示されているものと区別できないから、得られる物も区別出来ない』という趣旨の指摘を受けているようでした。

上記英訳文の問題点

上記の英訳文において、「最後の中間溶体化熱処理」が、いつ行われる処理なのかが非常に分かり難くなっている原因は、翻訳者が、完全にこの熱処理のタイミングを理解せずに訳したことによると思われますが、具体的には以下の要因によって原文の意図が伝わり難いものとなってしまっています。

問題点(1) : タイミングを示す単語の不適切な使用

原文の「最後の中間溶体化熱処理」が、“final heat treatment for intermediate solution treatment”と訳されている。これを逆に日本語に直訳すると「中間の溶体化処理のための最後の加熱処理」となる。

この訳だと“final heat treatment”と“intermediate solution treatment”という2つのtreatmentsの関係が分かり難く、特に、中間の(intermediate)処理のための最後の(final)処理ということになってしまっているため、「中間の」と「最後の」という2つのタイミングの相互関係が非常に分かり難い。

問題点(2) : タイミングを示す用語/表現の不統一

上記(1)にも関連して、原文の「最後の中間溶体化熱処理」における「中間」は、原文にも説明されているとおり「全工程中のある工程と別のある工程の中間に複数回施される」という意味だが、この「・・・中間に複数回施される」の英訳において、“intermediate”という用語を使用せずに、単に“plurality of times between one step and another step”としてしまっている。

そのため“intermediate solution treatment”における“intermediate”が「全工程中のある工程と別のある工程の中間」を意味しているということが分かり難い。

問題点(3) : 関係代名詞の不要な重複使用

 “・・・which is conducted lastly in order of the steps, ・・・which are conducted in a plurality of times”というように2重に関係代名詞が使用されており、それぞれの先行詞が分かり難い。その結果、工程のタイミングが分かり難くなっている。

以上(1)~(3)の理由により、日本語の原文を読めばどのような操作を意図しているのか分かるのに、英訳文のみからでは極めて分かり難いということになってしまっており、また米国特許庁の拒絶理由からも、審査官が上記の製法の特徴が理解出来ていないことが伺えました。

弊所案

弊所でしたら、上記の文章は、例えば、以下のように英訳します:

-- the “final intermediate solution heat treatment” means the solution heat treatment carried out as the final one of a set of solution heat treatments each carried out as an intermediate treatment between two different steps involved in the entire process. --

[参考までに、上記の他社による翻訳は以下の通り:

-- the "final heat treatment for intermediate solution treatment" is the heat treatment for solution treatment which is conducted lastly in order of the steps, among the heat treatments for solution treatment, which are conducted in a plurality of times between one step and another step in the whole process.  --]

溶体化や溶体化熱処理の英語表現として“solution heat treatment”という用語は一般的に使用されています。

一応、上記の弊所案でしたら、“final intermediate solution heat treatment”は、中間溶体化のために数回行われる熱処理の内の最後の熱処理を指しているということが容易に分かると思います。

このように、一見無難に見える翻訳であっても、真に技術を理解した上で、それが客観的に理解できるように工夫されていないと、誤解が生じて問題になることが有ります。

また、更に加えて言うならば、合金の業界では「溶体化熱処理」は確立された用語のようですが、審査官が合金分野に精通しているとは限りません。従って、本来、明細書に「溶体化熱処理」の一般的な定義を説明しておくか、若しくは審査通知に対する回答において説明をすべきと考えますが、それがなされておりませんでした。特許の分野では、弁理士のみならず翻訳者もそのような配慮が出来ることが望ましいと考えます。

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米国:Myriad事件最高裁判決

2013年6月13日、Molecular Pathology v. Myriad Genetics, Inc.事件において、米連邦最高裁は、単離された天然のDNAは、自然の産物であり、米国特許法第101条に定められた特許の対象には該当しない(特許の対象とならない)との判決を下しました。(Molecular Pathology v. Myriad Genetics, U.S. Supreme Court, No. 12-398.)

対象となったMyriadの特許は、がん抑制遺伝子であるBRCA遺伝子に関するものでした。

最高裁は、DNAの単離・同定に困難性が伴うことは認めながらも、多大なる労力を要することのみを持って101条の要求を満たすことにはならないと述べております。

Myriad(特許権者)は、DNAをゲノムから単離する際に、化学結合を切断することとなり、その結果得られる分子は天然の物とは異なると主張しました。しかし、最高裁は、Myriad特許のクレームにおいて、そのような化学的変化は規定されていないことを指摘し、上記の主張を認めませんでした。また、これに関連して、最高裁は“仮にMyriadの主張に従って、Myriad特許のクレームが新規な化合物に関するものであるとすると、第三者は、当該遺伝子を含む、より大きなDNAを得ることにより容易に侵害を回避することが可能ということになるが、そのようなことは、Myriad自身も容認できないであろう”という趣旨のことを述べております。

また、Myriadは、過去、米国特許商標庁(USPTO)が、単離された天然のDNAに対して特許を与えてきたことを指摘し、その慣行を尊重すべきことを主張しましたが、この主張も却下されました。

一方、最高裁は、cDNA(人為的に合成される、mRNAに相補的(complementary)な塩基配列を有するDNA)については、特許の対象に含まれると判示しました。


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