判決文

審査通知に対する応答における発明の効果に関する主張について

意見書などで発明の効果を主張する場合に重要なことがあります。日本の審査では、明細書に記載されておらず、かつ、明細書又は図面の記載から当業者が推論できない効果については、意見書や実験証明書などで主張しても考慮されません(審査基準第II部 第2章 2.5、(3)、②参照)。具体的には、日本の審査基準には、以下のように述べられています。

「②意見書等で主張された効果の参酌

明細書に引用発明と比較した有利な効果が記載されているとき、及び引用発明と比較した有利な効果は明記されていないが明細書又は図面の記載から当業者がその引用発明と比較した有利な効果を推論できるときは、意見書等において主張・立証(例えば実験結果)された効果を参酌する。しかし、明細書に記載されてなく、かつ、明細書又は図面の記載から当業者が推論できない意見書等で主張・立証された効果は参酌すべきでない。」

それでは、意見書などで発明の効果を有効に主張する(審査官に斟酌される)ためには、発明の効果が明細書に少なくともどの程度記載されていることが必要なのでしょうか。

その判断基準の参考になる判例の1つが平成17年(行ケ)10389号 審決取消請求事件(解熱鎮痛消炎剤事件)です。この事件における本願発明は、エテンザミドとトラネキサム酸を含有する解熱鎮痛消炎剤です。この事件の重要争点が、明細書における発明の顕著な効果の記載の有無であり、出願人は、「エテンザミドとトラネキサム酸との併用による顕著な効果は当初明細書に記載されている」という旨を主張しましたが、審決取り消し訴訟においてもその主張は認められませんでした。つまり、出願後に出願人が実験証明した効果について、「出願当時の明細書に明記はされておらず、また、明細書の記載から読み取る(推論する)ことも出来きない」という判断がなされたものです。この事件の判決では、本願明細書の記載を引用しつつ、上記争点について以下のように述べています(該判決の第4(「当裁判所の判断」)、3、(3)参照)。

「(3) もっとも,本願明細書には,上記のように,『本発明に用いられるサリチル酸系抗炎症剤としては・・・エテンザミドが特に好ましい。』(段落【0005】)との記載があり,さらに,『【0015】表1より,エテンザミド50mg/kg及びトラネキサム酸200mg/kg単独での抑制率は,それぞれ10%及び14%であり,両薬剤とも軽度の抑制作用が認められた。一方,両薬剤を併用投与した場合の抑制率は56%であり,対照群との間に有意差が認められた。また,この作用をバルジの方法にて検討したところ,併用投与群の相対指数(0.44)は,各単独投与群の相対指数の積(0.77)よりも小さく,併用による相乗効果が認められた。【0016】表2より,エテンザミド100mg/kgおよびトラネキサム酸50mg/kgを併用した場合の抑制率は42%であり,対照群との間に有意差が認められた。また,この作用をバルジの方法にて検討したところ,併用投与群の相対指数(0.58)は,各単独投与群の相対指数の積(0.83)よりも小さく,併用による相乗効果が認められた。』との記載がある。
しかし,本願明細書には,エテンザミド以外のサリチル酸系抗炎症剤にトラネキサム酸を配合した例の記載がなく,エテンザミドを採用することが,それ以外のサリチル酸系抗炎症剤を採用することと比較して,格別に顕著な効果を奏するものであることをうかがわせるような記載もない。そうであれば,本願明細書の段落【0005】,【0015】及び【0016】に上記のような記載があるだけでは,エテンザミドを特定した本願発明が,それ以外のサリチル酸系抗炎症剤を採用する態様に比較して,格別に顕著な効果を奏すると認めることはできない。」
(下線は加えました)

上記判決から明らかなように、明細書において発明の効果が「僅かなりとも」記載されているような程度では足りず、本発明の効果をかなり明確に記載しておく必要があります(なるべく比較実験データを記載しておくことが望ましい)。

米国においては、当初明細書に記載のない新たな効果を主張することについては特に制限がなく、有効に主張できます(In re Chu, 66 F.3d 292, 299, 36 USPQ2d 1089, 1094-95 (Fed. Cir. 1995)、MPEP 2145)。(ただし、そのような議論や実験データを提出する場合には、37 C.F.R. § 1.132に基づく宣誓供述書の形式で提出しないと考慮されない可能性が高いので要注意です。)

EPOにおいては、当初明細書に記載のない新たな効果については、「当初明細書に示唆される技術的課題に含意される(implied by)効果または該技術的課題と関連する(related to)効果」であると当業者が認識する効果であれば、基本的には有効に主張できます(EPOの審査基準のC_IV_11.5.2参照)。

一方、上記判例と対照的な内容の判例を以下に挙げます。「実施例の後出し」が認められた判決として良く話題に上る平成21年(行ケ)第10238号 審決取消請求事件(日焼け止め剤組成物事件)の判決においては、正確にいえば、出願後に出願人が実験証明書で示した効果について、「出願当時の明細書に明記はされていないが、明細書の記載から読み取る(推論する)ことが出来る」という判断がなされたものです。上記の平成17年(行ケ)10389号 審決取消請求事件(解熱鎮痛消炎剤事件)の上記引用判決文との対比のために、参考までに、平成21年(行ケ)第10238号 審決取消請求事件(日焼け止め剤組成物事件)の判決文の要所を下記に引用いたします。

「当初明細書に,『発明の効果』に関し,何らの記載がない場合はさておき,当業者において「発明の効果」を認識できる程度の記載がある場合やこれを推論できる記載がある場合には,記載の範囲を超えない限り,出願の後に補充した実験結果等を参酌することは許されるというべきであり...」(該判決の第4(「当裁判所の判断」)、1、(1)の最終段落を参照)

「前記のとおり,本願当初明細書には,『現在,驚くべきことに,本組成物が優れた安定性(特に光安定性),有効性,及び紫外線防止効果(UVA及びUVBのいずれの防止作用を含めて)を,・・・提供することが見出されている。』(甲3,段落【0011】),『好ましい有機性日焼け止め剤活性種は2-フェニル-ベンズイミダゾール-5-スルホン酸である』(甲3,段落【0025】)と記載されているから,当業者は,UVBフィルターとして『2-フェニル-ベンズイミダゾール-5-スルホン酸』を含み,他の特定成分と組み合わせた本願発明の組成物が優れた紫外線防止効果を有することを理解し,各組成成分の和を超えた相乗効果をも奏し得るであろうことを理解することができるといえる」 (該判決の第4(「当裁判所の判断」)、2、(4)、エの第2段落を参照)

平成17年(行ケ)第10389号 審決取消請求事件(解熱鎮痛消炎剤事件)の判決文と、平成21年(行ケ)第10238号 審決取消請求事件(日焼け止め剤組成物事件)の判決文とを比較・検討することにより、明細書において本発明の効果について最低限どれくらい明確に記載しておく必要があるのかについてのおおよその目安が得られるのではないかと考えます。

なお、上記平成21年(行ケ)第10238号 審決取消請求事件(日焼け止め剤組成物事件)の判決では、「明細書に『発明の効果」について何らの記載がない場合に出願後に実験結果等を提出して効果を主張又は立証することが許されるべきではない」ことの理由に関する理論的考察が述べられています(該判決の第4(「当裁判所の判断」)、1、(1)参照)。日本の審査基準における「意見書等で主張された効果の参酌」の説明の趣旨を理解するうえで参考になりますので、その要点を以下に示します:

「本願当初明細書に記載されていない効果について出願後に実験結果等を提出して効果を主張又は立証することは、先願主義を採用し、発明の開示の代償として特許権(独占権)を付与するという特許制度の趣旨に反する」、

「進歩性の判断に重要な解決課題及び解決手段が提示されているか否かは、『発明の効果』がどのようなものであるかと不即不離の関係があり、したがって、本願当初明細書に記載されていない効果について出願の後に補充した実験結果等を参酌することは、出願人と第三者との公平を害する結果となる」、

「ただし、本願当初明細書に記載されていない効果について出願後に実験結果等を提出して効果を主張又は立証することが許されるべきではないのは、出願人と第三者との公平の要請に基づくものなので、当初明細書に、当業者において『発明の効果』を認識できる程度の記載がある場合やこれを推論できる記載がある場合には、出願の後に補充した実験結果等を参酌することは許されるというべきであり、許されるか否かは、前記公平の観点に立って判断すべきである」

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《判決文》

(和英)

原文:

そして前記アで説示したとおり、相互に非相溶の樹脂同士を溶融混練すれば、体積割合の多い 方の樹脂が構成する海(連続相)の中で、少ない方の樹脂相が島構造となる可能性が高いこと は、当業者であれば容易に予想することができること、もともと海相中に含まれる導電性物質 等の第3成分が島相に移行するためには、海相中を移動する島相が当該第3成分と接して、なお かつ海相-島相間の海面を拡散して島相中へ入り込む必要があり、拡散が通常は正逆方向に移 行可能な反応であること(移行の程度は異なっても、一旦島相に入り込んだ第3成分が再び海相 へ戻る可能性もある。)をも考え合わせると、当初は海相中にのみ含まれていた導電性物質等の 第3成分が、押出機等による比較的短い時間での溶融混練中に海相から島相へ一方的に大量に移 行し、過半を超えるような事態は当業者においておよそ想定しがたいものと認められるから、 「導電性物質の局在化が保たれる」との本件審決の認定に誤りはない。

 英訳文:

Further, as explained in item A above, those skilled in the art can readily anticipate that, when two types of resins which are incompatible with each other are melt-kneaded, a resin having a smaller volume ratio is very likely to form an island structure in the sea portion (continuous phase) formed by another resin having a larger volume ratio.   In addition, the migration of a third component (such as an electroconductive substance) which has originally been contained in a resin forming a sea phase into an island phase requires not only the contact between the island phase (moving through the sea phase) with the third component but also the diffusion of the third component at the sea phase-island phase interface into the island phase (further, it is possible that the third component which has once migrated into the island phase returns to the sea phase although the extent of the migration may vary).  In view of the above, it is recognized that those skilled in the art would hardly expect a migration of a large amount of a third component (such as an electroconductive substance) which has originally been contained only in a resin forming a sea phase into an island phase during the melt-kneading performed by an extruder or the like only for a relatively short time, which results in the presence of more than half amount of the third component in the island phase. Therefore, the Board of Appeal has not erred in recognizing that “localized dispersion of the electroconductive substance is maintained”.

プロメテウス事件に基づく特許適格性分析指針とクレームのドラフティング

2012年7月3日、米国特許商標庁(USPTO)は、 "2012 Interim Procedure for Subject Matter Eligibility Analysis of Process Claims Involving Laws of Nature"(2012 自然法則を含む方法クレームの特許適格性分析のための暫定的手法)と題された指針メモを公表しました。これは、プロメテウス事件の最高裁判決[Supreme Court decision in Mayo Collaborative Services v. Prometheus Laboratories, Inc., 566 U.S. ___, 132 S.Ct. 1289, 101 USPQ2d 1961 (2012)]を受けて、USPTOの審査官のためのガイドラインとして発行されたものです。

米国特許法第101条に規定される特許可能な対象(patentable subject matter)に関する近年の重大判例として挙げられることが多いプロメテウス事件の最高裁判決ですが、実際には、この判例は、特許適格性の定義に新たな光を当てるものと言うよりは、方法クレームのドラフティングを疎かにすることなかれと訓辞するものであると考えます。

背景説明

日本では、特許法2条1項に、特許の保護対象となる「発明」とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と規定されています。

一方、米国特許法第101条は、特許による保護対象として、プロセス(process)、機械(machine)、生産物(manufacture)、組成物(composition of matter)、これらの改良、の何れかに属することを要求していますが、これ以上の制約は明記されていません。1980年のDiamond v. Chakrabarty事件における最高裁判決においては、「太陽の下で人間によってなされたいかなるものも(anything under the sun that is made by man)」が、101条に規定された特許保護対象に含まれるとまで述べられています。しかし、実際には、判例に基づき、抽象的概念(abstract idea)、自然法則(laws of nature)、自然現象(natural phenomena)は、特許の保護対象に含まれないものとされています(MPEP § 2106)。

近年、米国特許法第101条に基づく特許保護対象適格性については、Bilski事件が最高裁で争われ[Bilski v. Kappos, 130 S. Ct. 3218, 561 US, 177 L. Ed. 2d 792 (2010)]、特にビジネス方法について特許適格性の基準を明らかにするものと期待されていましたが、最高裁は、CAFCの大法廷(en banc)が「machine-or-transformation testが、ビジネス方法に関する発明が特許保護の対象になるか否かについての唯一の判定手段」と判示したのを覆し、”machine-or-transformation test”は、有効な判断手段の一つに過ぎないとし、新たな明確な基準を示すことはありませんでした。

また、上記のBilski事件に引き続き、特許保護対象適格性に関して、Prometheus事件も最高裁で争われ、大いに注目を集めていました。

Prometheus事件において有効性が争われた特許は、治療効果を最適化する方法に関するものでしたが、米最高裁判所は、Prometheus特許が請求しているのは自然法則そのものであり、特許保護対象とはならないと判示しました。

日本特許法において、「発明」が「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義されていることからも分かる通り、殆ど全ての発明が何らかの自然法則を応用しているはずであり、Prometheus特許における最高裁の「自然法則そのもの」であるという判示が、医療関係分野に限らず方法のクレーム全般の特許保護対象範囲に与える影響について懸念する声が多く聞かれ、また、Prometheus事件の最高裁判決は、近年のアンチパテントの流れに沿ったものとの見方がされることも有るようです。

しかし、このPrometheus事件に関する限り、多くの特許実務者は、特許保護対象の問題というより、むしろクレームのドラフティングの問題と考えていると思います。自分だったら違ったクレームの書き方をしたと考えた実務者が多いのではないでしょうか?

この事件から本当に導き出される教訓は、何が特許適格性を有する主題なのかというよりも、むしろ単なる自然現象をクレームしていると見なされないように、適切にクレームをドラフティングしなければならないという非常に初歩的な問題であると思います。そして、今回、USPTOが発行したガイドラインも、特許実務者は当然認識していて然るべき基本的な注意事項を扱っているに過ぎません。

Prometheus特許のクレーム

問題になったPrometheus特許の代表的なクレームは、以下の通りです。

原文

A method of optimizing therapeutic efficacy for treatment of an immune-mediated gastrointestinal disorder, comprising:

(a) administering a drug providing 6-tmoguanine to a subject having said immunemediated gastrointestinal disorder; and

(b) determining the level of 6-tmoguanine in said subject having said immune-mediated gastrointestinal disorder,

wherein the level of 6-thioguanine less than about 230 pmol per 8×108 red blood cells indicates a need to increase the amount of said drug subsequently administered to said subject and

wherein the level of 6-thioguanine greater than about 400 pmol per 8x 108 red blood cells indicates a need to decrease the amount of said drug subsequently administered to said subject.


日本語訳

免疫介在性胃腸疾患の治療効果を最適化する方法であって、

(a)該免疫介在性胃腸疾患を有する対象に、6-チオグアニンの薬物を投与する工程、および

(b)該免疫介在性胃腸疾患を有する対象における6-チオグアニンのレベルを決定する工程

を含む方法であり、

該6-チオグアニンのレベルが、赤血球8×108個当たり約230 pmol未満であれば、該対象に対するその後の薬物投与量を増やす必要性があることを示し、そして、

該6-チオグアニンのレベルが、赤血球8×108個当たり約400 pmolを越えるならば、該対象に対するその後の薬物投与量を減ずる必要性があることを示す。

クレームの分析と考察

クレームの分析

上記のクレームの概略を簡潔に纏めてしまうと以下のようになります。

『治療効果を最適化する方法であって、

(1) 特定薬物を投与する工程、及び

(2) 薬物の有効成分の血中濃度を決定する工程、

を含み、そこで(wherein):

 上記血中濃度が特定値未満であれば、投与量の増加が必要、

 上記血中濃度が特定値を超えたら、投与量の減少が必要。』

先ず、注意すべきなのは、Prometheus特許は、「診断方法」や「投薬方法」に関するものと認識されていることが多いようですが、正確には、上記の通り「治療効果を最適化する方法」に関するものです。

考察

上記のことから分かる通り、Prometheus特許のクレームには、「治療効果を最適化する」という目的を達成する手段として何が開示されているかと言うと、薬が少なすぎたら投与量を増やすことが必要になり、逆に少なすぎたら投与量を減らすことが必要になるという1つの判断基準が説明されているに過ぎません。

実際に上記の判断基準に従って決定した量で投薬するという工程までは明記されておらず、単に、適切な投与量の増減の必要性を判断する基準を説明したところで終わってしまっています。

血中濃度が閾地より低くて投与量の増加が「必要」になる、又は血中濃度が閾地より高くて投与量の減少が「必要」になるというようなこと自体は、単なる自然法則と解されても致し方ないでしょう。

当業者であれば、上記Prometheus特許のクレーム文言から、上記の判断基準に基づいて制御された量で薬物を投与するところまで読み込むことが合理的という考え方も出来るでしょう。しかし、クレーム文言通りに解釈して、血中濃度が閾地より低くて投与量の増加が「必要」になる、若しくは血中濃度が閾地より高くて投与量の減少が「必要」になったら、Prometheus特許の権利範囲ということになったならば、実際にそれに基づいて投与量を制御しなくとも、Prometheus特許を侵害してしまうことになり、公平性を欠きます。

また、上記のように『適切な投与量の増減の必要性を判断する』ということは、頭の中だけで出来ることであり、これは101条関連で、Bilsky事件後に、CAFCで争われたCybersource事件(CyberSource Corporation v. Retail Decisions, Inc., No. 2009-1358 (Fed. Cir. August 16, 2011))において特許適格性がないことが確認された「精神的プロセス」(mental process)に当たると言えます。

Prometheus特許のクレームにおける実際の表現は「必要性を示す」(indicates a need to …)であり、実際に「判断する」という表現が使用されている訳ではないので、この事件において、Prometheus特許のクレームが「精神的プロセス」だと認定されたわけではありませんが、特定の薬物血中濃度が投与量の増減の必要性を示すということは、観察者の判断によって決定されることなので、実質的に「精神的プロセス」であると言ってもいいのではないでしょうか。

101条問題の回避

上記のような問題は、基本的なクレームのドラフティングにより、容易に回避できた可能性があります。

例えば、上記の判断基準に基づいて制御された量で薬物を投与するところまでクレームに明記されていたらどうだったでしょうか?その場合、112条(記載要件)や102条(新規性)及び103条(非自明性)を満たすかどうかは別として、101条の問題は回避できた可能性が高いと思います。

また、単に101条を満たすことのみを目的とすれば、「治療効果を最適化する方法」ではなく、「免疫介在性胃腸疾患の治療方法」にしておけば、特許保護適格性が認められた可能性は十分にあると思います。「治療効果を最適化する方法」としたために、最高裁は、特定の薬物血中濃度が投与量の増減の必要性を示すという部分のみを、発明の実質的な特徴と見なしましたが、「免疫介在性胃腸疾患の治療方法」であれば、薬物を投与する工程が発明の実質的な特徴と見なされるはずです。いずれにしても上記の判断基準に基づいて制御された量で薬物を投与するところまで明記しないと、発明の本質的な特徴が明らかにならないとは思いますが、この『薬物を投与する』行為は、明らかに自然法則そのものではないため、101条の問題は回避できると考えます。

CAFCは、Prometheus特許の特許保護適格性を認めたことからも、本件は101条に関しては当落線上にあり、クレームの書き方次第で101条違反を免れることも十分に可能であったことが伺えます。

Prometheus事件に基づきUSPTOが作成した指針

プロメテウス事件の最高裁判決を受けてUSPTOが公表したガイドラインによると、自然法則を含む方法クレームの特許適格性の判断において、以下の3つの点を検討することとしています。

1.  Is the claimed invention directed to a process, defined as an act, or a series of acts or steps? [請求された発明が、行為又は一連の行為若しくは工程によって定義された方法に関するものか?]

2.  Does the claim focus on use of a law of nature, a natural phenomenon, or naturally occurring relation or correlation (collectively referred to as a natural principle herein)? (Is the natural principle a limiting feature of the claim?)

[クレームが、自然法則、自然現象又は自然発生する関係若しくは相互関係(以下、これらは纏めて「自然原理」と称す)の応用に焦点を当てたものか?(即ち、自然原理が、クレームを限定する特徴となっているか?)]

3.  Does the claim include additional elements/steps or a combination of elements/steps that integrate the natural principle into the claimed invention such that the natural principle is practically applied, and are sufficient to ensure that the claim amounts to significantly more than the natural principle itself?

  (Is it more than a law of nature + the general instruction to simply “apply it”?)

 [クレームが、以下のような付加的な要素/工程又は要素と工程の組み合わせを含んでいるか?: 自然原理を、これが実用的に応用されるような形でクレームされた発明に組み込み、且つクレームが明らかに自然原理以上のものに相当するものとなることを確実にするのに十分な要素/工程又は要素と工程の組み合わせ。

 (即ち、クレームが、自然法則と、それを単に応用しろという一般的な指示との単なる組み合わせとなっていないか?)]

上記項目1及び2は自明であると思います。今回の問題点は、項目3に集約されています。

項目3の最後の括弧書きには、Is it more than a law of nature + the general instruction to simply “apply it”?(クレームが、自然法則と、それを単に応用しろという一般的な指示との単なる組み合わせとなっていないか?)とあります。

上記のPrometheus特許の方法クレームでは、血中濃度が閾地より低くて投与量の増加が「必要」になる、又は血中濃度が閾地より高くて投与量の減少が「必要」になるというようなこと自体は、単なる「law of nature」に過ぎず、また実施に際して投薬量の調整が「必要」であるということが理解されても、それは「general instruction to simply “apply it”」の域を出ないということになります。

典型的には、方法のクレームの場合、意図した結果を得るために自然法則を応用して行われる操作を具体的に記載することにより、単に、自然法則そのものを請求していると見なされることを回避することが出来ます。Prometheus特許の場合、例えば、上記したように、上記の判断基準に基づいて制御された量で薬物を投与するところまでクレームに明記されていたら、101条の問題は回避されていた可能性が高いと考えられます。

いずれにしても、冒頭でも述べたように、Prometheus事件最高裁判決及び今回のガイドラインは、米国における特許適格性を有する主題の定義に関して問題提起するものと言うより、方法クレームのドラフティングを疎かにすると特許適格性が否定されてしまうこともあり得るという教訓ととらえるべきでしょう。

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