出発

欧州(5): 審査

比較的厳しくオーソドックスな審査が行われます。審査官や個々の案件により状況は大きく異なりますので、一概にどの国や地域が審査が厳しいと明言することは難しいのですが、一般的に日本や米国よりも厳しいと言われております。我々が扱った案件でも、最初の実体審査通知が許可通知(厳密には、Rule 71(3)の許可予告通知)ということも結構有るのですが、一旦、拒絶されると厳しく追及してくる審査官が比較的多いという印象です。

KSR判決以前は、一般的に欧州の方が米国より審査が厳しいと考えられていましたが、最近は差が小さくなっているように感じます。米国のKSR判決により、米国における非自明性の基準と欧州における進歩性の基準がほぼ等しくなったと述べている欧米のアトーニーもおります。

新規性

欧州においては、日本や米国と比較して、新規性の拒絶は受け難いと言えます。

具体的には、EPOにおいて新規性を否定するためには、審査対象の発明が公知技術文献に直接的且つ明確(directly and unambiguously)に記載されていることが要求され、そのような厳密な意味での新規性を要求する判断基準は、"Photographic Novelty"と称されることがあります。要するに、欧州では、公知文献に内在的に開示されていると判断され得るような事項であっても、それが直接的且つ明確に読み取れ無い場合、そのような事項は公知文献に開示されているとは見なされません。例えば、本発明と公知文献に開示されている発明の違いが、周知技術の付加や周知の均等物による置換などであっても、明示的な違いが有れば、それは新規性ではなく、進歩性の問題とされます。

一方、日本の新規性判断基準は、本発明と公知文献に違いが有っても、その相違が実質的なものでないと判断されると新規性は否定されます。例えば、例えば、本発明と公知文献の違いが、周知技術の付加や周知の均等物による置換に過ぎないと判断されれば、本発明の新規性が否定されます。この様な新規性判断基準は、欧州の"Photographic Novelty"に対比して、"Enlarged Novelty"と称されることもあります。

しかし、仮に新規性を認められても進歩性も認められなければ、結局は特許許可を受けることは出来ませんので、特許性審査において、この新規性判断の厳しさが大きな問題になることは余りありません。例外は、出願時に未公開であった先願(Secret Prior Art)が引用された場合です。この様な出願時に未公開であった先願に対しては、新規性を有することは要求されますが、進歩性まで有することは要求されません。従って、その様な先願が引用された場合、新規性が認められれば、進歩性が無くても特許が認められることとなります。

また、このEPOの新規性判断の考え方は、補正の適格性や優先権主張の有効性の判断にも適用されます。

要するに、補正については、上記のような新規性判断基準(Photographic Novelty)に照らして、補正後の請求項が出願時の明細書の開示に対して新規性が無いと言える程度に、直接的且つ明示的に記載されているものにしか補正することができません。この点については、別途、補正に関してより具体的に説明します。

また、優先権主張の有効性についても、EP出願が、優先権出願に対して新規性を有しないということが要求され、ここでの新規性は、上記したような厳格な意味での新規性になります。要するに、優先権出願から黙示的に読み取れると言えるような発明であっても、優先権出願に直接的且つ明示的に示されていると言えなければ、優先権の有効性が認められません。

進歩性

通常、Problem-Solution Approach(課題-解決手段アプローチ)に沿って判断されます。具体的には、以下のようの手順で進歩性を評価します。

(i)  determining the "closest prior art",

クレームされた発明と最も近い技術を開示する"最近似先行技術"を特定し、

(ii)  establishing the "objective technical problem" to be solved, and

最近似先行技術を念頭に置き、クレームされた発明が解決する技術的課題を決定し、そして

[補足: ここで実質的に要求されているのは、クレームされた発明と先行技術の技術的相違点(先行技術には記載されていない当該発明の特徴)を特定し、その技術的相違点に起因する先行技術に対する該発明のアドバンテージを特定することです。このアドバンテージを上記の「技術的課題」と考えれば良いと思います。]

(iii)  considering whether or not the claimed invention, starting from the closest prior art and the objective technical problem, would have been obvious to the skilled person.

クレームされた発明が提供する当該技術的課題の解決手段について、当業者が、最近似先行技術から出発して、該解決手段に到達することが自明であったかどうかを判断する。

[補足: 最近似先行技術を検討し、当該技術的課題に直面した当業者が、他の公知技術などを考慮した上で、クレームされた発明が提供する解決手段に到達する見込みについて判断し、この見込みが"could"(「したかもしれない」や「した可能性がある」)では「自明であった」とは言えず、"would"(「したであろう」)であった場合に「自明であった」と判断されます。この"would"は、米国MPEPにおける"with reasonable expectation of success"(「合理的成功の見込みをもって」)とほぼ同意と考えて良いと思います。]

審査に要する期間

欧州は審査に非常に時間がかかることも特徴です。通常、審査請求から特許取得まで、3~4年、場合によってはそれ以上かかります。審査官の質は高いのですが、取り扱う案件の数に見合うだけの数の審査官がいないということが最大の原因です。

加盟国におけるプラクティスの違い

EPOより許可された後に、所望の指定国への登録を行いますが、無効訴訟などは国毎に行われ、またその際はその国の法律に基づいて、特許の有効性が判断されます。

特に、ドイツはEPC加盟国でありながら、ドイツで選択発明が認められるか定かで無い点に注意が必要です。このことは、選択発明を認めているEPOにより許可された特許をドイツに登録しても、ドイツでは無効にされる可能性が有ることを意味します。

また、EPC加盟国でも、ベルギー、ギリシャ、オランダ、スイスは方式審査のみですので、これらの国において早期且つ安価に権利を取得することを希望するのであれば、EPO経由でなく直接出願した方が、目標を達成しやすいと言えます。

フランスにおいては、審査段階では新規性についてのみ検討されます。従って、やはりEPO経由よりも直接出願の方が比較的容易に権利化できる可能性があります。但し、無効訴訟においては、進歩性も問題となります(審査中、登録後、訴訟前に補正が可能)。

成分Aの量に関して『好ましい量』

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欧州(1)

Q. EP出願で指定した国に、別途直接ナショナル出願をすることは許されるのか?

A. 許されます。例えば、EP出願でドイツを指定して、さらに別途ドイツ特許庁に直接出願をすることが出来ます。最終的にはどちらかを選択する必要がありますが、重要な案件の場合に、保険の意味でEP出願とナショナル出願を両方提出しておくということが可能です。

Q. 審査通知などに対する回答期限には猶予期間(グレースピリオド(Grace Period))があると聞いたが本当か?

A. 10日間の猶予期間が有ります(Rule 126(2) EPC)。基本的に、EPOからの通知により応答期限が生じる場合全てに当てはまります。ここではEPOの通知の配送に10日間かかったものとみなし、EPO通知の日付から10日後を応答期限の起算日と見なします。

即ち、応答期間の満了日+10日ではないことに注意が必要です。

例えば、応答期間が4ヶ月のEPO通知で、5月30日が発行日である場合、4ヶ月の期限の満了日は9月30日ですが、10日間の猶予期間を加味した満了日は、この9月30日 +10日の10月10日ではなく、6月9日(EPO通知発行日 +10日) + 4ヶ月の10月9日です。

尚、口頭審理(Oral Proceedings)の召喚状に記載されているRule 116 EPCの期限(口頭審理前の書類提出期限)に関しては猶予期間は有りませんのでこの点にも注意が必要です。

Q. 欧州特許にも、新規性喪失の例外の規定(グレースピリオド(Grace Period))はあるのか?

A. 欧州特許にも、新規性喪失の例外の規定自体はあるのですが、適用の条件が非常に厳しく、発明が公知になってしまっても特許出願できるのは以下のような場合に限られます。

①出願人またはその法律上の前権利者(legal predecessor, 即ち出願人に権利を譲渡した人)に対する明らかな不正行為によって公知になった場合。(例えば、貴社が、顧客に対して貴社と守秘義務を負わせた上で、貴社の発明を開示したにも関わらず、貴社の発明を公開してしまったような場合。)

②公のまたは公に認められた国際博覧会における出願人またはその法律上の前権利者によって発明が開示された場合。
(http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/fips/epo/pc/chap3.htm)

上記②についてですが、ここでの「公に認められた国際博覧会」とは所謂「万博」であり、何年かに一度しか開催されないようなものです(例えば、2010年は上海万博のみ)(EPO Official Journal April 2010のp.280:
http://archive.epo.org/epo/pubs/oj010/04_10/04_2620.pdf)。

従いまして、欧州において新規性喪失の例外の適用を受けられるのは極めて限られた場合のみになりますので、欧州での出願が重要であれば、事前の発表は控えるのが賢明です。

Q. EPOに対する異議申立てを、異議申立人が自発的に取下げた場合、その時点で異議終結となるのか?

A. 異議申立を取り下げてもEPOが自らの判断で審理を継続する場合もあります。つまり、EPOは職権により主体的に審査を行なうということで、このことはArticle 114 EPC(http://www.epo.org/law-practice/legal-texts/html/epc/2010/e/ar114.html)により規定され、Rule 84(2) EPC(http://www.epo.org/law-practice/legal-texts/html/epc/2010/e/r84.html)において確認されています。因みに、日本における特許無効審判の場合、無効確定前であれば、無効審判は終結します。

EPOにおける異議申立の場合、ケース毎に以下のような扱いになります。

(a) 唯一の異議申立人が異議を取下げた場合:

異議終結とするかは異議部の判断による。
原則的には、既に提出された証拠が特許性に影響を与えることが明らかな場合にのみ手続きを継続する。
異議終結させる場合にはEPOは通知を出す。

(b) 異議却下(特許維持)の異議決定を受けて、唯一の異議申立人が審判請求並びに理由補充書を提出し、これに対する特許権者の回答書を受けた後に異議を取下げた場合:

控訴が取下げられたものとして、異議決定が確定して異議終了。

(c) 特許取り消しの異議決定を受けて、特許権者が審判請求並びに審判理由補充書を提出した後に、異議申立人が異議取下げた場合:

請求人は特許権者であるから異議取り下げは、審判手続きに影響を与えない。審判部は、審理を継続し、異議決定の妥当性を検証する義務がある。

尚、上記(a)及び(c)において、審理が継続された場合、異議を取下げた異議申立人の当事者としての地位が維持されることがあるが、そのような場合おいて、異議申立人は積極的に参加することを要求されない。

Q. 欧州においても米国のように実験証明書などを宣誓供述書の形式で提出することは有効か?

A. 欧州では、審査の段階では、追加の実験データ等を宣誓供述書の形で提出する必要はないと言われております。しかし、極めて重要なデータなどは宣誓供述書の形で提出すれば、審査官の心証に影響する可能性は有ると考えられます。 一方で、異議申立て手続きや審判手続きにおいては、実験データなどは宣誓供述書の形で提出する必要があります。

Q. EPOで進歩性判断のテストとして採用されているProblem-Solution Approachとはどのようなものか?

A. Problem-Solution Approach(課題-解決手段アプローチ)は、欧州特許庁(EPO)が採用している進歩性判断のテストであり、EPOの審査ガイドラインにおいて解説されています。 具体的には、以下のようの手順で進歩性を評価します。

(i)  determining the "closest prior art",

(ii)  establishing the "objective technical problem" to be solved, and

(iii)  considering whether or not the claimed invention, starting from the closest prior art and the objective technical problem, would have been obvious to the skilled person.

これに補足を加えて訳すと以下のようになります。

(i)クレームされた発明と最も近い技術を開示する"最近似先行技術"を特定する。

(ii)最近似先行技術を念頭に置き、クレームされた発明が解決する技術的課題を決定する。
[補足: ここで実質的に要求されているのは、クレームされた発明と先行技術の技術的相違点(先行技術には記載されていない当該発明の特徴)を特定し、その技術的相違点に起因する先行技術に対する該発明のアドバンテージを特定することです。このアドバンテージを上記の「技術的課題」と考えれば良いと思います。]

(iii)クレームされた発明が提供する当該技術的課題の解決手段について、当業者が、最近似先行技術から出発して、該解決手段に到達することが自明であったかどうかを判断する。

[補足: 最近似先行技術を検討し、当該技術的課題に直面した当業者が、他の公知技術などを考慮した上で、クレームされた発明が提供する解決手段に到達する見込みについて判断し、この見込みが"could"(「したかもしれない」や「した可能性がある」)では「自明であった」とは言えず、"would"(「したであろう」)であった場合に「自明であった」と判断されます。この"would"は、米国MPEPにおける"with reasonable expectation of success"(「合理的成功の見込みをもって」)とほぼ同意と考えて良いと思います。]

国毎に独自の進歩性判断のテストがありますが、根本的な部分は共通していると考えて良いと思います。 我々も明細書を書くときには、上記の様なアプローチに従って、進歩性を確保できるようなクレームや明細書本文、実施例の構成を考えます。

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進歩性の拒絶への対応(Part 3)

(D)その他の反論

異なる技術分野に属する先行技術文献の組み合わせ

進歩性欠如の拒絶は、殆どの場合、複数の先行技術文献の組み合わせにより自明というものです。

以前から実務において、先行技術文献が開示している技術が属する分野が異なるため組み合わせることが出来ないと指摘することが有効な手段の1つとして知られています。

しかし、特に近年は、殆どの国において単に属する技術分野が異なるという理由だけで、進歩性が認められることは少なくなっています。日本、米国、欧州など殆どの国において、技術分野が異なっていても、当業者の常識の範囲内で、組み合わせることが合理的であれば自明というスタンスが採用されています。例えば、米国においてこのスタンスを明確にしたのが2007年のKSR判決です。

従って、単に技術分野が異なるということだけでは不十分で、結局は、意外な効果や分野が異なることによる「阻害要因」が存在するということを示すことが必要になることが多いと思います。

「後知恵」(hind-sight)

「後知恵」に基づく拒絶とは、本来、進歩性(非自明性)の判断は、最近似の先行技術から出発して、審査対象の発明の出願時(即ち、この発明が知られていなかった時点)において、当該発明に到達することが容易であったかを検討することにより行わなければなりませんが、審査対象の発明の内容を念頭において、容易性を判断してしまうことを「後知恵」に基づいた判断と言います。

要するに、当該発明を知らない出願当時の当業者にとって容易であったかを判断しなければならないところ、当該発明を既に知っている審査官自身にとって容易と判断してしまうようなケースを指します。

審査官の判断が不適切な「後知恵」(hind-sight)によるものであるとの主張も有効な対応であると言われておりますが、よほど審査官の側に明らかな誤解があった場合を除いて、審査官に自らの判断を「後知恵」に基づくものであったと認めさせるのは難しいと思います。

「後知恵」に基づく拒絶を出してしまうということは、審査官にとってあるまじき判断ミス、最大のタブーの一つであり、自らの判断を出願人に「後知恵」と言われれば、憤りを感じる審査官も少なくないと思います。

少なくとも先進国の特許庁の審査官であれば、明らかな「後知恵」に基づく拒絶を出してくる可能性は極めて低く、「後知恵」であるという解釈も可能だが明らかでないような場合には、出願人が「後知恵」を主張し、それに対して審査官が「常識の範囲内」と反論し、結局のところ水掛け論で終わってしまう可能性が非常に高いです。その場合、審査官にネガティブな心証を与えるだけで余りメリットが有りません。

もっとも「後知恵」であることを示す明確な証拠があれば別ですが、そのような証拠は多くの場合「阻害要因」の存在を示唆するものであるでしょうから、そもそも審査官が認めることに強い抵抗を示すであろう「後知恵」の議論などせずに、「阻害要因」の存在を主張すれば良いことになります。

以上のことから、阻害要因に関する主張や意外な効果に関する主張の補助としては有効であるかも知れませんが、「後知恵」に関する主張のみで審査官を翻意させることは多くの場合、難しいと考えます。審査官の心証の観点から、他の理由に基づく議論が可能であるならば、むしろ「後知恵」の議論はしない方が良いかも知れません。但し、担当の審査官が変った場合や、審判・訴訟手続きにおいて、審査官の判断や相手の主張に対して行うのであれば、この限りではありません。

「商業的成功」(Commercial Success)

更に、商業的成功を主張できる場合は、補助的にこの主張を加えます。

但し、日米欧の特許庁のいずれも商業的成功については、その成功がクレームされた発明の技術的特徴に由来するものであることが認められた場合にのみ、進歩性判断の際に考慮することになっています。

実務においては、商業的成功に基づく主張は、進歩性の主張が少々弱い場合に補助的に利用します。その例として以下の様なシチュエーションがあげられます:

(a) 効果はあるがその度合いが顕著でない場合(例えば、触媒の発明において、収率が従来の触媒の数%向上しただけだが、既に成熟した技術分野であり、その僅か数%の向上が商業的に大きな意味を持ち、それによって大きな利益を得ているというような場合)、及び

(b) 効果は顕著だが、余りに関連性の高い先行技術文献の組み合わせによって進歩性欠如の拒絶を受けた場合(例えば、装置の発明に関する出願の審査において、属する技術分野、目的などが共通し、構造的にも非常に近いものを開示する2件の従来技術文献の組み合わせによって拒絶を受けたような場合)。

これに対して、従来品に対する優位性を示すことが出来ないのに、商業的成功のみをもって進歩性を主張しても、商業的成功は発明の特徴以外に起因するものという推測が成り立ち、全く考慮されないということになってしまいます。即ち、例えば、従来品と性能は同じ程度しかないが、非常によく売れているから当該発明品は従来よりも優れている筈であり進歩性を有するという様な主張をしても、商売上の成功が純粋に発明の特徴によるものか、それともマーケティングの成功によるものか定かでなく、進歩性判断の材料としては考慮されません。

弊所で、商業的成功に基づく進歩性の主張を行った案件は、いずれも上記(a)又は(b)に該当するようなシチュエーションであり、既に特許成立しておりますが、そこで商業的成功が審査官の判断に影響を与えたのかは、審査官の公式な見解には反映されておりませんでしたので定かではありません。しかし、進歩性判断に関する心証形成の上では何らかの効果はあったはずと考えております。

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進歩性(非自明性)の判断基準

日本の特許審査基準には、進歩性の判断に関して以下のように記載されています(審査基準第II部 第2章 2.5、(3)参照)。

「引用発明と比較した有利な効果が明細書等の記載から明確に把握される場合には、進歩性の存在を肯定的に推認するのに役立つ事実として、これを参酌する。」

「請求項に係る発明が引用発明と比較した有利な効果を有している場合には、これを参酌して、当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたことの論理づけを試みる。そして、請求項に係る発明が引用発明と比較した有利な効果を有していても、当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたことが、十分に論理づけられたときは、進歩性は否定される。」

「しかし、引用発明と比較した有利な効果が、技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものであることにより、進歩性が否定されないこともある。」
(下線は追加しました)

審査基準の上記記載からわかりますように、進歩性を確立するためには、単に「引用発明と比較した有利な効果」があるだけでは不充分であり、

 「当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたことが、十分に論理づけられ」ないこと、及び

 「予想外の顕著な効果」があること、

のいずれか又は両方を示すことが重要になります。

ここでは、日本の審査基準を例に取りますが、このような考え方は、万国共通と考えて良いと思います。

後者(「予想外の顕著な効果」)は、明細書の実施例や比較例のデータを利用したり、新たな実験データを提出することにより示すことになります。

そして、前者(「当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたことが、十分に論理づけられ」ないこと)を示すためには、先行技術から本発明を想到することを妨げるような事情ないし事由(所謂「阻害要因」又は「阻害事由」)の存在を示すことが最も有効です。

要するに、複数の先行技術文献の組み合わせから容易、若しくは、本発明と単一の先行技術文献との相違が、当業者が適宜選択し得る「設計的事項」(最適材料の選択、設計変更、周知の均等物との置換など)に過ぎないという理由で拒絶された場合に、先行技術文献同士を組み合わせること、若しくは設計的事項と認定された技術的特徴を先行技術に適用することを阻害する要因が存在したことを明らかにすることが出来れば、進歩性欠如の拒絶を克服することが出来ます。

阻害要因の例

「阻害要因」には大きく分けて2通りあります。一つは引用発明同士を組み合わせると取り返しのつかないデメリットが生じることが技術常識として知られているといったテクニカルな観点からの阻害要因であり、もう一つは技術的課題の解決方法が逆になるというような技術思想的な観点からの阻害要因です。

上記のテクニカルな観点からの阻害要因としては、主成分(a)と補助成分(b)とからなる医薬品を主題とする発明Xが、成分(a)を開示する先行技術文献Yと成分(b)を開示する先行技術文献Zとの組み合わせにより容易と認定されたという場合を例に取りますと、例えば、文献Yと文献Zのいずれかに「成分(a)と成分(b)を組み合わせると毒性を発揮する」ということを示唆する記載があれば、それは理想的な阻害要因の一例といえます。

また、技術思想的な観点からの阻害要因としては、本発明と先行技術の構成的な相違点が一見非常に小さくとも、その相違点が、本発明と先行技術の目的が全く異なる為に生じたものであることが明らかであるような場合が挙げられます。例えば、本発明が屋外用の塗料組成物に関するもので、先行技術が屋内用の塗料組成物に関するものであり、本発明と先行技術の組成物は同一の成分から構成されている場合を想定します。ここで、本発明には、ある特定の成分(A)の量が、屋外用途のための耐候性を維持する目的で組成物全体の10wt%以下とクレームに規定されており、一方、先行技術には、その成分(A)の一般的な量が、本発明と重複する1~50wt%と記載されているが、先行技術全体の開示から、この先行技術の目的が屋内用途のための吸湿性を向上させることであって、その目的を達成するために成分(A)の量が20wt%以上であることが必要であることが明らかであるような場合、先行技術において成分(A)の量を本発明のクレームで規定された10wt%以下にすることに対する阻害要因があったと認められると考えられます。

補助的な阻害要因

もちろん、上記のような明らかな阻害要因が常に存在するとは限りません。しかし、たとえ明らかな阻害要因が見当たらない場合でも、引用文献の記載を注意深く検討すると、単独では「阻害要因」とまでは言えないかも知れないが、他の有効な方策(たとえば、優れた効果を示す比較実験データの提出、証拠資料の提出、主クレームに何らかの補正を行なうことなど)と併用すれば、いわば補助的に進歩性を支持する要因として利用可能な情報を読み取ることができることがあります(以下、そのような利用可能な情報を便宜的に「補助的阻害要因」と称します)。

阻害要因に関する主張と「予想外の顕著な効果」に関する主張が共にそれ程強く無くとも、これらを組み合わせることによって進歩性が認められることもあります。

「補助的阻害要因」については、たとえば、上記の例で言いますと、先行技術文献Zに成分(b)が開示されているとしても、重要なものとして特筆されている場合もあるでしょうが、単に同列に列挙される数多くの化合物例の中の1つである場合もあります。後者の場合は、補助的な議論として「成分(b)は同列に列挙される数多くの選択肢の1つにすぎず、成分(b)が特に好ましい旨の趣旨は教示も示唆も全くされていないので、それを取り出して成分(a)と組み合わせる動機や理由はどこにもない」という趣旨の議論が有効な場合が有ります。

もちろん、この様な議論は、上記の通り、他の方策と組み合わせて行うものであり、単独では余り効果は見込めません。例えば、文献Yと文献Zとが類似の技術に関するものであって、且つ成分(b)を使用しても文献Zに成分(b)と同列に列挙される他の化合物を使用した場合と比較して格別の効果が無いということでは、上記の様な議論のみで審査官を説得することは困難です。

一例として、本発明、文献Y及び文献Zが二液性接着剤(主剤と硬化剤の2成分からなる接着剤)に関するものであったとして、本発明の成分(a)が主剤で成分(b)が硬化剤であると仮定しましょう。そして、本発明の成分(a)が文献Yに開示されていて、文献Zが硬化剤として列挙している中に成分(b)が含まれていたとします。その場合に、成分(a)と成分(b)を組み合わせた時に、硬化性能やその他の性能が、成分(b)以外の硬化剤化合物を使用した場合と変わりないということでは、成分(a)と成分(b)を組み合わせることに格別の困難性や意外性は見いだせないとして、容易性の拒絶は維持されてしまうと思います。また、成分(b)が周知の硬化剤であったならば、本発明における成分(b)の使用は単なる設計事項に過ぎないとして、文献Yのみに基づいて進歩性が否定されてしまうかも知れません。

具体的には、「成分(b)は同列に列挙される数多くの選択肢の1つにすぎず」という趣旨の議論は、以下のような議論と組み合わせると有効であると考えられます。

(1)成分(b)を使用した場合に、文献Zに成分(b)と同列に列挙される他の成分を使用した場合と比較して顕著な効果が有る。
(2)文献Yと文献Zとは一見類似の技術に関するものだが、単純に組み合わせることが出来ない理由がある。

上記(1)については、たとえば、「成分(b)」と同列に列挙される数多くの選択肢の少なくとも1つ以上と「成分(b)」と間の効果の顕著な差を示す比較実験データを提出できるならば、進歩性を証明するために、かなり有効な手段となります。
上記(2)については、文献Zにおいて上記のようにいくつもの選択肢が同列に列挙されているということは、文献Zにおいてはそれが全て互いに「等価物」であると認識されているということです(なお、これを英語の意見書で述べるならば、たとえば「they are equated with each other」などと表現できます)。したがって、もしも、文献Zに列挙されている化合物群の中に文献Yにおいて使用できないものが含まれている場合、当業者は、文献Zに記載されている成分(b)を含む化合物群を直ちに文献Yに適用することは出来ないと考えるでしょうから、その点を「補助的阻害要因」として利用して、文献Yと文献Zを組み合わせることの困難性を主張することが出来ます。

例えば、上で述べた二液性接着剤(主剤と硬化剤の2成分からなる接着剤)の場合を例に取ると、文献Yと文献Zは共に二液性接着剤に関するものであるが、主剤として使用される樹脂が異なる為に、適する硬化剤も異なるという様な状況が考えられます。即ち、文献Zに成分(b)と同列に記載されている硬化剤は、文献Yの主剤樹脂に対しては硬化剤として機能しないことが知られているというようなことがあれば、その事実に基づいて文献Yと文献Zとを組み合わせることが自明でないと主張することができると思います。

このように、引用例の記載を詳細に検討して、明らかな阻害要因とは言えないまでも、先行技術から本発明に想達することの困難性を示す上で少しでも役立つ事項(上記の「補助的阻害要因」)を見出すことが出来れば、他の主張と組み合わせて進歩性の拒絶を克服出来ることがあります。従いまして、特に進歩性を明確にすることが困難な状況に直面した時には、引用例の内容についての審査官の見解を鵜呑みにするのではなく、引用例の全体を様々な観点から徹底的に分析してみることも必要です。

また、上記では阻害要因と「補助的阻害要因」とに分けて述べましたが、実際においては、上記で例示した「明らかな阻害要因」のような極端な例でもない限りは、多くの場合、阻害要因として利用できるのか(それとも「補助的阻害要因」としてしか利用できないのか)は、審査官の判断を待たないと分かりません。つまり、阻害要因と「補助的阻害要因」との間に明確な線引きができないことが多いものと考えます。さらにいえば、特許庁の段階では「阻害要因」が存在しないと判断されたものが、知財高裁の判断では「阻害要因」が存在すると判断されるということもあります(例えば、以下の判例参照:平成19年(行ケ)第10007号事件;及び平成22年(行ケ)10104号事件)。

クレームの補正

拒絶理由通知への回答を行なう際に、仮に拒絶理由が審査官の明らかな誤認に基づくものであっても、まず主クレームに何らかの補正を行なって主クレームと引用例との違いを、より明確にすることで効率的な権利化が可能になることが少なくありません。

審査官が誤解した原因を検討し、実質的にクレームの範囲を変えずに、誤解の可能性を排除するような明確な表現への変更が可能であれば、一般的に、単に審査官の誤解を指摘するよりも、上記のような変更を行う方がスムーズに権利化できる確率が高くなります。

しかし、クレームの範囲に実質的な変更を加える際には、禁反言(エストッペル)の観点から、将来の権利行使に支障を来たすものでないか慎重に検討することが必要です。特許出願手続きにおいて出願人が意識的に除外した対象については、後からそのような対象について権利主張をすることは禁反言の法理に照らし許されません。特に、先行技術に対する進歩性を明確にする目的で行った補正によって、クレームの範囲外となった対象については、後で権利主張することは出来ません。(参考までに、米国では、このようなルールをRecaptureの原理と称します。)

例えば、上記の二液性接着剤の例において、審査段階で、硬化促進剤(c)を更に含むと補正し、硬化剤(b)との相乗効果で、引用例の接着材と比較して接着剤の効果性能が格段に向上するなどと主張して特許が認められたとします。その後、成分(a)と成分(b)のみを含み、成分(c)を含まない接着剤を製造・販売する第三者がいたとしても、それに対して本発明の均等物として権利侵害を主張するようなことは許されません。(この場合、出願人により意識的に除外された対象は、「成分(c)を含まない」接着剤ということになります。)

上記から明らかなように、進歩性拒絶克服の目的で行った補正によってクレームの範囲外となった対象については、後から権利主張することはできないということを念頭に置いておくことが必要です。

もちろん、補正を渋ることで権利化出来ないのであれば本末転倒ですが、進歩性明確化の為の有用性と将来の権利行使の双方の観点から、どのような補正を行うのか決定することが重要です。

まとめ

上記の要点を以下にまとめます。

- 進歩性欠如に基づく拒絶理由を受けた場合には、明確な阻害要因とまでは言えずとも、効果に関する主張などと組み合わせることにより、進歩性の立 証に役立つ事情ないし事由(上記のような「補助的阻害要因」)が存在することがあるため、引用文献の開示や関連の公知技術などを注意深く検討する。

- 将来の権利行使(禁反言)を念頭においた上で、拒絶の克服に有効な補正が可能か検討する(審査官の誤解が明らかであっても、許容範囲内での補正が可能であれば、補正を行った方が効率良く権利化することが可能になることが多い)。

具体例

参考までに、弊所で実際に提出した意見書において「補助的阻害要因」を述べた例を下記にご紹介します。下記の例では、「引用文献1」と「引用文献 2」が主引用例(primary references)として用いられ、「引用文献3」と「引用文献4」が副引用例(secondary references)として用いられて、引用例の組み合わせによる拒絶を受けたものです。

ご紹介するのは、まず各引用例について詳しく議論した後に、まとめを述べた部分です。意見書では、明細書の実施例と比較例のデータを用いて発明の優 れた効果を示し、それに加えて、引用例について下記の趣旨を議論したものです。この例においては、引用例の組み合わせに関する「補助的阻害要因」は特に主 張せず、本発明と各引用例との技術的関連性についての「補助的阻害要因」だけを主張する形になりました。この結果、一回の回答で特許査定を得ております。 主クレームの補正と、発明の優れた効果を示すデータと、各引用例についての詳しい議論との「合わせ技」により、「進歩性あり」との心証を審査官に与えるこ とができたという感触があります。

「(引用文献1~4に関する説明のまとめ、及び引用文献1~4の組み合わせについて)

審査官殿は、「引用文献1、2には、カチオン化澱粉が本願請求項1に係る発明で規定する粘度及びカチオン化度の範囲を満足することの明記はない が、....」と述べられ、本願請求項1に記載されるカチオン化澱粉の「粘度及びカチオン化度の範囲」が、引用文献3や引用文献4に開示されている旨を述 べておられます。

しかし、上記のように、引用文献1ではジアルデヒド澱粉が必須成分です。ジアルデヒド澱粉は、パルプ繊維と共有結合を形成し得るものであり、本発明 で用いられるカチオン化澱粉とは、化学的特性が大きく異なります。そのような引用文献1の開示を、本発明と同列に論じることはできません。

従って、引用文献1を引用文献3や引用文献4とどのように組み合わせても、本発明の構成に到達することは容易ではありません。

上記のように、引用文献2においては、「カチオン性水溶性高分子化合物」としての「カチオン化澱粉」と、「水溶性高分子ポリヒドロキシ化合物」とし ての「澱粉」のいずれも、他の多くの化合物例と単に横並びに列挙されているものです。よって、引用文献2の開示から、「カチオン性水溶性高分子化合物」と しての「カチオン化澱粉」と「水溶性高分子ポリヒドロキシ化合物」としての「澱粉」とを選び出して特に注目する理由はありません。

従って、引用文献2を引用文献3や引用文献4とどのように組み合わせても、本発明の構成に到達することは容易ではありません。

上記のように、引用文献3においては架橋された澱粉を用いることが必須です。従って、粘度に関して、本発明で用いる澱粉(「粘度レベルが低下された澱粉」)は、引用文献3において用いる「架橋された澱粉」とは、技術的に正反対の方向です。

従って、引用文献3を引用文献1や引用文献2とどのように組み合わせても、本発明の構成に到達することは容易ではありません。

また、上記のように、引用文献4においては、アルキルケテンダイマー(AKD)及び/又はアルケニル無水コハク酸(ASA)が必須成分であり、アル キルケテンダイマー(AKD)やアルケニル無水コハク酸(ASA)は、澱粉とは全く異なる種類のサイズ剤ですので、引用文献4は、本発明とはほとんど無関 係の技術です。そのような引用文献4の開示を、本発明と同列に論じることはできません。

引用文献4の技術の中心は、あくまでも「アルキルケテンダイマー(AKD)及び/又はアルケニル無水コハク酸(ASA)」です。

従って、引用文献4を引用文献1や引用文献2と組み合わせる動機はありませんし、また、引用文献4を引用文献1や引用文献2とどのように組み合わせても、本発明の構成に到達することは容易ではありません。

このように、引用文献1~4をどのように組み合わせても、本発明の構成に到達することは容易ではありません。

従って、本発明の添加剤組成物が引用文献1~4の組み合わせに対して進歩性を有することは明らかです。」

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パラメータ発明、パラメータ特許について(Part 2 国毎の記載要件など)

[II] 「パラメータ発明」について主要国での取り扱いの相違

(II-1)パラメータ発明を許容しているか否か:

日本、米国、欧州、中国、韓国などを含む主要な国で、所謂「特殊パラメータ」で発明を規定することが禁止されている国は有りません。

欧州や中国では、審査基準に、発明をパラメータで特徴付けることは、発明を他の方法で十分に規定することが出来ない場合に限り許されるべきという趣旨の規定が有ります(EPO審査便覧、F部、第IV章、4.11)(中国専利審査指南、第二部分、第二章、3.2.2項)。しかし、通常、特殊パラメータの場合、これを使用せずに他の方法で十分に規定することが出来たということを明確にすることは難しいため、上記の規定が問題になることは少ないと思います。

(II-2)「パラメータ発明」の記載要件(実施可能要件、サポート要件、明確性要件):

発明の分野に関わらず、実施可能要件、サポート要件及び明確性などの記載要件については、各国ほぼ同様の基本的要求が有ります。

- 実施可能要件を満足するためには、クレームされたものを、公知物質から出発して過度の試行錯誤なしに製造する方法を明確に記載することが要求されます。

- サポート要件を満足するためには、クレームに記載した発明は、明細書によってサポートされ、裏付けられていることが要求されます。

- 明確性要件を満たすためには、特許請求の範囲の記載は明確でなくてはなりません。

パラメータ発明の場合に特に注意すべきこととしては、以下の様な点が挙げられます。

注意点(i) 

パラメータの達成手段の記載: 実施可能要件を満足するために、一般的な製造方法のみならず、如何にしてクレームしたパラメータを達成出来るかについて具体的な手段を記載することが必要です。

このことは実施可能要件の観点からのみならず、新規性の立証においても重要になる場合が少なくありません。即ち、特殊パラメータは当然、従来知られていなかったものですので、一見して先行技術においてそれが満たされているか分かりません。先行技術においてパラメータが満たされていなかったことを立証する際に、この特殊パラメータを満足するための方法について、先行技術が、全く開示していない、若しくは異なった製造方法を採用しているということを根拠にすることが多いからです。

パラメータ発明の製造方法が、先行技術に記載された方法と区別できないようなものであると、新規性が欠如しているか、実施可能要件が満たされていないかのいずれかの筈と見なされてしまいますので、この点はパラメータ発明に関する明細書において極めて重要です。

注意点(ii)

日本における記載要件に関する審査基準の厳しさ: パラメータ発明の記載要件について、日本は格段に厳しい判断基準を設けており、且つ出願後に実験データを提出すること(所謂「実施例の後出し」)によって記載要件(サポート要件や実施可能要件)の不備を解消することが認められていません。

日本の記載要件の厳しさについては、日米欧三極特許庁の「記載要件に関する事例研究」という資料に顕著に示されています。

(ii-a) サポート要件:
この資料の事例1においては、日本におけるサポート要件の厳しさが浮き彫りになっています。この事例1は、実際に日本において知財高裁大合議で争われた案件(「偏光フィルム事件」、平成 17年 (行ケ) 10042号 特許取消決定取消請求事件)をモデルにしておりますので、日本特許庁の理解と比較して欧米特許庁の理解が十分で無かった可能性は否めませんが、それでも大いに参考になると思います。(参考までに、「偏光フィルム事件」で取り消された日本特許に対応する米国及び欧州の出願はありませんでした。)

問題となった特許発明は、偏光フィルムの製造法であって、以下の2つのパラメータを満たすことが特徴となっておりました。

原料フィルムの完溶温度(X)と平衡膨潤度(Y)が、
Y > ‐0.0667X + 6.73   ・・・(I)
X ≧ 65          ・・・(II)

そして、この特許には、実施例が2つと比較例が2つ記載されています。

実際には、日本においては、出願後に補正がなされたり、実験データが提出されたりしたのですが、そのようなことは無かったものと仮定して、三極の見解が出されました(この資料の事例1、条件1)。

ここで米国特許庁と欧州特許庁が、記載要件を満たすとの見解を出したのに対し、日本特許庁は十分な記載がないとの見解を示しました。具体的には、日本特許庁は、このような発明において、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するためには、以下のことが必要であると述べております:

- 発明の詳細な説明は、その数式が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が、特許出願時において具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか、又は、

- 特許出願時の技術常識を参酌して、当該数式が示す範囲内であれば、所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載することを要する。

その上で、日本特許庁は、本件においては、具体例として二つの実施例及び二つの比較例が記載されているに過ぎず、また、本願発明が、具体例の開示がなくとも当業者に理解できるものであったことを認めるに足りる証拠はないと述べております。

更に、上記したように、日本においては、出願後に実験データを提出して瑕疵を治癒することは許容されません(資料の事例1、条件2)。

(ii-b) 明確性要件:
また「記載要件に関する事例研究」の事例2、条件1においては、日本における明確性要件の厳しさが顕著に示されています。

この事例2、条件1においては、微粒子の平均粒径が発明の特徴として記載されておりますが、この「平均粒径」の具体的な種類(個数平均径、長さ平均径、体積平均径など)及び測定方法が特定されていません。この事例の明確性要件に関する日米欧特許庁の見解は概ね以下の通りです。

日本: 発明の範囲が不明確。平均粒径の定義、測定方法等が複数あり、当業者間において、どれを使用するのが通常であるとの共通の認識はないというのが当該分野の技術常識。

欧州: 明確性は問題なし。測定方法等の記載が不十分で、権利範囲が定まらない場合、偶発的に先行技術に含まれてしまう恐れがある。しかし、これは開示の十分性の問題では無い。

米国: 技術常識などにもよるので一概には言えないが恐らく記載要件を満たしている。測定方法等が複数あったとしても、結果が非常に類似する場合、特定の測定方法を選択することは重要ではなく、一方で、結果が非常に異なる場合、当該特定の測定方法は容易に明らかだと言える。

(II-3)日本以外の国で、記載要件の拒絶理由を解消するために、実験データを出願後に提出することが許容されるか否か:


記載要件の拒絶理由を解消するために、実験データを出願後に提出することは、日本では上記したように許されませんが、米国、欧州、中国、韓国における運用は以下の通りです。

米国: 可能です。米国は、パラメータ特許に限らず、また記載要件のみならず、非自明性立証目的で明細書に根拠の無い効果に関する実験証明の提出なども認められており、出願後の実験証明書の提出に関しては寛容です。その様な実験証明書を提出する場合、37 C.F.R. § 1.132に基づく宣誓書(affidavit)又は宣言書(declaration)の形式で提出することが望ましいと考えられています。

欧州: 明細書の開示不十分を補う目的での実験証明書の提出は認められていません。

しかし、上記の通り、EPOはパラメータ発明に関して、日本のように特別な記載要件を要求していません。

欧州では、明細書中に当業者が実施可能なように発明が記載されていれば、原則的に具体例は少なくとも1つ開示されていればよいことになっております(EPC施行規則、第III部、第II章、規則42)。もしクレームされた範囲が広い場合には、クレームの範囲全般をカバーする複数の具体例を提示することが要求されます(審査便覧C-II,4.9)。

上記の「偏光フィルム」の例に関しては、EPOはクレームされた範囲に鑑みて実施例が2つもあれば十分という判断を示しています。

しかし、明細書の開示不十分を補う目的では提出できませんので、例えば、出願当時の明細書に全く具体的な開示がないのに、実験証明書で補うことは許されません。

一方、クレームした範囲と比較して明細書に具体例が少な過ぎるなどと指摘を受けた際に、具体例が少なくても明細書の記載から当業者が容易に実施可能ということを実験証明書をもって立証することは禁止されていません。勿論、拒絶理由を解消できるかは証拠の説得力次第になります。

中国: EPOとほぼ同様と考えて良いと思います。化学分野などの予測が困難な技術分野において、明細書の開示が十分か否かを判断する際に、出願日以降に補足提出された実施例や実験データなどは考慮されません(中国専利審査指南、第二部分、第十章、3.4項(2))。

韓国: 審査基準には明確な記載は無いように思われますが、こちらのAIPPIの資料から判断する限り、EPOとほぼ同様と考えて良いと思います。尚、韓国もパラメータ発明の記載要件に関して、日本同様の審査基準を導入するという話が以前ありましたが、現状が定かではありません。少なくとも現行の審査基準の「パラメータ発明の進歩性の判断」の項目において、パラメータの技術的意味の検討の必要性やパラメータと効果の明確化の必要性など、日本で記載要件に含まれているような事項が挙げられており、進歩性が否定された場合に実験成績証明書の提出による反論が可能とされております(韓国特許要件審査基準、第3章、6.4.3)。

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パラメータ発明、パラメータ特許について(Part 4 新規性・進歩性)

[III] 「パラメータ発明」の新規性・進歩性(非自明性):

(III-1)各国における新規性・進歩性の判断

日本、韓国
日本においては、審査官は、合理的に判断して先行技術と同一である蓋然性が高いと判断した場合には、新規性を否定する拒絶を出すことが出来ます。(特許審査基準 第II部、第3章、3.4)

即ち、本発明で規定した特殊パラメータに関して先行技術に記載が無くとも、そのパラメータ以外の構造的特徴や特性の類似性、又は製造方法の類似性に基づいて、先行技術において特殊パラメータ要件が満たされている蓋然性が高いと合理的に判断出来れば、審査官は新規性の拒絶を出すことが出来ます。

このような蓋然性は、日本の審査基準においては「一応の合理的な疑い」と称されております。韓国においても、日本と同様に「一応の合理的な疑い」に基づいて新規性欠如の拒絶を出すことが出来ます。

米国
米国の審査基準においては"Doctrine of inherency"(固有性の原則)に基づいて判断されます(MPEP2112)。米国においては、新規性欠如(anticipation)のprima facie case [(反証がないかぎり申し立てどおりになる)一応の証明がある件]は、inherencyに基づいて良いとされております[ In re King, 801 F.2d 1324, 1327 (Fed. Cir. 1986)]。

要するに、日本も米国も、先行技術においてクレームされた特殊パラメータは明示的(explicitly)には開示されていないが、合理的に判断して、内在的(implicitly)に達成されている可能性が高いという理由で新規性が否定されることが有ります。

欧州
EPOの審査基準9.6(Implicit disclosure and parameters)においては、特殊パラメータで規定された発明の新規性を否定できるのは、先行技術において特殊パラメータ要件が開示されていなくても満たされていることについて疑いがないような場合(where there can be no reasonable doubt)に限られると記載されています。そのような場合の例として、先行技術文献に、本発明と同じ原料と製造方法が記載されている場合が挙げられています。

要するに、一般的に、特殊パラメータ発明の新規性については、日本や米国よりも欧州の方が認とめられやすいという傾向があると言えます。

例えば、米国において要求される証拠能力を表す"preponderance(優位性)"と"clear and convincing"(明確かつ説得力のある)という表現を使用すると、ある先行技術文献が、内在的に本発明の特殊パラメータ要件を満たす証拠(先行技術)として認められるかどうかについて、日本や米国では、"preponderance(優位性)"(どちらかと言えば先行技術において満たされている可能性が高い)があれば、審査官は新規性を否定する拒絶を出すことができ、一方、欧州においては"clear and convincing"(明確かつ説得力のある) である(先行技術において満たされていることがほぼ確実と言える)ような場合にのみ新規性の拒絶を出すことができると言えると思います。

中国
基本的には、日本や米国と同様と考えて良いと思います。中国の審査基準においては、日本や米国のように、「一応の合理的な疑い」や"prima facie case of anticipation"により新規性を拒絶することが可能と明示的には述べられておりませんが、それと同等の記載が中国専利審査指南、第二部分、第二章、3.2.5項に見いだせます。例えば、以下のような記載が有ります:

「逆に、属する技術分野の技術者は当該性能、パラメータに基づいても、保護を請求する製品を対比文献と区別できないならば、保護を請求する製品が対比文献と同一であることを推定できるため、出願された請求項に新規性を具備しないことになるが、出願人は出願書類又は現有技術に基づき、請求項の中の性能、パラメータ特徴を含めた製品が、対比文献の製品と構造及び/又は組成において違うことを証明できる場合を除く。」

そして1つの具体例として、以下を挙げています:

「例えば、専利出願の請求項がX回折データなど複数種のパラメータにより特徴づけた結晶形態の化合物Aであり、対比文献で開示されたのも結晶形態の化合物Aである場合、もし、対比文献の開示内容に基づいても、両者の結晶形態を区別できなければ、保護を請求する製品が対比文献の製品と同一であることを推定でき、当該出願された請求項は、対比文献に比べて、新規性を具備しないことになるが、出願人は出願書類又は現有技術に基づき、出願された請求項により限定された製品が対比文献に開示された製品とは結晶形態において確かに異なることを証明できる場合を除く。」

要するに、本発明と先行技術が共に結晶形態の化合物Aであり、本発明ではX線回折データなどのパラメータ規定が有るとところ、先行技術においてこれが満たされているのか不明な場合、新規性を否定する拒絶を出すことができる、とされています。

共に結晶形態の化合物Aであって、パラメータが不明であれば新規性無しで拒絶出来るということであれば、日本における「一応の合理的な疑い」よりも更にハードルが低い(簡単に、新規性欠如の審査通知を出せる)ことになるように思います。

以上のことから、特殊パラメータで規定した発明の場合、日本、米国、中国、韓国では、合理的な判断に基づいて新規性欠如の可能性が高いと判断すれば新規性欠如の拒絶を出すことができ、欧州は新規性欠如であることに疑いが無いような場合にしか新規性欠如の拒絶を出すことが出来ないということになっております。しかし、勿論、新規性が認められたとしても、進歩性も認められなければ特許は認められません。

いずれにしても新規性のみならず進歩性を確立しなければ、特許は認められませんので、通常は、拒絶理由が新規性欠如であるか進歩性欠如であるかはそれ程重要ではありませんが、例外として、審査官に引用された先行技術文献が、出願時に未公開であった先願(所謂"secret prior art")の場合には大きな問題となる可能性が有ります。

即ち、出願時未公開の先願の場合には、米国以外の多くの国においては、これに対して新規性さえあれば進歩性が無くても特許が認められることになっておりますので、新規性が認められれば特許性を認められることになります。ですから、例えば、特殊パラメータで規定された発明の場合に、そのパラメータが知られていなかったというだけで新規性が認められるならば、出願時に未公開であった先願に対しては自動的に特許性が認められるということになります。このことについては、こちらで詳細に説明しております。

進歩性については、特殊パラメータで規定された発明は、殆どの場合、パラメータ範囲で特定の効果が得られることに基づいていると考えられますので、先行技術においてその特殊パラメータを満たすものが得られていなかったことを明確に出来れば(要するに新規性を明確にできれば)、進歩性は比較的容易に認められるケースが多いと思われます。

(III-2)典型的な拒絶理由

パラメータ発明に関する特許出願が、新規性・進歩性(非自明性)の欠如で拒絶される場合の典型的な理由としては、以下のようなものがあげられます。

(1) 先行技術文献に記載された他のパラメータからの換算、推定により、本発明のパラメータ要件が満たされている蓋然性が高い。

(2) 上記パラメータ以外の特徴が共通しており、さらに先行技術が本発明と同様の効果を謳っているため、本発明のパラメータ要件が満たされている蓋然性が高い。

(3) パラメータ発明の出願明細書に記載されるのと同じ又は類似の出発物質と製造方法が先行技術文献に開示されている。従って、本発明と同様のものが得られている蓋然性が高い。

(III-3)対応策

上記からも明らかな通り、特殊パラメータ発明の場合には、従来知られていなかったパラメータで発明を定義するという性質上、先行技術の開示のみからは、クレームされた発明との相違が分からないため、新規性の拒絶理由は「先行技術において内在的にパラメータ要件が満たされている可能性が高い」ということになります。

典型的には、以下の2通りの方法のいずれかによって対処します:

(1)先行技術の実施例を再現して本発明のパラメータが達成されていないことを証明する。

(2)本発明のパラメータ要件を達成するための方法について以下を証明する:  2-1)本発明で採用されている「特定の製造方法」でなければ、クレームされたパラメータ要件を満足することができない。

2-2) 先行技術においては、上記の「特定の製造方法」は採用されていない。

上記(1)の如く「先行技術の実施例を再現」して、本発明のパラメータ要件が達成されていないことを立証する場合、先行技術の実施例の1つや2つを再現すれば良いのであれば、それ程手間もかからないでしょうが、先行技術の特定の限られた実施例についてのみ再現実験を行って、新規性が認められるということは多くないと思います。

一方、先行技術文献の実施例を全て再現すること若しくは先行技術文献の代表的な実施例(先行技術の開示範囲をカバー出来るような実施例)を選択することは通常難しく、更に、このような対応を取ったとしても、先行技術の開示を実施例に限定して考えるべきではない(先行技術文献の記載全体を考慮した上で、本発明が教示も示唆もされていないことを示す必要がある)という趣旨の指摘を審査官から受けてしまうことも充分あり得ます。

このような理由から、実際には、上記(2)の「本発明のプロダクトを得るための製造方法」に基づいて、新規性を示すことによって対応することが多いと思います。

この場合、本発明において採用されている製造方法が、先行技術で採用されているものと明らかに異なる場合には、上記2-2)(先行技術の製造方法が異なる)は容易に示すことができるということで、後は上記2-1)(特定の製造方法の必要性)を証明すれば良いことになります。

これに対して、本発明と先行技術の製造方法が類似しているが、先行技術に本発明のパラメータ要件を達成する為の具体的な製造条件の開示が無い場合や、本発明で採用している製造条件が、先行技術文献のブロードな開示に含まれているような場合には、以下のように少々複雑な対応が必要になることが多いと考えられます。

先行技術に具体的な製造条件の開示が無い場合

本発明で採用されている製造条件が、本発明のパラメータを達成する為に必須であることを証明すれば、新規性が認められる可能性が有ります。

本発明で採用している製造条件が、先行技術文献の開示に含まれている場合

本発明で採用されている製造条件が、本発明のパラメータを達成する為に必須であることに加えて、本発明で採用されている条件を採用することに関する阻害要因や効果の意外性を示すことが出来ないと新規性・進歩性を認めさせるのは難しいかも知れません。

出願後に、データの補完や減縮補正を行うことにより拒絶を克服出来ることも有りますが、最も注意すべきことは、出願時の明細書に、パラメータ要件を達成する為の手段を明確に記載しておくことです。先行技術文献に同じ製造方法が記載されているという理由で拒絶を受けた際に、パラメータ発明の製造方法が、先行技術に記載された方法と区別できないようなものであると、新規性が欠如しているか、実施可能要件が満たされていないかのいずれかの筈と見なされてしまいますので、この点はパラメータ発明に関する明細書において極めて重要です。

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