優先件

PCT(6): 国際出願のメリットとデメリット

PCT国際出願には、例えば以下のようなメリットとデメリットがあります。

PCT国際出願のメリット

出願手続きの簡便さ

パリ条約に基づく優先件を主張して外国に直接出願する場合には、その国の言語の明細書を準備し、その他、その国で要求される書類(国によっては公証・認証が必要な場合もある)と共に提出するといった手続きを、優先日から1年以内に完了させる必要があります。

一方で、PCT国際出願の場合には、一定の形式にさえ従っていれば、日本語で日本の特許庁に出願できます。従って、翻訳文作成の時間がない場合などにも便利です。また、各国に直接出願した場合には、それぞれの国に優先権証明書を提出する必要がありますが、国際出願で行えば、各国ごとに優先権証明書を提出する必要はありません。

実際に外国へ出願する時期を先延ばしすることができる

30月乃至31ヶ月まで各国への移行手続きを繰り延べることができるので、その間の市場や技術の動向、企業方針等の変化に応じて柔軟な対応ができます。

また、翻訳文作成の時間が十分にあるので質の高い翻訳文の作成が可能になります。

以前は、国際出願時に権利取得をしたい国を指定し、指定手数料を支払う必要がありましたが、現在は、出願時に全ての加盟国を自動的に指定したことになり(みなし全指定)ますので、国際調査や国際予備審査の結果や、30月(乃至31ヶ月)の期限内に発明の価値変化などに応じて実際に国内へ移行する国を決めるということができます。

明細書の修正・補強が出来る

この点については、別項で詳細に説明しますが、基本的に日本国内の最初の出願は、通常、早期に提出することを最重要視しますので、PCT国際出願の際に、時間をかけて明細書を再検討して、修正・補強できるということは非常に大きなメリットです。

殆どの国において誤訳補正ができる

パリ優先権を主張して直接外国に出願した場合は、優先権出願の明細書の記載を根拠にして誤記補正をすることはできません。パリ優先権主張して提出された外国出願に関して、優先権出願の明細書は、外国出願明細書に記載された発明が優先権出願時になされたものであることを証明するための証拠とはなりますが、外国出願の明細書は、優先権出願明細書の翻訳文という扱いにはなりません。

日本や米国のように、基礎出願から1年以内に差し当ってその国の言語以外の言語の明細書で出願して、後から明細書の翻訳文を訂正することができ、またその翻訳文における誤訳を訂正できる国も有ります(日本で言うとことの「外国語書面出願」)。しかし、中国、韓国のように、その国の言語以外での出願が許されない国も多数存在します。そのような国では、作業上は、優先権出願明細書を中国語や韓国語に翻訳したものを提出するかも知れませんが、中国語や韓国語の出願明細書は翻訳文とはみなされず、当然、誤訳の訂正もできません。

一方、PCT国際出願の場合には、外国特許庁に提出されるのは、PCT出願明細書の「翻訳文」という扱いになります。国内段階で誤記・誤訳・訳抜けなどが有った場合には、PCT出願明細書には正しく記載されていたことを明確にできれば、補正が許されます。

特に、一番深刻なのは、主に英語以外の言語の翻訳が必要な国で問題になることがある「訳抜け」ですが、PCT経由の出願であれば、PCT出願明細書に基づいて補正可能です。これに対して、パリ優先の外国出願では、たとえ優先権出願に記載が有っても、外国出願明細書に抜けている記載を補正で補うことはできません。

PCT国際出願のデメリット 

出願費用

特に出願国の数が少ない場合(例えば3ヶ国以下)は、PCT出願費用がかかる分、出願費用が高くなってしまいます。

しかし、例えば、優先日から1年以内に重要な国が絞りきれずに、安全策をとって数カ国余計に出願してしまったというようなことがあれば、それによるロスがPCT出願コストを上回るかも知れません。また、逆に優先日から1年以内に出願しなかった国に関して、その後、その国での権利化が重要であることが判明したというようなことがあれば、潜在的な損失は計り知れないものとなってしまいます。

特許取得に時間がかかることがある

多くの場合、優先日から30月乃至31ヶ月という期間を利用して、移行国を決定しますので、権利取得までの期間が長くなりやすいという傾向があります。

総評

上記から分かる通り、やはりPCTによるメリットは大きく、そのため冒頭でも述べたように、日本出願の件数が頭打ち若しくは減少傾向であるにもかかわらず、日本特許庁に提出されるPCT出願の件数は増加し続けています。

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その他(意匠)

Q. 日本の意匠登録出願に基づく優先権主張をして外国に意匠登録出願する場合、特許の場合と同様に、日本出願から1年以内に外国出願すれば良いのか?

A. パリ条約による優先期間は、特許については1年ですが、意匠については6ヶ月と定められています。従って、日本の意匠登録出願の日から6ヶ月以内に外国出願手続きを完了させなければ優先権を享受することはできません。

これは、勿論、日本における意匠登録出願と特許出願の内容を纏めて、これらに基づく優先権主張をして1件の外国出願をする様な場合も同様です。即ち、例えば、2012年5月1日に提出した国内特許出願と2012年10月30日に提出した国内意匠登録出願とに基づく優先件を主張して、2013年5月1日に1件の外国特許出願をしようとした場合、国内特許出願からは1年以内ですが、国内意匠登録出願からは6ヶ月(2013年4月30日)を経過してしまっているので、上記意匠登録出願に基づく優先権主張は無効です。

Q. 意匠には、特許のPCT国際出願や商標のマドプロ出願のような、国際出願の制度は存在するのか?

A. 意匠の国際登録制度としてヘーグ協定というものが存在しますが、基本的な制度の違いから、日本は未加盟です。従って、原則的には日本人、日本法人は利用できないのですが、加盟国に住所若しくは現実かつ真正の工業上若しくは商業上の営業所を有している場合には、利用することができます。

欧州であれば欧州共同体意匠制度を利用して出願することができます(EU加盟27カ国の全てをカバー)。欧州以外の国(アメリカや韓国など)へ出願するためには、上記した事情でヘーグ協定が利用できる場合を除いては、各国へ個別に出願する必要があります。

中国(2)

Q. 日本で発明を展示会発表してから6ヶ月以内に新規性喪失の例外の適用を受けて日本出願をした。その日本出願に基づく優先権を主張して中国に出願した場合、日本での発表に対して新規性を確保できるのか?

A. まず、中国においても「世界公知」の先行技術が採用されますから、日本における展示会発表は先行技術と見なされます。そして中国においても新規性喪失の例外の規定は存在します。自らの公開後から出願可能な期間は日本と同様に6ヶ月です。中国においては、この6ヶ月以内に中国出願をする場合の他、この6ヶ月の間に出願日を有する中国以外の国の出願に基づく優先権を主張して、この6ヶ月の期間の経過後に中国に出願した場合にも新規性の喪失の例外の適用を受けることができます。(日本においては、公開後6ヶ月の期間の間に、日本出願又は日本を指定するPCT国際出願を提出する必要があり、外国で新規性の喪失の適用を受けた出願であっても、それに基づく優先件を主張して、公開から6ヶ月を経過した後に日本に出願したような場合、新規性喪失の例外の適用を受けることはできません。)

しかし、中国においては、新規性喪失の例外を適用を受けることができる公開手段が大きく制限されています。中国専利法第24条によれば、新規性喪失の例外規定の適用を受けられる公開手段は、①中国政府が主催、または承認した国際展示会での展示、②定められた学術会議あるいは技術会議での発表、となっています。しかし、具体的にどのような展示会における展示が新規性喪失の例外の適用の対象になるのを明らかにした資料などが存在しません。例えば、2010年に開かれた上海万博での展示などであれば、明らかに同規定の適用の対象となったでしょうが、そのような特別な例を除いては、適用の申請をしてみないと分からないというのが実情のようです。

従いまして、結局のところ中国において新規性の喪失の例外の適用を受けることができる場合は極めて限られており、発明を公開する前に中国に出願しておくことが無難です。


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