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米国における特許訂正の効力について - 再発行、再審査による補正に関する注意点 -

特許を取得した後に、特許クレームの訂正(補正)をする必要が生ずる場合があります(ここで言う「訂正」とは、クレームの減縮、拡張等、クレームの権利範囲に実質的な変更を加えることをいう。クレームの権利範囲に影響を及ぼさないものは含めない。)。

米国においては、日本の場合と同様に、特許後にクレームを訂正することができます。しかし、米国では、特許クレームを訂正すると、訂正を受ける前の原特許クレームについては、権利放棄されたとみなされて訂正前に行われた第三者の行為に対する権利行使は不可能になり、訂正後の特許クレームに対しても第三者に一定の実施権が認められますので、注意が必要です。このことについて、以下具体的に説明します。

再発行(reissue)と再審査(reexamination)によるクレーム訂正

米国においては、特許クレームを訂正するための手段として、再発行(reissue)と再審査(reexamination)とがあります。再審査の場合には、クレームの拡張はできませんが、再発行の場合にはクレームの拡張も可能です(ただし、特許クレームを拡張するような訂正を申請することができるのは、原特許取得後2年以内に限られます)。特許クレームを拡張するような訂正が可能であるという点では、米国の特許法は、日本の特許法と大きく異なります。日本では、特許クレームを拡張するような訂正は認められません。

訂正クレームの分類

米国において特許の訂正を行う場合、原クレームのいくつかは訂正を受けずにそのまま残り、原クレームのいくつかは訂正(減縮、拡張等)を受けるでしょう。また、原クレームのいくつかは削除されることもあり、新たなクレームが追加されることもあるでしょう。原特許及び訂正後の特許の効力の観点からは、特許クレームは次の3種類に分類するのが便利です。

(1)維持クレーム: 原特許にあって、訂正後の特許においても訂正されずにそのまま維持されたクレーム

(2)削除(又は訂正前)クレーム: 原特許にはあったが、訂正後の特許からは削除されたクレーム(特許クレームが訂正された場合、訂正前の原特許クレームは削除されたクレームと考える)

(3)追加(又は訂正後)クレーム: 原特許にはなく、訂正後の特許において追加されたクレーム(特許クレームが訂正された場合、訂正後のクレームは追加されたクレームと考える)

訂正クレームに基づく権利行使

訂正クレームの効力については、35 U.S.C. § 252、及び35 U.S.C. § 307(b)に規定されています。

第1の維持クレームについては、原特許発行の時点から存在したクレームとみなされます。つまり、維持クレームについては、特許権者は、特許訂正後の第三者の行為に対してだけでなく、特許訂正前の第三者の行為に対しても、特許権を行使することができます。

第2の削除(又は訂正前)クレーム(上記のように、特許クレームが訂正された場合は、訂正前の原クレームは削除クレームと考える)については、初めから存在しなかったものとみなされます。つまり、削除(又は訂正前)クレームについては、特許権者は、特許訂正後の第三者の行為に対してだけでなく、特許訂正前の第三者の行為に対しても、損害賠償を請求することができません。したがって、米国においては、特許クレームを訂正した場合、たとえその訂正が原クレームを減縮するものであり且つ特許訂正前の第三者の行為が減縮したクレームを侵害するものであったとしても、特許権者は、特許訂正前の第三者の行為に対して損害賠償を請求することができません。

これは、日本の場合と大きく異なる点です。日本では、特許クレームを訂正した場合、訂正後のクレームで原特許が発行されたものとみなされますから、特許訂正前の第三者の行為が特許訂正後のクレームを侵害するものであった場合には、特許権者は、特許訂正前の第三者の行為に対して損害賠償を請求することができます。

第3の追加(又は訂正後)クレームについては、特許権者は、特許訂正後の第三者の行為に対してしか損害賠償や差止めを請求することができません。しかも、この場合の権利行使には一定の制限を伴います。この制限は、第三者が特許訂正前に上記した第1の維持クレーム(原特許発行の時点から存在して訂正されずに維持されたクレーム)を侵害しないで事業の実施をしていた場合に、特許訂正後における第三者の事業の実施を保護するために設けられたものです。このような第三者の実施権を"intervening right"と称します。

Intervening Right

米国における"intervening right"は、一般に「中用権」という日本語に訳されることが多いようですが、日本の特許法における「中用権」(日本の特許法第80条に規定される通常実施権)とは全く意味が異なりますので、注意しなければなりません。日本における「中用権」とは、自らの特許の有効性を信じて、特許発明の実施(あるいは実施の準備)をしていた場合、その特許が無効にされ且つその発明と同一の発明に関する他人の特許が存在したとしても、実施を継続できるという権利(通常実施権)のことを指します。要するに、日本では、結局は無効になったとしても自らの特許を実施していたとう前提があって、初めて「中用権」が認められますが、米国において"intervening right"が認められるために特許の所有は要求されません。

米国において特許訂正前に上記した第1の維持クレームを侵害することなく事業の実施をしていた第三者に認められるintervening rightには、2つの種類があります。

第1は、特許訂正前にその事業で既に製造した物について認められる、その物の処分権(特許訂正後に使用、販売等をする権利)です。

第2は、特許訂正前に実施していた事業について認められる事業継続権です。

第1の権利は、必ず認められます。第2の権利は、認めるかどうか、また、認めるとしてもどの程度認めるかを、公平性の観点から、裁判所が判断します。

纏め

このように、米国では、再発行(reissue)や再審査(reexamination)によって、特許クレームの権利範囲に実質的な変更を加える訂正をすると、訂正を受ける前の原特許クレームについては、特許訂正前の第三者の行為に対して損害賠償を請求することができなくなり、また訂正後のクレームに基づく権利行使もintervening rightにより制限されてしまうことがあります。

したがって、特許クレームの減縮又は拡張をしようとする場合、原クレームを残しつつ、原クレームを減縮し又は拡張したクレームを追加するという方針で臨むのがよいでしょう。即ち、クレーム1の特許性をより明確にする為に、クレーム1を減縮補正(新たな特徴を追加)したい場合に、クレーム1そのものを補正してしまうのではなく、上記のような新たな特徴を記載した従属クレームを追加するなどの方策を検討すべきです。同様に、再発行によって拡張する場合も、原クレームを残したまま、拡張したクレームを追加することが賢明です。

PCT(6): 国際出願のメリットとデメリット

PCT国際出願には、例えば以下のようなメリットとデメリットがあります。

PCT国際出願のメリット

出願手続きの簡便さ

パリ条約に基づく優先件を主張して外国に直接出願する場合には、その国の言語の明細書を準備し、その他、その国で要求される書類(国によっては公証・認証が必要な場合もある)と共に提出するといった手続きを、優先日から1年以内に完了させる必要があります。

一方で、PCT国際出願の場合には、一定の形式にさえ従っていれば、日本語で日本の特許庁に出願できます。従って、翻訳文作成の時間がない場合などにも便利です。また、各国に直接出願した場合には、それぞれの国に優先権証明書を提出する必要がありますが、国際出願で行えば、各国ごとに優先権証明書を提出する必要はありません。

実際に外国へ出願する時期を先延ばしすることができる

30月乃至31ヶ月まで各国への移行手続きを繰り延べることができるので、その間の市場や技術の動向、企業方針等の変化に応じて柔軟な対応ができます。

また、翻訳文作成の時間が十分にあるので質の高い翻訳文の作成が可能になります。

以前は、国際出願時に権利取得をしたい国を指定し、指定手数料を支払う必要がありましたが、現在は、出願時に全ての加盟国を自動的に指定したことになり(みなし全指定)ますので、国際調査や国際予備審査の結果や、30月(乃至31ヶ月)の期限内に発明の価値変化などに応じて実際に国内へ移行する国を決めるということができます。

明細書の修正・補強が出来る

この点については、別項で詳細に説明しますが、基本的に日本国内の最初の出願は、通常、早期に提出することを最重要視しますので、PCT国際出願の際に、時間をかけて明細書を再検討して、修正・補強できるということは非常に大きなメリットです。

殆どの国において誤訳補正ができる

パリ優先権を主張して直接外国に出願した場合は、優先権出願の明細書の記載を根拠にして誤記補正をすることはできません。パリ優先権主張して提出された外国出願に関して、優先権出願の明細書は、外国出願明細書に記載された発明が優先権出願時になされたものであることを証明するための証拠とはなりますが、外国出願の明細書は、優先権出願明細書の翻訳文という扱いにはなりません。

日本や米国のように、基礎出願から1年以内に差し当ってその国の言語以外の言語の明細書で出願して、後から明細書の翻訳文を訂正することができ、またその翻訳文における誤訳を訂正できる国も有ります(日本で言うとことの「外国語書面出願」)。しかし、中国、韓国のように、その国の言語以外での出願が許されない国も多数存在します。そのような国では、作業上は、優先権出願明細書を中国語や韓国語に翻訳したものを提出するかも知れませんが、中国語や韓国語の出願明細書は翻訳文とはみなされず、当然、誤訳の訂正もできません。

一方、PCT国際出願の場合には、外国特許庁に提出されるのは、PCT出願明細書の「翻訳文」という扱いになります。国内段階で誤記・誤訳・訳抜けなどが有った場合には、PCT出願明細書には正しく記載されていたことを明確にできれば、補正が許されます。

特に、一番深刻なのは、主に英語以外の言語の翻訳が必要な国で問題になることがある「訳抜け」ですが、PCT経由の出願であれば、PCT出願明細書に基づいて補正可能です。これに対して、パリ優先の外国出願では、たとえ優先権出願に記載が有っても、外国出願明細書に抜けている記載を補正で補うことはできません。

PCT国際出願のデメリット 

出願費用

特に出願国の数が少ない場合(例えば3ヶ国以下)は、PCT出願費用がかかる分、出願費用が高くなってしまいます。

しかし、例えば、優先日から1年以内に重要な国が絞りきれずに、安全策をとって数カ国余計に出願してしまったというようなことがあれば、それによるロスがPCT出願コストを上回るかも知れません。また、逆に優先日から1年以内に出願しなかった国に関して、その後、その国での権利化が重要であることが判明したというようなことがあれば、潜在的な損失は計り知れないものとなってしまいます。

特許取得に時間がかかることがある

多くの場合、優先日から30月乃至31ヶ月という期間を利用して、移行国を決定しますので、権利取得までの期間が長くなりやすいという傾向があります。

総評

上記から分かる通り、やはりPCTによるメリットは大きく、そのため冒頭でも述べたように、日本出願の件数が頭打ち若しくは減少傾向であるにもかかわらず、日本特許庁に提出されるPCT出願の件数は増加し続けています。

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