上記項目

各国における先行技術の定義と新規性喪失の例外(Part 1)

[I] 米国における先行技術の定義

2011年9月16日、オバマ大統領が米国特許法改正案"Leahy-Smith America Invents Act"に署名し、法律(以下「米国新法」という)として成立しました。この改正における1つの重要な変更は、先発明主義から先願主義への変更です(2013年3月16日から施行)。また、同時にかなり独特であった先行技術の定義も変更されます。先行技術の定義の変更は、基本的には日本などの諸外国の制度との国際的調和を図る物である一方、米国独特のグレース・ピリオド制度は維持されるため、依然として日本などにおける先行技術の定義とは大きく相違する点もあります。

まず、国際的調和に結びつく変更点として、以下が挙げられます:

- 公知公用については、国内公知から世界公知へ変更(新規性阻害事由となる公知公用について、国内のみならず外国における公知、公然の実施や文献の公開を先行技術に含めることになった。詳細な説明はこちら。)

- 所謂「ヒルマードクトリン(Hilmer Doctrine)」の廃止(旧法下では、米国特許出願の外国優先権主張日が、他の米国特許出願に対する先行技術の効力発生日として認められなかったが、新法下では認められるようになった。詳細な説明はこちら。)

そして、依然として残る大きな相違点は、米国においては、同じ発明に関して他人の先願があっても、その前に後願の発明者が自分で発明を公開していれば、該先願は該後願の先行技術とならないことです(日本では、そのような先願は先行技術となります)。米国の新たな制度が、「先願主義」ではく「先開示主義」だと揶揄される所以です。

以下、米国新法の下での先行技術となる発明について、概要を説明します。あくまで概要ですので、微細な点や実務上滅多に遭遇しない場合については触れません。

米国における先行技術:

米国新法の下では、特許出願に係る発明に対して先行技術(prior art)となる発明は、次の2種類です(米国新法第102条)。

(1)当該特許出願の有効出願日の前に公知であった発明 (2)当該特許出願の有効出願日の前の有効出願日を有する他人を発明者とする特許出願であってその後公開又は特許に至ったものに記載された発明

注: 「有効出願日」とは、優先権を有する(先の出願の出願日の利益を受ける)出願の場合には優先日を意味し、優先権を有しない出願の場合には出願日を意味します。

先行技術の例外:

上記項目(1)及び(2)のそれぞれについて、適用が除外される場合が設けられています。

項目(1)(出願前公知)の例外: 自分自身が公表したことによって公知になった発明(ただし、その公表の日から1年以内に特許出願をすることが必要)は、先行技術としては扱われません。

項目(2)(他者の先願)の例外: 当該他人を発明者とする特許出願の前に自分自身が発明を公表している場合や、当該他人を発明者とする特許出願と当該特許出願とが同一の譲受人に所有される場合には、適用されません。

日本における先行技術の定義との比較:

上記項目(1)(出願前公知)の先行技術は、日本の特許法第29条第1項に規定される先行技術に相当し、上記項目(1)についての適用除外(自分自身が公表したことによって公知になった発明)は、日本の特許法第30条の規定(新規性喪失の例外)に相当します(ただし、日本では、発明の公表から6ヶ月以内に新規性喪失の例外適用の申請書類と共に特許出願し、更に出願日から30日以内に証明書類を提出することが必要)。

したがって、適用が除外される場合まで考慮してまとめれば、米国における上記項目(1)の先行技術は、日本では猶予期間が1年でなく6ヶ月であり、またこれを享受するために申請が必要である点を除いては、日本の特許法の第29条第1項及び第30条に規定される先行技術に相当すると考えてよいでしょう。

上記項目(2)(他者の先願)の先行技術は、日本の特許法第29条の2本文に規定される先行技術に相当します。上記項目(2)の先行技術についての適用除外となる場合を2つ挙げましたが、これら2つの場合のうち、第2の場合(当該他人を発明者とする特許出願と当該特許出願とが同一の譲受人に所有される場合)は、日本の特許法第29条の2ただし書に規定される場合に相当します。一方、第1の場合(当該他人を発明者とする特許出願の前に自分自身が発明を公表している場合)は、米国独自の規定であって、日本には対応する規定はありません。したがって、適用が除外される場合まで考慮してまとめれば、米国における上記項目(2)の先行技術は日本の特許法の第29条の2に規定される先行技術に相当するが、米国では他人の特許出願より先に自分が発明を公表してしまえば当該他人の特許出願は先行技術にはならないという点に注意すべきである、ということになるでしょう。

例えば、出願人Aが発明を公表し、その5ヶ月後に出願Yを提出したが、その出願Yの出願日の2ヶ月前に出願人Bが同じ発明に関して出願Xを提出していたとします。このような場合、日本であれば、出願Xは出願Yの先行技術となり、例え出願Yが新規性喪失の例外規定の適用を受けていたとしても、出願Yは先願である出願Xにより新規性を喪失します。勿論、出願Xも出願人Aによる発明の公表によって新規性を喪失します。

一方、米国であれば、出願Xは出願Yに対する先行技術とは見なされません。出願Xは、出願人Aによる発明の公表によって新規性を喪失します。

priorart

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PCT(7): 国際出願用の明細書作成

優先権出願の明細書とPCT出願明細書

日本特許庁に提出されるPCT国際出願については、日本出願に基づく優先権を主張して提出されることが殆どです。

PCT国際出願に記載された発明が、優先権を主張した日本出願明細書の開示に含まれていれば、優先権を享受できます。しかし、PCT出願明細書の開示内容を日本出願明細書と同じにする必要はありません。

PCT出願明細書作成の際に、表現を改善したり、優先権が効かなくて良ければ新規事項を追加することもできます。一方、各国国内段階に移行する際に各国特許庁に提出するのは、あくまでPCT出願明細書の翻訳文ですので、この段階では、新規事項の追加はできませんし、その他の修正も補正という形でしか行うことができません。勿論、補正もPCT出願明細書の開示にサポートされている必要があります。

最先の日本出願とPCT国際出願の性質の違いを考えるならば、日本出願については、多少、明細書の質を犠牲にしても速やかに提出されるのが一般的であり、一方、PCT国際出願は、高額な出願費用をかけて、多くの場合数カ国での権利化を目指す重要な発明に関するものですから、外国において可能な限り確実に権利化できる内容の明細書とする為、明細書の質の向上に努めることが望ましいと考えます。

PCT出願用の明細書作成時に注意する点

日本出願明細書に基づいてPCT出願用明細書を作成する際に心掛けるべきことは、所望の権利範囲を確保しつつ特許化の確実性を上げること、そしてもう一つは各国で通用する内容の明細書とすることです。

1.外国で確実に権利化するための改善と補強

まず、記載要件や先行技術に対する新規性・進歩性の観点から再検討することが必要です。

日本出願時には、先行技術調査の結果、新規性そして進歩性の観点から権利化できる見込みが充分に高いと判断されれば、出願の形式を整え、速やかに提出するというのが一般的なプラクティスであると思います。

これに対して、PCT出願はあくまで外国出願です。実際に外国の国内段階に移行する際に各国の特許庁に提出するのはPCT出願明細書の「翻訳文」です。従って、PCT出願明細書は、たとえ日本語で提出しても、外国出願用の明細書です。

PCT出願経由で外国出願するということは、重要性が高い発明に関するものでしょうし、またPCT出願及び各国移行には相当の費用が必要になります。

従って、当然のことながら、PCT出願時には、外国でなるべく確実に権利化できるよう、発明は充分に明確に定義されているか、実施可能要件など記載は充分か、先行技術に対する新規性・進歩性を明らかにできるよう態様が記載されているか、また発明の効果を主張する際に有効なデータが充分かなど、様々な観点から慎重に再検討することが必要です。

一般には、クレームや明細書がシンプルであれば、特許成立した際に広い権利範囲を押さえることができるため、望ましいと言われます。しかし、特許は成立したとしても、権利範囲が広ければ利害関係を有する第三者も増え、そしてそのような第三者から攻撃を受けた時(特許無効を訴えられた時)に、シンプルな明細書は、戦う武器が少ないということになってしまうこともあります。従って、明細書は一概にシンプル・イズ・ベストというわけにはいかず、様々な要因を考慮した上で、何を記載する必要があり、何を省けるのか慎重に検討する必要があります。

勿論、基礎となる日本出願明細書の質も出願人により様々であり、日本出願の時点でかなり質の高い明細書を作成する企業も有ります。しかし、そのような場合でも、PCT国際出願に際して弊所で再検討した際には、必ず何らかの改善ポイントがありました。しかも些細な表現上の問題などではなく、弊所の経験上、重大な事態に発展する可能性がある問題が必ず存在しました。

余談になりますが、近年のようにPCT制度が盛んに利用されるようになる以前は、パリ条約優先権を主張して、最初の日本出願から1年以内に外国に直接出願していたわけですが、その際には、単に日本出願の翻訳ではなく、日本出願明細書はあくまで原案と考えて、修正や補強を行い外国出願用の英文明細書を作成するということが一般的でした。PCTの利用が一般に浸透し、日本語で出願できるようになってから、内容の再検討などは行わずに、日本出願の明細書をそのままPCTの形式に変更しただけで提出することが行われるようになってしまったようです。 

優先権の有効性

場合によっては、PCT出願の際に追加で記載した特徴については、優先権を認められないかもしれません。しかし、外国出願に優先権が効かない事項が1つでも含まれていたら、出願全体に関して全く優先権が無効になるということではありません。優先権出願に開示されていなかった部分についての優先権が認められないということです。また、優先権出願からPCT出願の間に、それと同一の発明が公開なされなかったならば、優先権が効かなくても問題有りません。

優先権出願に無かった記載をPCT出願明細書に加えることで、特許が成立する可能性が高くなるならば、追加を検討する価値はあるはずです。

2.翻訳し易さ

PCT出願の国内段階移行時には、多くの場合、PCT出願明細書の翻訳文の作成が必要になります。近年、最初から英語でPCT出願する日本の出願人も増えてはいるようですが、まだまだ少数派です。

弊所では、日本語でPCT出願した場合、日本語のPCT出願明細書を作成した本人が中心になって、各国移行時の英文明細書を作成しますので、翻訳時に困難に直面するようなことはあまりありません。それでもやはり、なるべく翻訳に負担がかからないような日本語の明細書を作成するよう心掛けています。一般的に、普段から使い慣れている日本語であるが故に、客観性に欠ける文章になっていても気付かないということが起こりえます。第三者が読んだ時に、誤解されることなく、容易に意図が正しく伝わるかどうか丁寧に検証しなければなりません。この観点から、どのような日本語明細書にすれば理解し易いかが身をもって分かるため、明細書の翻訳も出来る人間がPCT国際出願用の日本語明細書に関与することが理想であると考えます。

3.国によるプラクティスの違い

上記項目1.で述べたような一般的な注意事項に加えて、国によるプラクティスの違いも考慮する必要があります。

特許制度については、国際的な調和(ハーモナイゼーション)を目指す動きが見られますが、依然として国によるプラクティスの相違から明細書に要求される事項に違いが有ります。表現的上の問題(例えば、医薬の用途発明に関して、許容されるクレームの形式の相違など)であれば、各国の国内段階に移行してからでも対応が可能ですが、PCT出願の段階で記載しておかないと後から対処できないものも存在します。以下に、そのような記載の例を挙げます。

1) 欧州における補正の厳しさ

明細書中に極めて明確な根拠がないと補正が認められない傾向がある。従って、将来、補正の可能性があるのであれば、補正後の態様について明細書に明記しておく必要がある。

2) 日本における特殊パラメータ発明に関する記載要件の厳しさ

日本や韓国においては、パラメータの意義の説明やパラメータによって達成される効果を明らかにする為に充分な実施例が必要。

記載要件や実施例の量については、米国や欧州では充分と看做されるようなものであっても、日本や韓国では不十分と判断されることがある。

3) 発明の効果に関する記載

特に米国出願に関しては、明細書に効果を記載すると、それにより権利範囲が制限されてしまうため、なるべく記載しない方が良いという考えがある。

米国では、出願時に明細書に記載されていなかった効果について、後から主張することができるので、米国にしか出願しないのであれば、効果については詳細に記載しなくても問題ないかも知れない。

また、米国以外の国においても、明細書における効果の記載により、権利範囲が制限される可能性はある。

しかし、日本、欧州、中国を初めとする多くの国においては、出願時の明細書から読み取れないような効果について、後から主張しても認められない。従って、米国以外にも出願する見込みがあるのであれば、進歩性(非自明性)につながるような効果は記載しておく必要がある。

4) 米国におけるBest Modeの開示

但し、2011年のAIAにより、Best Mode要件違反は無効理由とはならなくなった。

纏め

以上の様に、PCT国際出願用の明細書は、日本語であっても、実際には外国出願用の明細書であり、PCT出願する発明が重要な発明であって、そしてそれを確実に経済的に権利化することを望むのであれば、単に日本出願明細書をそのままPCTの形式に変換するのでなく、この機を活用して明細書を再検討することが望ましいと考えます。

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プロメテウス事件に基づく特許適格性分析指針とクレームのドラフティング

2012年7月3日、米国特許商標庁(USPTO)は、 "2012 Interim Procedure for Subject Matter Eligibility Analysis of Process Claims Involving Laws of Nature"(2012 自然法則を含む方法クレームの特許適格性分析のための暫定的手法)と題された指針メモを公表しました。これは、プロメテウス事件の最高裁判決[Supreme Court decision in Mayo Collaborative Services v. Prometheus Laboratories, Inc., 566 U.S. ___, 132 S.Ct. 1289, 101 USPQ2d 1961 (2012)]を受けて、USPTOの審査官のためのガイドラインとして発行されたものです。

米国特許法第101条に規定される特許可能な対象(patentable subject matter)に関する近年の重大判例として挙げられることが多いプロメテウス事件の最高裁判決ですが、実際には、この判例は、特許適格性の定義に新たな光を当てるものと言うよりは、方法クレームのドラフティングを疎かにすることなかれと訓辞するものであると考えます。

背景説明

日本では、特許法2条1項に、特許の保護対象となる「発明」とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と規定されています。

一方、米国特許法第101条は、特許による保護対象として、プロセス(process)、機械(machine)、生産物(manufacture)、組成物(composition of matter)、これらの改良、の何れかに属することを要求していますが、これ以上の制約は明記されていません。1980年のDiamond v. Chakrabarty事件における最高裁判決においては、「太陽の下で人間によってなされたいかなるものも(anything under the sun that is made by man)」が、101条に規定された特許保護対象に含まれるとまで述べられています。しかし、実際には、判例に基づき、抽象的概念(abstract idea)、自然法則(laws of nature)、自然現象(natural phenomena)は、特許の保護対象に含まれないものとされています(MPEP § 2106)。

近年、米国特許法第101条に基づく特許保護対象適格性については、Bilski事件が最高裁で争われ[Bilski v. Kappos, 130 S. Ct. 3218, 561 US, 177 L. Ed. 2d 792 (2010)]、特にビジネス方法について特許適格性の基準を明らかにするものと期待されていましたが、最高裁は、CAFCの大法廷(en banc)が「machine-or-transformation testが、ビジネス方法に関する発明が特許保護の対象になるか否かについての唯一の判定手段」と判示したのを覆し、”machine-or-transformation test”は、有効な判断手段の一つに過ぎないとし、新たな明確な基準を示すことはありませんでした。

また、上記のBilski事件に引き続き、特許保護対象適格性に関して、Prometheus事件も最高裁で争われ、大いに注目を集めていました。

Prometheus事件において有効性が争われた特許は、治療効果を最適化する方法に関するものでしたが、米最高裁判所は、Prometheus特許が請求しているのは自然法則そのものであり、特許保護対象とはならないと判示しました。

日本特許法において、「発明」が「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義されていることからも分かる通り、殆ど全ての発明が何らかの自然法則を応用しているはずであり、Prometheus特許における最高裁の「自然法則そのもの」であるという判示が、医療関係分野に限らず方法のクレーム全般の特許保護対象範囲に与える影響について懸念する声が多く聞かれ、また、Prometheus事件の最高裁判決は、近年のアンチパテントの流れに沿ったものとの見方がされることも有るようです。

しかし、このPrometheus事件に関する限り、多くの特許実務者は、特許保護対象の問題というより、むしろクレームのドラフティングの問題と考えていると思います。自分だったら違ったクレームの書き方をしたと考えた実務者が多いのではないでしょうか?

この事件から本当に導き出される教訓は、何が特許適格性を有する主題なのかというよりも、むしろ単なる自然現象をクレームしていると見なされないように、適切にクレームをドラフティングしなければならないという非常に初歩的な問題であると思います。そして、今回、USPTOが発行したガイドラインも、特許実務者は当然認識していて然るべき基本的な注意事項を扱っているに過ぎません。

Prometheus特許のクレーム

問題になったPrometheus特許の代表的なクレームは、以下の通りです。

原文

A method of optimizing therapeutic efficacy for treatment of an immune-mediated gastrointestinal disorder, comprising:

(a) administering a drug providing 6-tmoguanine to a subject having said immunemediated gastrointestinal disorder; and

(b) determining the level of 6-tmoguanine in said subject having said immune-mediated gastrointestinal disorder,

wherein the level of 6-thioguanine less than about 230 pmol per 8×108 red blood cells indicates a need to increase the amount of said drug subsequently administered to said subject and

wherein the level of 6-thioguanine greater than about 400 pmol per 8x 108 red blood cells indicates a need to decrease the amount of said drug subsequently administered to said subject.


日本語訳

免疫介在性胃腸疾患の治療効果を最適化する方法であって、

(a)該免疫介在性胃腸疾患を有する対象に、6-チオグアニンの薬物を投与する工程、および

(b)該免疫介在性胃腸疾患を有する対象における6-チオグアニンのレベルを決定する工程

を含む方法であり、

該6-チオグアニンのレベルが、赤血球8×108個当たり約230 pmol未満であれば、該対象に対するその後の薬物投与量を増やす必要性があることを示し、そして、

該6-チオグアニンのレベルが、赤血球8×108個当たり約400 pmolを越えるならば、該対象に対するその後の薬物投与量を減ずる必要性があることを示す。

クレームの分析と考察

クレームの分析

上記のクレームの概略を簡潔に纏めてしまうと以下のようになります。

『治療効果を最適化する方法であって、

(1) 特定薬物を投与する工程、及び

(2) 薬物の有効成分の血中濃度を決定する工程、

を含み、そこで(wherein):

 上記血中濃度が特定値未満であれば、投与量の増加が必要、

 上記血中濃度が特定値を超えたら、投与量の減少が必要。』

先ず、注意すべきなのは、Prometheus特許は、「診断方法」や「投薬方法」に関するものと認識されていることが多いようですが、正確には、上記の通り「治療効果を最適化する方法」に関するものです。

考察

上記のことから分かる通り、Prometheus特許のクレームには、「治療効果を最適化する」という目的を達成する手段として何が開示されているかと言うと、薬が少なすぎたら投与量を増やすことが必要になり、逆に少なすぎたら投与量を減らすことが必要になるという1つの判断基準が説明されているに過ぎません。

実際に上記の判断基準に従って決定した量で投薬するという工程までは明記されておらず、単に、適切な投与量の増減の必要性を判断する基準を説明したところで終わってしまっています。

血中濃度が閾地より低くて投与量の増加が「必要」になる、又は血中濃度が閾地より高くて投与量の減少が「必要」になるというようなこと自体は、単なる自然法則と解されても致し方ないでしょう。

当業者であれば、上記Prometheus特許のクレーム文言から、上記の判断基準に基づいて制御された量で薬物を投与するところまで読み込むことが合理的という考え方も出来るでしょう。しかし、クレーム文言通りに解釈して、血中濃度が閾地より低くて投与量の増加が「必要」になる、若しくは血中濃度が閾地より高くて投与量の減少が「必要」になったら、Prometheus特許の権利範囲ということになったならば、実際にそれに基づいて投与量を制御しなくとも、Prometheus特許を侵害してしまうことになり、公平性を欠きます。

また、上記のように『適切な投与量の増減の必要性を判断する』ということは、頭の中だけで出来ることであり、これは101条関連で、Bilsky事件後に、CAFCで争われたCybersource事件(CyberSource Corporation v. Retail Decisions, Inc., No. 2009-1358 (Fed. Cir. August 16, 2011))において特許適格性がないことが確認された「精神的プロセス」(mental process)に当たると言えます。

Prometheus特許のクレームにおける実際の表現は「必要性を示す」(indicates a need to …)であり、実際に「判断する」という表現が使用されている訳ではないので、この事件において、Prometheus特許のクレームが「精神的プロセス」だと認定されたわけではありませんが、特定の薬物血中濃度が投与量の増減の必要性を示すということは、観察者の判断によって決定されることなので、実質的に「精神的プロセス」であると言ってもいいのではないでしょうか。

101条問題の回避

上記のような問題は、基本的なクレームのドラフティングにより、容易に回避できた可能性があります。

例えば、上記の判断基準に基づいて制御された量で薬物を投与するところまでクレームに明記されていたらどうだったでしょうか?その場合、112条(記載要件)や102条(新規性)及び103条(非自明性)を満たすかどうかは別として、101条の問題は回避できた可能性が高いと思います。

また、単に101条を満たすことのみを目的とすれば、「治療効果を最適化する方法」ではなく、「免疫介在性胃腸疾患の治療方法」にしておけば、特許保護適格性が認められた可能性は十分にあると思います。「治療効果を最適化する方法」としたために、最高裁は、特定の薬物血中濃度が投与量の増減の必要性を示すという部分のみを、発明の実質的な特徴と見なしましたが、「免疫介在性胃腸疾患の治療方法」であれば、薬物を投与する工程が発明の実質的な特徴と見なされるはずです。いずれにしても上記の判断基準に基づいて制御された量で薬物を投与するところまで明記しないと、発明の本質的な特徴が明らかにならないとは思いますが、この『薬物を投与する』行為は、明らかに自然法則そのものではないため、101条の問題は回避できると考えます。

CAFCは、Prometheus特許の特許保護適格性を認めたことからも、本件は101条に関しては当落線上にあり、クレームの書き方次第で101条違反を免れることも十分に可能であったことが伺えます。

Prometheus事件に基づきUSPTOが作成した指針

プロメテウス事件の最高裁判決を受けてUSPTOが公表したガイドラインによると、自然法則を含む方法クレームの特許適格性の判断において、以下の3つの点を検討することとしています。

1.  Is the claimed invention directed to a process, defined as an act, or a series of acts or steps? [請求された発明が、行為又は一連の行為若しくは工程によって定義された方法に関するものか?]

2.  Does the claim focus on use of a law of nature, a natural phenomenon, or naturally occurring relation or correlation (collectively referred to as a natural principle herein)? (Is the natural principle a limiting feature of the claim?)

[クレームが、自然法則、自然現象又は自然発生する関係若しくは相互関係(以下、これらは纏めて「自然原理」と称す)の応用に焦点を当てたものか?(即ち、自然原理が、クレームを限定する特徴となっているか?)]

3.  Does the claim include additional elements/steps or a combination of elements/steps that integrate the natural principle into the claimed invention such that the natural principle is practically applied, and are sufficient to ensure that the claim amounts to significantly more than the natural principle itself?

  (Is it more than a law of nature + the general instruction to simply “apply it”?)

 [クレームが、以下のような付加的な要素/工程又は要素と工程の組み合わせを含んでいるか?: 自然原理を、これが実用的に応用されるような形でクレームされた発明に組み込み、且つクレームが明らかに自然原理以上のものに相当するものとなることを確実にするのに十分な要素/工程又は要素と工程の組み合わせ。

 (即ち、クレームが、自然法則と、それを単に応用しろという一般的な指示との単なる組み合わせとなっていないか?)]

上記項目1及び2は自明であると思います。今回の問題点は、項目3に集約されています。

項目3の最後の括弧書きには、Is it more than a law of nature + the general instruction to simply “apply it”?(クレームが、自然法則と、それを単に応用しろという一般的な指示との単なる組み合わせとなっていないか?)とあります。

上記のPrometheus特許の方法クレームでは、血中濃度が閾地より低くて投与量の増加が「必要」になる、又は血中濃度が閾地より高くて投与量の減少が「必要」になるというようなこと自体は、単なる「law of nature」に過ぎず、また実施に際して投薬量の調整が「必要」であるということが理解されても、それは「general instruction to simply “apply it”」の域を出ないということになります。

典型的には、方法のクレームの場合、意図した結果を得るために自然法則を応用して行われる操作を具体的に記載することにより、単に、自然法則そのものを請求していると見なされることを回避することが出来ます。Prometheus特許の場合、例えば、上記したように、上記の判断基準に基づいて制御された量で薬物を投与するところまでクレームに明記されていたら、101条の問題は回避されていた可能性が高いと考えられます。

いずれにしても、冒頭でも述べたように、Prometheus事件最高裁判決及び今回のガイドラインは、米国における特許適格性を有する主題の定義に関して問題提起するものと言うより、方法クレームのドラフティングを疎かにすると特許適格性が否定されてしまうこともあり得るという教訓ととらえるべきでしょう。

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