プラクティス

米国(2): RCE (Request for Continued Examination)

もう一つ米国特許制度の大きな特徴と言えるのが、RCE(Request for Continued Examination)の存在です。

RCEは、最後の審査通知(final office action)が出た後に、拒絶を克服できない場合に、継続審査を要求できる制度です。[*但し、意匠特許(design patent)や再審査中の特許に関しては、利用できません。]そしてこのRCEは出願が生きている間は何度でも請求することができます。(数年前に、米国特許庁がこのRCEの回数を制限するためのルール改正を行うことを発表したが、訴訟になり、結局は特許庁が敗訴してルール改正は無くなった。)

要するに、米国出願は、出願が生きている限り何度最後の拒絶を受けても許可になるまで何度でもチャレンジできるということになります。このような制度は、米国にしかありません。例えば、日本でしたら、特許性を否定され続けた場合には以下の経緯を辿ることになります。

日本の場合
最後の審査通知 → 拒絶査定 (特許庁審査部)

拒絶査定不服審判 (特許庁審判部)

知的財産高等裁判所への提訴

最高裁判所への上告

日本においても、裏技的な手段として、拒絶査定を受けたら分割出願を行うということもありますが、この場合、勿論、分割出願の請求項を親出願と同じにならないよう補正する必要があります。即ち、分割出願はあくまで新たな出願として審査されるのであって、米国のように審査が継続されるわけではありません。(日本では、もし仮に分割出願の請求項に親出願の審査において拒絶された発明が含まれていると、最初の審査通知であっても、最後の拒絶理由通知への応答の場合と同様に補正の制限が課される。要するに削除、減縮、誤記訂正、明瞭化の目的の補正のみが可能で、新たな特徴を付加するような補正は許可されない。)

欧州では、拒絶査定になってしまったら、欧州特許庁の審判部(Board of Appeal)における拒絶査定不服審判で争いますが、原則その先はありません。即ち、拒絶査定不服審判で特許性を認められないと特許は不成立ということになります。以前は、日本と同様に分割出願を行って延命するという方法があったのですが、2010年の法改正により、分割出願の時期と機会が制限され、拒絶査定を受けた際の延命措置としての分割出願は実質的に不可能になりました。

RCEが可能な時期

審査終結状態にある(prosecution is closed)が、出願が生きている段階であれば請求することができます。具体的には、例えば、以下のような状況で、RCEが可能です。

・ 最後の審査通知(Final Action)発行後で且つ出願放棄確定前

・ 許可通知(Notice of Allowance)発行後で且つ登録料納付前

・ USPTO審判部における審判係属中

審判請求書(Notice of Appeal)提出後に、RCEした場合には、審判請求は取り下げられたとみなされ、審査が再開されます。

審査中で最新の審査通知がfinalで無い場合には、RCEは認められません。

RCE申請手続き

RCEの申請は、料金(large entityで$930、small entitiyで$465)の支払いと共に、RCE申請フォームと以下の書類を提出することが必要です。

出願の状態 RCE請求時に提出する必要がある書類
最後の審査通知(Final Action)後 最後の審査通知に対する応答(既に提出済みの場合は、原則的に必要無し)
査定系クウェイル通知*(Ex Parte Quayle action)後  (*方式的不備を訂正すれば特許査定となる旨を通知するもの) Ex Parte Quayle actionに対する回答
許可通知(Notice of Allowance)後 IDS、補正、新たな議論、新たな証拠など
審判請求後 最後の審査通知に対する応答(例えば、提出済みの審判理由書や審判部の見解に対する答弁書における議論を援用する旨の上申書)


RCEを提出する状況で一番多いのは、Final Actionを受けて補正書、意見書、証拠などを提出したが、それが新たな争点(New Issue)を提起するものであって考慮出来ないとの指摘をUSPTOから受けて、その対応としてRCEを提出するという状況だと思います。そのような場合に、単に提出済み書類を考慮させたいのであれば、RCE申請フォームと料金を支払うだけで済みます。そしてRCEにより審査が再開され、審査官はFinal Action後に提出したクレームの補正や証拠を考慮した上で、non-finalの審査通知若しくは許可通知(Notice of Allowance)を発行します。

RCEに関する注意事項

場合によっては、折角RCEしたのに、RCE後の最初の審査通知がFinal(しかもRCE前のFinal Actionと同じ拒絶理由)となってしまうことも有りますので注意が必要です。

具体的には、以下の2つの要件が同時に満たされると、RCE後の最初の審査通知がFinal Actionとなってしまいます。

(1) RCE前のクレームとRCE後のクレームとが同一である。

(2) RCE後の審査における拒絶の理由がRCE前の審査における拒絶の理由と同一である。

このような状況になるのは、例えば、Final Actionに対して補正を行わず単に反論のみを提出した場合、Final Actionに対に対する回答が間に合わず、延命措置としてRCEを提出した場合などが挙げられます。

上記のような状況になる可能性がある場合には、RCEと同時若しくはRCE後、速やかに何らかの補正を提出するなどの手段を講じることが望ましいです。その際の補正は純粋に形式的なものでよく、例えば、得に重要でない特徴に関する従属クレームの追加などでも構いません。また、そのクレームが不要であれば、後で削除することもできます。

もしも補正や新たな証拠を提出する予定があるが、準備に暫く時間がかかるような場合には、RCEと同時又はその直後に審査の一時中断を申請する(Request for a 3-month Suspension of Action by the USPTO under 37 CFR 1.103 (c))ということも考えられます。

RCE制度の現状と今後

上記したようにRCEの回数を制限しようとするルール改正は断念されましたが、近年、別の手法でRCE制度の利用を抑制する方向の動きが見られます。

USPTOにおける処理スケジュール

1つは、2009年11月15日から導入されている新たな管理体制です。

以前は、原則として、審査官はRCE後2ヶ月以内にアクションを出すことが求められており、RCEにより、審査が大きく遅れるようなことはありませんでした。しかし、2009年11月15日以降は、RCEが請求された件は、“special new” docket に入れられることになり、そこでは「2ヶ月以内」という制約はなく、審査官は、自らの仕事の負荷に応じて比較的自由なスケジュールで処理することが許されています。

これに伴い、最近は、RCE後の処理の遅れが目立つようになってきています。米国特許庁のウェブサイトで提供されているPAIR(Patent Application Information Retrieval)システムで、出願の経過を確認することができますが、最近は、RCEを請求すると、その後 “Docketed New Case—Ready for Examination” という状態になったまま長らく動きが止まってしまいます。RCE後、半年以上経過してもアクションが出ないケースもあります。

RCE請求の手数料の値上げ

RCEを利用するために、米国特許庁へ支払う料金は、それが何回目の請求であるかに関わらず1回のRCEにつきlarge entityで$930、small entityで$465であったものが、2013年3月19日以降は、一回目のRCEの料金がlarge entity$1,200、small entity$600に、二回目以降のRCEの料金がlarge entity$1,700、small entity$850に値上げされます(2013年1月18日に公表された新料金)。

RCEを不要にする制度の試行

RCE等を利用せずに、審査の効率化を図る目的で以下のような試行プログラムが実施されています。

・ After Final Compact Prosecution (AFCP) 試行プログラム (試行期間:2013年5月18日まで(当初、2012年6月16日までの予定だったが延長された))

現行の規則に従えば、最終庁指令通知(Final Office Action)後に提出された補正や証拠を審査官に考慮させるためには、RCE等の手続きが必要になることが多いが、AFCP試行プログラムでは、Final後に提出された補正や新たな証拠について、限定的な(特許で約3時間、意匠で約1時間以内で済むような)検討や調査によって、該補正や証拠により特許査定できるとの判断が可能な場合、RCE等を行わずに補正や証拠を審査官に考慮させることが可能。

・ Quick Path Information Disclosure Statement (QPIDS)試行プログラム(試行期間:2013年9月30日まで(当初、2012年6月16日までの予定だったが延長された))

米国の現行のシステムにおいては、登録料支払い後にIDSを提出して考慮させる為には、RCEや継続出願が必要だが、QPIDS)試行プログラムでは、登録料支払い後にIDSをUSPTOに考慮させることが可能。


特にAFCPは、試行期間が延長されましたが、出願人や実務者にとって非常に有益な試みであり、常設的なプラクティスとなることが望まれます。これまでは、審査の経緯や審査官の主張の趣旨から考えて、本格的な検討や調査を行わずとも、出願を特許可能な状態にできることが明らかな補正や証拠であっても、Final後は、新たな争点(New Issue)を提起するものであって考慮できないとの指摘を受け、結局、RCEや審判請求が必要になってしまい、非合理的なプラクティスだと感じていた出願人や実務者も多いはずです。そのような指摘も受けての試行プログラムでしょうから、本格実施へ移行する可能性も十分にあると考えられます。

2000年に導入されて以来、盛んに利用されてきたRCE制度ですが、上記のことから分かりますとおり、近い将来、その運用が大きく変わる可能性があります。

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米国(3): 現在の米国における特許政策(並びに自明性審査とその対策)

プロパテント政策の変化

米国においては、プロパテント政策(発明技術の独占的実施権を可能にする特許による権利保護を重視する政策)が、1980年代後半にレーガン大統領により導入され今世紀初頭まで維持されてきましたが、世界的な不況が深刻化するにつれ、大きな変化が見られます。

不況に加えて、プロパテント政策による弊害とも言える所謂「パテント・トロール(patent troll)」による特許権の濫用も大きな問題となっています。「パテント・トロール」とは、大学や研究機関以外のnonpracticing entity(特許発明を実施しない者)であって、第三者の特許権を譲り受け、その特許権を主張して大企業に巨額の損害賠償を要求するような組織のことです。このパテント・トロールの暗躍は、質の低い特許を乱発したことによる弊害であると言われております。

一般的には、近年の不況に伴い、プロパテントからアンチパテント(特許権より独占禁止法の遵守に重きを置く政策)へシフトしたと言われることが多いようですが、一概に、完全にアンチパテントへ傾いたと断言することは難しいようです。 近年の出来事を見ると、審査基準の厳格化や権利行使の範囲を制限する変化が目立ちますが、一方で、特許の活用を促進する方向の変化も見られます。要は、この不況を乗り切るために重要なツールの一つとして特許を有効に活用出来るように制度を整えているということであると思います。

近年の判例や2011年9月の法改正(Leahy-Smith America Invents Act)から読み取れる米国の知的財産権に関する姿勢は以下の通りです:

進歩性基準を厳格化し特許の質を向上

 - KSR Int'l Co. v. Teleflex, Inc., 550 U.S. 398 (2007) (これにより非自明性の審査が厳しくなった。)

付与後特許に対する異議申立ての機会を拡張

 - 付与後異議申立制度(Post-grant review)の導入(2011年のAmerica Invents Act)

過剰な権利行使を抑制

 - Abbott Labs v. Sandoz, 566 F.3d 1282 (Fed. Cir. 2009) (所謂"product-by-process"形式のクレームの権利範囲を、クレームで規定したprocessで得られる物に制限した。)

 - 複数の被告に対する訴訟の併合(joinder of parties)についての制限(2011年のAmerica Invents Act)(以前は、1つの特許訴訟において複数の被告を訴えることが可能であり、パテントトロールが複数の企業に対して同時に特許権侵害訴訟を提起し損害賠償金請求することが問題視されていた。この対策として、「同一の特許を侵害している」ことのみをもって複数の被告を1つの訴訟事件で訴えたり、1つの訴訟事件に併合したりすることができないこととされた(§299)。)

 - In re Seagate Technology, LLC, 497 F. 3d 1360 (Fed. Cir. 2007) (特許侵害訴訟において、3倍賠償の対象となる故意侵害の有無の立証責任を、侵害者から特許権者側に移した)

 - 故意侵害及び侵害教唆対策としての鑑定書の入手・提出の不要化(2011年のAmerica Invents Act)(上記Seagate事件における判示の一部を成文法化。鑑定書を入手しなかったことや裁判所に提示しなかったことを、故意侵害(willful infringement)の認定や、侵害教唆(inducement of infringement)の意思の認定に使用できないと規定された(§298)。2012年9月16日以降に発行された特許に対して適用。)

特許出願人又は特許権者の過失に対する罰則適用条件を緩和

 - ベストモード要件違反を特許無効の理由から除外(2011年のAmerica Invents Act)

 - Therasense, Inc. v. Becton, Dickinson & Co. (Fed. Cir. 2011) (en banc))(不公正行為(Inequitable Conduct)の立証を困難にした)

 - 補助的審査(Supplemental Examination)制度の導入(2011年のAmerica Invents Act)(情報開示義務(IDS)違反の救済措置)

特許出願に関する門戸は狭めない

 - Bilski最高裁判決[Bilski v. Kappos, 130 S. Ct. 3218, 561 US, 177 L. Ed. 2d 792 (2010)] (CAFCの大法廷(en banc)が「machine-or-transformation testが、ビジネス方法に関する発明が特許保護の対象になるか否かについての唯一の判定手段」と判示したのを最高裁が覆した。)

KRS判決による非自明性判定基準の変化:

以前は審査が厳しいと言われている化学分野の特許出願で、かなり厳しい審査結果を予想していたにも関わらず、あっさりと特許になって拍子抜けしたようなケースも多々ありました。しかし、最近は我々も実感として、KSR判決を境に自明性(複数の先行技術文献の組み合わせに対する容易性)の審査が非常に厳しくなったと思います。正直な所、KSR判決以前は、「減縮補正を行わないと103条(自明性)で拒絶されるだろうな」と思う様な件が、拒絶を受けずにそのまま特許にということも結構ありました(しかも、審査結果が出るのが早かった)。現在は、特許庁における審査は、より時間をかけてかなり厳密に行われているという印象です。KSR判決において最高裁は以前よりも厳格な非自明性の基準が提示しましたが、判断基準が厳格になった以上に、米国特許庁審査官の自明性審査に対する姿勢が厳しくなったと感じます。

実際に、統計的にみても、米国ではKSR判決以後では拒絶査定を受け審判請求を行う件数が増え(KSR判決前の2006年では3349件→KSR判決後の2008年では6385件)且つ審判請求を行って拒絶が撤回される確率が率低下しています(KSR判決前の2006年では41%→KSR判決後の2008年では28%)。

尚、参考までに、KSR判決後約2年間において、CAFC(連邦巡回区控訴裁判所)が、化学・生化学系の発明を非自明(進歩性有り)と判断したケースが約62%であったのに対して、非化学・生化学系の発明を非自明と判断したケースは約33%であったとの統計データもあるそうです(http://www.jurisdiction.com/dsmith.pdf)。このことは、KSR判決によって、化学・生化学の分野のように効果を予見することが難しい分野では非自明と判断されやすく、一方、機械などの構造物などの効果を予見しやすい分野の発明は自明と判断されやすくなったということを示していると解釈することできます。

最近、米国特許成立の確率が回復(向上)傾向にあるという情報も散見されますが、実際、数字上はそうであっても、これが淘汰(即ち、元々特許性が明らかでない出願は繰り返し拒絶を受けたために放棄されてしまった)や出願人が出願する発明を精査していることによるという可能性もあると思います。弊所の印象としては、現在でも、KSR判決直後と比較すると非自明性の判断も大分緩和されたようにも思いますが、KRS判決以前と比較すると未だ厳しいように思います。実際に弊所で扱っている案件でも、非自明性の拒絶に対してほぼ完璧な対応ができたような場合(先行技術の組み合わせに対する阻害要因の存在を明らかにし、更に実験証明で予想外の優れた効果を明らかにしたような場合)であっても、その後、審査官の理解不足による拒絶を受け、更に何度かインタビューを行って説明したり、細かい補正をすることによって漸く許可になったということもありました。要するに審査官の側に、非自明性の審査は厳格に行うべきという意識があると思います。

自明性の拒絶に対する対応

自明性の拒絶を受けた場合の典型的な対応は以下の通りです:

(a) 審査対象出願の発明や先行技術の開示内容に関する審査官の誤認を明らかにする。
(b) 先行技術の組み合わせに対する阻害要因(teach away)の存在を明らかにする。
(c) 予想外の優れた効果を明らかにする。
(d) 先行技術に教示・示唆されていない特徴をクレームに追加して、更にその特徴による予想外の優れた効果を明らかにする。

その他にも商業的な成功(所謂“secondary consideration”(二次的考慮事項)の例)などが考慮されることもありますが、これらはあくまで二次的に考慮される事項であって、一般的には上記の(a)~(d)で十分な対応が難しい場合に補足的に主張すべき事項です。やはり先ず上記(a)~(d)の観点からの反論を検討すべきでしょう。上記のKSR判決以前は、自明性の拒絶に対して「引用された2つの先行技術文献が異なる技術分野に属するものであるから組み合わせは不当」という反論で拒絶が撤回されることが屡々ありました。しかし、KRS判決以降は、異なる技術分野に属する先行技術文献であっても組み合わせることが当業者の常識の範囲内で容易であれば自明であるということになりました。従いまして、原則的には上記のような対応を考えるべきです。

上記(a)の審査官の誤解についてですが、特に米国の審査官は、技術内容の誤解に基づいて拒絶してくることが多いという印象があります。審査官の指摘を鵜呑みにせずに、自らの出願のクレームの記載や先行技術文献の開示内容を詳細に検討することが重要です。

また、その様な場合においても、ただ審査官の誤解を責めることを考えるのではなく、何故そのような誤解が生じたのかを謙虚に検討してみることが望ましい結果につながることが多いです。具体的には、審査官の誤解の理由を検討し、許容範囲内で、誤解の原因を排除し、発明をより明確に定義できる補正が可能であるならば、そのような補正を行うことが望ましいです。仮に審査官の誤解が明らかであっても、何らかの補正を行った方が、権利化がスムーズになります。

上記(b)の「阻害要因」については、一瞥してそのような阻害要因が見あたらないような場合でも、注意深く、執念深く、引用された先行技術文献を徹底検討すると、「阻害要因」として若しくは「阻害要因」とまではいえずとも先行技術の組み合わせを断ち切るために利用できる記載が見つかることも良くあります。一見自明性の拒絶が妥当に思えても、直ぐにあきらめないことが大切です。米国に限らず外国出願の多くは、現地代理人への依存度が高いと思います。しかし、現地代理人は、自分で明細書を作成したのではないということもあり、明細書や引用された先行技術文献を必要以上に詳細に検討することは通常有りません。現地代理人が半ばギブアップの状態でも、弊所で明細書や先行技術文献を徹底的に検討して有効な反論材料を見出したようなことも少なくありません。

上記(c)の「予想外の優れた効果」に関しては、米国の特許プラクティスの1つの大きな特徴として、出願明細書に記載されていない効果について、出願後に主張することが可能です。(日本や欧州においては、出願時の明細書に教示も示唆もされていなかったような効果に基づいて進歩性を主張することは原則的に許されません。)

また、米国において「予想外の優れた効果」の立証に有効なツールとして、37 C.F.R. 1.132に基づく宣誓書(affidavit)又は宣言書(declaration)(以下、纏めて「宣誓供述書」)があります。この宣誓供述書形式で提出された証言やデータについては、審査官は、公知文献や専門家の見解書と同等の証拠として真摯に検討することが義務付けられています。この宣誓供述書は、最後に文字通り「署名者は、故意の虚偽陳述及びそれに類するものは、18 U.S.C.. 1001 に基づき罰金若しくは拘禁、又はその併科により処罰されること・・・について警告を受けており、本人自身の知識によって行う全ての陳述が真実であること・・・を宣言する」と宣誓して署名するものです。

37 C.F.R. § 1.132の宣誓供述書の詳細については、以下をご参考下さい:
MPEP §716.01(a)MPEP§716.01(c)

また、宣誓供述書については、こちら にもより具体的な説明と、弊所で作成した宣誓供述書のサンプルを幾つか掲載しておりますので、参考までにご覧下さい。

他の国では一般的に審査段階では宣誓供述書の形式での提出は要求されません。しかし欧州の場合、審査の段階では実験証明書を宣誓供述書の形式にする必要はありませんが、異議申立手続きや審判手続きにおいては宣誓供述書の形式にすることが要求されます。

尚、自明性(進歩性欠如)の拒絶に対する対応の仕方については、こちら でも解説しておりますので、ご覧下さい。

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欧州(5): 審査

比較的厳しくオーソドックスな審査が行われます。審査官や個々の案件により状況は大きく異なりますので、一概にどの国や地域が審査が厳しいと明言することは難しいのですが、一般的に日本や米国よりも厳しいと言われております。我々が扱った案件でも、最初の実体審査通知が許可通知(厳密には、Rule 71(3)の許可予告通知)ということも結構有るのですが、一旦、拒絶されると厳しく追及してくる審査官が比較的多いという印象です。

KSR判決以前は、一般的に欧州の方が米国より審査が厳しいと考えられていましたが、最近は差が小さくなっているように感じます。米国のKSR判決により、米国における非自明性の基準と欧州における進歩性の基準がほぼ等しくなったと述べている欧米のアトーニーもおります。

新規性

欧州においては、日本や米国と比較して、新規性の拒絶は受け難いと言えます。

具体的には、EPOにおいて新規性を否定するためには、審査対象の発明が公知技術文献に直接的且つ明確(directly and unambiguously)に記載されていることが要求され、そのような厳密な意味での新規性を要求する判断基準は、"Photographic Novelty"と称されることがあります。要するに、欧州では、公知文献に内在的に開示されていると判断され得るような事項であっても、それが直接的且つ明確に読み取れ無い場合、そのような事項は公知文献に開示されているとは見なされません。例えば、本発明と公知文献に開示されている発明の違いが、周知技術の付加や周知の均等物による置換などであっても、明示的な違いが有れば、それは新規性ではなく、進歩性の問題とされます。

一方、日本の新規性判断基準は、本発明と公知文献に違いが有っても、その相違が実質的なものでないと判断されると新規性は否定されます。例えば、例えば、本発明と公知文献の違いが、周知技術の付加や周知の均等物による置換に過ぎないと判断されれば、本発明の新規性が否定されます。この様な新規性判断基準は、欧州の"Photographic Novelty"に対比して、"Enlarged Novelty"と称されることもあります。

しかし、仮に新規性を認められても進歩性も認められなければ、結局は特許許可を受けることは出来ませんので、特許性審査において、この新規性判断の厳しさが大きな問題になることは余りありません。例外は、出願時に未公開であった先願(Secret Prior Art)が引用された場合です。この様な出願時に未公開であった先願に対しては、新規性を有することは要求されますが、進歩性まで有することは要求されません。従って、その様な先願が引用された場合、新規性が認められれば、進歩性が無くても特許が認められることとなります。

また、このEPOの新規性判断の考え方は、補正の適格性や優先権主張の有効性の判断にも適用されます。

要するに、補正については、上記のような新規性判断基準(Photographic Novelty)に照らして、補正後の請求項が出願時の明細書の開示に対して新規性が無いと言える程度に、直接的且つ明示的に記載されているものにしか補正することができません。この点については、別途、補正に関してより具体的に説明します。

また、優先権主張の有効性についても、EP出願が、優先権出願に対して新規性を有しないということが要求され、ここでの新規性は、上記したような厳格な意味での新規性になります。要するに、優先権出願から黙示的に読み取れると言えるような発明であっても、優先権出願に直接的且つ明示的に示されていると言えなければ、優先権の有効性が認められません。

進歩性

通常、Problem-Solution Approach(課題-解決手段アプローチ)に沿って判断されます。具体的には、以下のようの手順で進歩性を評価します。

(i)  determining the "closest prior art",

クレームされた発明と最も近い技術を開示する"最近似先行技術"を特定し、

(ii)  establishing the "objective technical problem" to be solved, and

最近似先行技術を念頭に置き、クレームされた発明が解決する技術的課題を決定し、そして

[補足: ここで実質的に要求されているのは、クレームされた発明と先行技術の技術的相違点(先行技術には記載されていない当該発明の特徴)を特定し、その技術的相違点に起因する先行技術に対する該発明のアドバンテージを特定することです。このアドバンテージを上記の「技術的課題」と考えれば良いと思います。]

(iii)  considering whether or not the claimed invention, starting from the closest prior art and the objective technical problem, would have been obvious to the skilled person.

クレームされた発明が提供する当該技術的課題の解決手段について、当業者が、最近似先行技術から出発して、該解決手段に到達することが自明であったかどうかを判断する。

[補足: 最近似先行技術を検討し、当該技術的課題に直面した当業者が、他の公知技術などを考慮した上で、クレームされた発明が提供する解決手段に到達する見込みについて判断し、この見込みが"could"(「したかもしれない」や「した可能性がある」)では「自明であった」とは言えず、"would"(「したであろう」)であった場合に「自明であった」と判断されます。この"would"は、米国MPEPにおける"with reasonable expectation of success"(「合理的成功の見込みをもって」)とほぼ同意と考えて良いと思います。]

審査に要する期間

欧州は審査に非常に時間がかかることも特徴です。通常、審査請求から特許取得まで、3~4年、場合によってはそれ以上かかります。審査官の質は高いのですが、取り扱う案件の数に見合うだけの数の審査官がいないということが最大の原因です。

加盟国におけるプラクティスの違い

EPOより許可された後に、所望の指定国への登録を行いますが、無効訴訟などは国毎に行われ、またその際はその国の法律に基づいて、特許の有効性が判断されます。

特に、ドイツはEPC加盟国でありながら、ドイツで選択発明が認められるか定かで無い点に注意が必要です。このことは、選択発明を認めているEPOにより許可された特許をドイツに登録しても、ドイツでは無効にされる可能性が有ることを意味します。

また、EPC加盟国でも、ベルギー、ギリシャ、オランダ、スイスは方式審査のみですので、これらの国において早期且つ安価に権利を取得することを希望するのであれば、EPO経由でなく直接出願した方が、目標を達成しやすいと言えます。

フランスにおいては、審査段階では新規性についてのみ検討されます。従って、やはりEPO経由よりも直接出願の方が比較的容易に権利化できる可能性があります。但し、無効訴訟においては、進歩性も問題となります(審査中、登録後、訴訟前に補正が可能)。

成分Aの量に関して『好ましい量』

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特許  米国  出願  クレーム  発明  日本  欧州  補正  新規性  記載  必要  EPO  進歩性  明細書  上記  以下  審査  拒絶  or  be  先行技術  先願  判断  可能  請求項  EPC  例外  比較  審査官  主張  開示  適用  要求  対象  an  説明  可能性  成分  請求  優先権  出来  検討  not  選択  指定国  本発明  with  選択発明  公開  通常  考慮  具体的  出願時  問題  特徴  claim  明確  審査通知  無効  ドイツ  特定  期間  公知  EP  文献  at  技術  加盟国  最初  登録  容易  特許性  引用  art  当業者  非常  意味  基準  invention  注意  指定  権利化  提供  以前  優先権主張  一般的  prior  非自明性  有効  権利  判決  審査請求  MPEP  通知  状況  許可  実質的  否定  been  課題  決定  以上  自明性  取得  判断基準  訴訟  自明  案件  手段  経由  優先権出願  合理的  達成  事項  アプローチ  時間  解決  相違  problem  評価  見込  段階  明示的  Art  程度  Prior  Rule  KSR  許可通知  原因  would  Novelty  so  審査段階  結局  実体審査  早期  印象  ex  有効性  加盟  フランス  technical  reasonable  特許許可  re  新規性判断  large  プラクティス  登録後  直接  置換  一般  法律  公知技術  未公開  到達  Secret  公知文献  成功  claimed  skill  優先  希望  周知  解決手段  objective  最大  skilled  直接出願  ii  新規性判断基準  欧米  無効訴訟  当該  person  相違点  所望  直接的  国毎  念頭  最近  手順  プロ  特許取得  補足  補正後  最近似先行技術  Problem  Photographic  side  周知技術  明示  reason  技術的課題  starting  起因  Solution  directly  closest  スイス  同意  determining  considering  アドバンテージ  付加  地域  均等物  直接的且  特許取  her  進歩  per  厳格  am  whether  term  厳密  非自明  expectation  iii  アトーニー  success  could  unambiguously  内在的  一概  安価  判決以前  方式審査  直面  比較的容易  obvious  当該技術的課題  Approach  start  技術的相違点  技術的  目標  Enlarged  オランダ  able  審査中  比較的多  対比  over  新規  当該発明  実体審査通知  先行  出発  別途  オーソドックス  明細  ギリシャ  該発明  該解決手段  一旦  結構  合理的成功  ベルギー  oa  low  fr  establish  establishing  ed  invent  solved 

中国(1): 審査

以前は、新規性、進歩性については、それ程厳密な審査は行われないが、とにかくクレームを実施例に開示された具体例に限定することを要求されることが多かったのですが、近年は、そのような具定例への限定を要求されることは殆ど無くなり、新規性、進歩性などに関に関しても詳細な審査通知が発行されるようになりました。しかし、日、米、欧などと比較すると審査自体はそれ程厳しくはありません。

弊所でこれまでに扱った案件でも特許化が困難な状況に陥ったような案件はありません。

尚、以前は、新規性阻害事由となる公知公用について、国内公知(国内における公知、公然の実施や文献の公開が先行技術となること)を採用しておりましたが、2009年10月1日に施行された新中国専利法により、現在は、日本などと同様に世界公知(国内のみならず外国のどこかにおける公知、公然の実施や文献の公開を先行技術に含める)を採用しております(中国専利法第22条)。

国毎の審査プラクティスの違いなどについては、「知財関連情報」のコラムでも解説しておりますのでご覧下さい。

韓国(1): 審査

韓国の特許制度は、日本と殆ど相違ありません。日本の知財関連法が改正になると韓国の法律もそれにあわせて改正されるということも屡々あります。

審査に関しては非常にオーソドックスでありますが、少なくとも弊所の経験からは、それ程厳しいものではありません。中国より若干厳しいといった印象です。

尚、国毎の審査プラクティスの違いなどについては、「知財関連情報」のコラムでも解説しておりますのでご覧下さい。

選択発明(selection invention)について

1.「選択発明」の定義と特許性判断

「選択発明」には、主に「化合物の選択」と「数値範囲の選択」に関する発明があります。

「化合物の選択」は、例えば先行技術において広く定義されていた化合物の中から特定の種を選択してクレームするような場合のことであり、具体例としては、先行技術文献においてある薬品の成分として単にアルコールを使用すると記載されていたところ、特定の炭素数のアルコールを用いると顕著な効果を奏することを見出して、その特定の炭素数のアルコールに限定してクレームするような場合です。

「数値範囲の選択」は、例えば組成物を構成する成分の量に関して先行技術に開示されていた広い数値範囲の中から限定された数値範囲を選択してクレームするような場合のことであり、具体例としては、ある成分の量に関して、先行技術文献において"1~100重量%"としか記載されていなかったところ、30~33重量%というような狭い範囲内にすることで顕著は効果を奏することを見出して、その狭い成分量に限定してクレームするような場合です。

日本の審査基準においては選択発明について次のように記載されています。

「物の構造に基づく効果の予測が困難な技術分野に属する発明で、刊行物において上位概念で表現された発明又は事実上若しくは形式上の選択肢で表現された発明から、その上位概念に包含される下位概念で表現された発明又は当該選択肢の一部を発明を特定するための事項と仮定したときの発明を選択したものであって、前者の発明により新規性が否定されない発明をいう。」(審査基準第Ⅱ部第2章 2.5(3)III)

また、欧州においては、以前から、選択発明の新規性判断の基準として以下の要件を満たすことが要求されていました:
(1)選択された範囲が狭いこと、
(2)従来の範囲から十分に離れていること、
(3)選択された範囲に発明としての効果が有ること(審決T279/89)。

しかし、この効果に関する要件(3)は、新規性ではなく進歩性に関する要求であるという批判が以前からあり、2010年の審決 T230/07においては、効果に関する要件(3)は新規性判断からは除き、進歩性の要件とすると判示されました。

勿論、通常は、いずれにしても新規性のみならず進歩性も有さないと特許は認められませんが、効果に関する要件(3)が新規性判断の基準から除かれると、出願時未公開の先願(先に出願されたが、後願の出願時に公開になっていなかったもの)が引用された場合に大きな影響が有ります。即ち、日本を含む多くの国において、出願時未公開の先願の場合には、これに対して新規性さえあれば進歩性が無くても特許が認められることになっていますが、選択発明の場合に上記(3)も新規性判断の基準に含まれていると、出願時未公開の先願に対しても進歩性が求められることになってしまいます。効果に関する要件(3)が新規性判断基準から除かれれば、他の発明の場合と同様に、出願時未公開の先願に対しては、新規性さえ有していれば、先願に対して効果が無くとも(進歩性が無くとも)特許性を認められることになります。

これは一見尤もであるように見えますが、少々矛盾を含んでいるようにも思います。実際には、選択発明という物は、本来は従来技術に含まれているという観点からは新規性は無いとも解釈でき、選択した範囲が狭く且つ顕著な効果が有る場合に限り認められるものですから、選択発明に関しては、常に新規性と進歩性を分けて考えるべきではないという考え方も成り立ちます。実際にEPOがこれまで採用していた上記の(1)~(3)からなる基準もそのような考え方に基づくものであると思います。

この問題については、EPOの拡大審判部で取り上げられる可能性が有ります。

米国においては、選択発明に関して格別審査基準は設けられておりませんが、弊所の経験から判断しますと、EPOにおいて採用されていた上記(1)~(3)からなる判断基準を満たせば特許性は認められると思います。

2.選択発明の新規性・進歩性に関する注意事項

選択した狭い範囲に含まれる実施例が先行技術に無いこと、そして選択した狭い範囲の優位性について先行技術に教示も示唆もされていないことが重要です。

例えば、ある成分の量に関して、先行技術文献において範囲は"1~100重量%"としか記載されていなかったが、実施例において30重量%が記載されていたような場合、30~32重量%というような狭い範囲を選択しても、新規性が認められません。例え、その先行技術に効果が示唆されていなかったとしても、単なる公知物質に関する「効果の追認」であると見なされて新規性は認められません。

また、上記の例の場合(先行技術文献に"1~100重量%"と記載が有り、"30~32重量%"を選択した場合)、選択した狭い範囲"30~32重量%"と重複する狭い範囲(例えば、"25~33重量%"や"25~31重量%"など)が先行技術において好ましいと記載されていると、仮に新規性は認められても、この先行技術文献単独から自明(進歩性無し)と判断される可能性が高いです。

3.効果の証明

効果の立証においては、当然、選択した範囲において、その範囲外であった場合と比較して顕著な効果が有ることを示すことになります。

場合にもよりますが、通常は、幾つか代表的な態様を選択して実験データを提出すれば十分と考えられています。例えば、数値範囲の選択発明の場合、以下のような比較データを持って効果を証明することが考えられます。

実施例: 選択した範囲内の代表例のデータ(好ましくは選択した範囲の上限と下限付近のデータを含む)

比較例: 選択した範囲外で、上限及び下限付近のデータ及び/又は先行技術文献の実施例の中で該選択した範囲に一番近い態様のデータ

また、主張する効果が、発明の属する技術分野においてよく知られた特性に関するものであるか否かも重要になってきます。

例えば、その技術分野で公知の特性に関する効果であれば、選択した範囲において、突出した効果が要求されることが多い筈です。

逆に特定技術分野で公知でない特性に関する効果であれば、選択した範囲外の場合と比較して、それ程大きな効果の違いがなくても、進歩性が認められる場合が有ります。

4.選択発明を認めていない国

日本、米国、欧州、中国、韓国など殆どの主要な国において、以前から選択発明は認められていますが、ドイツでは原則的に選択発明が認められておりませんでした。

一方で、欧州特許庁(EPO)は、上記の通り、選択発明を認めております。従って、選択発明に関してEPOから特許査定を受けて、ドイツで登録したような場合に、ドイツでは無効訴訟を提起されて無効になってしまうことが実際に発生し、以前から問題視されていました。

これに関連して、2008年12月のオランザピン(Olanzapine)事件の最高裁判決において、ドイツ最高裁が、EPOの判例との整合性を指摘しながら、選択発明の特許性を認めたことが話題になりました。

しかし、こちらのAIPPIの資料にありますように、元々ドイツには「選択発明」という概念がなく、それに関する明確な審査基準も存在しません。そして、オランザピン(Olanzapine)判決は、所謂「選択発明」全般に関して欧州の審査基準と適合させるという意図を明らかにしたものではありません。むしろ、このオランザピン判決のみからは、欧州などで言うとことの「選択発明」に相当する特定の件に関して、それと類似した状況の特定のEPOの判例と同様の判断をしたということしか言えないと思います。

特に注意すべきであるのは、オランザピン事件は、「化合物の選択発明」に関するものであるということです。

今後、ドイツが、欧州と同様の審査基準を採用する可能性は在りますが、ドイツにおける選択発明の特許性判断に関して、現時点で言えることは:
(i) 新規性: 化合物の選択発明の新規性判断は、EPOによる判断と同様になる可能性が高いが、数値範囲の選択発明の新規性については、従来通り新規性が認められないのか、こちらもEPOの判断に合わせるのかが不明、
(ii) 進歩性: 新規性が認められれば、進歩性審査の基準は欧州と実質的に同じ、
ということであると思います。

上記(i)のドイツにおける「選択発明」の新規性が認められるための要件について、代表的な判例などに参照しながら以下に検証したいと思います。

ドイツにおける「選択発明」の新規性判断と特許明細書の開示内容の解釈:

ドイツでは選択発明が認められないと一般的に考えられてきたのは、少なくとも数値範囲に関しては、原則的に明細書に上位概念が開示されていれば、下位概念も(これが明示的に記載されていなくても)開示されていると見なすという考え方が根底にあったからです。これは、先行技術の開示内容の判断のみならず、補正の要件やクレームのサポート要件にも適用されております。

ドイツにおける数値範囲の選択発明の扱い: 

例えば、ドイツでの選択発明の特許性の審査においては、もしも先行文献に「分子量500~2,000,000」の化合物が記載されている場合は、その先行文献は「分子量500~2,000,000」の範囲内の数値をすべて個別に開示していると見なされ、この炭素数の範囲をさらに限定しただけの選択発明(たとえば、「分子量15,000~290,000」)は新規性が認められませんでした。これは、「数値範囲」に関する選択発明に関する代表的な判例として知られているFederal Supreme Court, 07.12.1999, GRUR 2000, 591, 593-594 - Inkrustierungsinhibitorenにおける判示です。

そして、自らの出願を補正する際に、出願明細書やクレームに、例えば「分子量500~2,000,000」とだけ記載してある場合(つまりさらに狭い範囲が記載されていない場合)でも、「分子量500~2,000,000」の範囲内の数値をすべて個別に開示していると見なされ、この範囲内のどのような数値範囲にでもクレームを限定することが許されます。

ドイツにおける化合物の選択発明の扱い:

代表的な判例として、”Fluoran” 判決(GRUR 1988, 447)及び“Elektrische Steckverbindung”判決(GRUR 1995, 330)がありますが、いずれのケースにおいても、先行技術に開示された一般式に含まれるが明示的(explicitly)に記載されていなかった化合物に関する選択発明の新規性が否定されました。

しかし、”Fluoran” 判決(GRUR 1988, 447)においては、上記の数値範囲の選択発明の場合と異なり、先行技術に一般式が開示されていることのみをもって、その一般式に含まれる全ての化合物がこの先行技術文献に開示されているとはみなさないとされています。要するに、化合物の場合には、上位概念が開示されていれば、直ちに下位概念も開示されているとはみなさないと判示されていました。

更に、これらの判例においては、以下の場合に、化合物の選択発明の新規性が認められる可能性を示唆しております。

選択された化合物に関して:

(a) 先行技術の開示のみからでは製造が困難: 先行技術文献に開示された情報に基づいて、選択発明に関する出願当時に、選択された化合物を当業者が困難無く製造できない場合[”Fluoran” 判決(GRUR 1988, 447)]、

(b) 先行技術に潜在的な(implicit)開示もない: 当業者が、先行技術文献の開示内容から、選択された化合物を読み取ることが出来ない[“Elektrische Steckverbindung”判決(GRUR 1995, 330)]。

しかし、2008年12月のオランザピン判決においては、上記(a)「先行技術の開示のみからでは製造が困難」を新規性判断の基準とすることを否定しました。これにより、化合物の選択発明の新規性の判断基準は、EPOの判断基準と実質的に同様になったと考えられます。

要するに、少なくとも化合物の選択発明の新規性判断に関しては、 - オランザピン最高裁判決以前からドイツとEPOは基本的に同じ方向を向いていたが、ドイツの基準の方が相当に厳しかったところ、オランザピン最高裁判決において、これを緩和し、EPOの基準に合わせた - と解釈できると思います。

一方、上記の通り、数値範囲の選択発明に関しては、ドイツとEPOの考え方は全く逆です。ドイツにおいて「上位概念が開示されていれば、下位概念も(これが明示的に記載されていなくても)開示されていると見なす」とう考え方を破棄してEPOに合わせるのか、現在のところ定かではありません。

上記オランザピン事件においては、(b)「先行技術に潜在的な(implicit)開示もない」であれば新規性が認められるということになったわけですが、一般式で表される化合物の場合、そこに含まれる化合物であっても、置換基が異なれば、合成方法や特性等の点で全く別の物質になると考える(従って、一般式の記載のみから、そこに含まれる特定の化合物までも潜在的に開示されているとは考えない)ことが合理的であるケースは多いと思います。

一方で、先行技術が開示する連続的な数値範囲から、特定の狭い範囲が潜在的にも開示されていないと言えるのかということになると話は別であるように思われます。

例えば、ある混合物の組成に関して、先行技術にある成分の量が1~95wt%とのみ記載されていて、この範囲から45~50wt%を選択したような場合、EPOの審査基準では、とりあえず範囲が十分に狭ければ新規性は認めるという立場であります。一方、ドイツにはこのような基準は無く、オランザピン判決に従うと、潜在的にも開示されていなければ新規性を認めるということになると思いますが、上記のような1~95wt%という連続した数値範囲から45~50wt%という狭い範囲を選択した場合に、潜在的にも開示されていなかったとみなされるのかという疑問があります。

「上位概念が開示されていれば、下位概念も(これが明示的に記載されていなくても)開示されていると見なす」という考え自体が完全にキャンセルされるのおあれば、補正に関するプラクティスも大きく変わるはずです。

いずれにしても、この問題に関するドイツ連邦特許裁判所や連邦最高裁判所の更なる判断を待つしかないようです。

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