プロメテウス事件に基づく特許適格性分析指針とクレームのドラフティング

2012年7月3日、米国特許商標庁(USPTO)は、 "2012 Interim Procedure for Subject Matter Eligibility Analysis of Process Claims Involving Laws of Nature"(2012 自然法則を含む方法クレームの特許適格性分析のための暫定的手法)と題された指針メモを公表しました。これは、プロメテウス事件の最高裁判決[Supreme Court decision in Mayo Collaborative Services v. Prometheus Laboratories, Inc., 566 U.S. ___, 132 S.Ct. 1289, 101 USPQ2d 1961 (2012)](判決文はこちら)を受けて、USPTOの審査官のためのガイドラインとして発行されたものです。

米国特許法第101条に規定される特許可能な対象(patentable subject matter)に関する近年の重大判例として挙げられることが多いプロメテウス事件(Mayo Collaborative Services v. Prometheus Laboratories, Inc.)の最高裁判決ですが、実際には、この判例は、特許適格性の定義に新たな光を当てるものと言うよりは、方法クレームのドラフティングを疎かにすることなかれと訓辞するものであると考えます。

背景説明

日本では、特許法2条1項に、特許の保護対象となる「発明」とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と規定されています。

一方、米国特許法第101条は、特許による保護対象として、プロセス(process)、機械(machine)、生産物(manufacture)、組成物(composition of matter)、これらの改良、の何れかに属することを要求していますが、これ以上の制約は明記されていません。1980年のDiamond v. Chakrabarty事件における最高裁判決においては、「太陽の下で人間によってなされたいかなるものも(anything under the sun that is made by man)」が、101条に規定された特許保護対象に含まれるとまで述べられています。しかし、実際には、判例に基づき、抽象的概念(abstract idea)、自然法則(laws of nature)、自然現象(natural phenomena)は、特許の保護対象に含まれないものとされています(MPEP § 2106)。

近年、米国特許法第101条に基づく特許保護対象適格性については、Bilski事件が最高裁で争われ[Bilski v. Kappos, 130 S. Ct. 3218, 561 US, 177 L. Ed. 2d 792 (2010)](判決文はこちら)、特にビジネス方法について特許適格性の基準を明らかにするものと期待されていましたが、最高裁は、CAFCの大法廷(en banc)が「machine-or-transformation testが、ビジネス方法に関する発明が特許保護の対象になるか否かについての唯一の判定手段」と判示したのを覆し、”machine-or-transformation test”は、有効な判断手段の一つに過ぎないとし、新たな明確な基準を示すことはありませんでした。(machine-or-transformation test(「機械又は変換」テスト)とは、ある方法が特許保護の対象となるためには、その方法が、(1)特定の機械や装置に関連付けられているか、又は(2)特定の物を変化させて異なる状態や物に変換するものか、のいずれかを必要とするものです("A claimed process is surely patent-eligible under § 101 if: (1) it is tied to a particular machine or apparatus; or (2) it transforms a particular article into a different state or thing.")。)

また、上記のBilski事件に引き続き、特許保護対象適格性に関して、Prometheus事件も最高裁で争われ、大いに注目を集めていました。

Prometheus事件において有効性が争われた特許(米国特許第6,355,623号と米国特許第6,680,302号)は、治療効果を最適化する方法に関するものでしたが、米最高裁判所は、Prometheus特許が請求しているのは自然法則そのものであり、特許保護対象とはならないと判示しました。

日本特許法において、「発明」が「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義されていることからも分かる通り、殆ど全ての発明が何らかの自然法則を応用しているはずであり、Prometheus特許における最高裁の「自然法則そのもの」であるという判示が、医療関係分野に限らず方法のクレーム全般の特許保護対象範囲に与える影響について懸念する声が多く聞かれ、また、Prometheus事件の最高裁判決は、近年のアンチパテントの流れに沿ったものとの見方がされることも有るようです。

しかし、このPrometheus事件に関する限り、多くの特許実務者は、特許保護対象の問題というより、むしろクレームのドラフティングの問題と考えていると思います。自分だったら違ったクレームの書き方をしたと考えた実務者が多いのではないでしょうか?

この事件から本当に導き出される教訓は、何が特許適格性を有する主題なのかというよりも、むしろ単なる自然現象をクレームしていると見なされないように、適切にクレームをドラフティングしなければならないという非常に初歩的な問題であると思います。そして、今回、USPTOが発行したガイドラインも、特許実務者は当然認識していて然るべき基本的な注意事項を扱っているに過ぎません。

Prometheus特許のクレーム

問題になったPrometheus特許の代表的なクレームは、以下の通りです。

原文

A method of optimizing therapeutic efficacy for treatment of an immune-mediated gastrointestinal disorder, comprising:

(a) administering a drug providing 6-thioguanine to a subject having said immunemediated gastrointestinal disorder; and

(b) determining the level of 6-thioguanine in said subject having said immune-mediated gastrointestinal disorder,

wherein the level of 6-thioguanine less than about 230 pmol per 8×108 red blood cells indicates a need to increase the amount of said drug subsequently administered to said subject and

wherein the level of 6-thioguanine greater than about 400 pmol per 8x108 red blood cells indicates a need to decrease the amount of said drug subsequently administered to said subject.


日本語訳

免疫介在性胃腸疾患の治療効果を最適化する方法であって、

(a)該免疫介在性胃腸疾患を有する対象に、6-チオグアニンの薬物を投与する工程、および

(b)該免疫介在性胃腸疾患を有する対象における6-チオグアニンのレベルを決定する工程

を含む方法であり、

該6-チオグアニンのレベルが、赤血球8×108個当たり約230 pmol未満であれば、該対象に対するその後の薬物投与量を増やす必要性があることを示し、そして、

該6-チオグアニンのレベルが、赤血球8×108個当たり約400 pmolを越えるならば、該対象に対するその後の薬物投与量を減ずる必要性があることを示す。

クレームの分析と考察

クレームの分析

上記のクレームの概略を簡潔に纏めてしまうと以下のようになります。

『治療効果を最適化する方法であって、

(1) 特定薬物を投与する工程、及び

(2) 薬物の有効成分の血中濃度を決定する工程、

を含み、そこで(wherein):

 上記血中濃度が特定値未満であれば、投与量の増加が必要、

 上記血中濃度が特定値を超えたら、投与量の減少が必要。』

先ず、注意すべきなのは、Prometheus特許は、「診断方法」や「投薬方法」に関するものと認識されていることが多いようですが、正確には、上記の通り「治療効果を最適化する方法」に関するものです。

考察

上記のことから分かる通り、Prometheus特許のクレームには、「治療効果を最適化する」という目的を達成する手段として何が開示されているかと言うと、薬が少なすぎたら投与量を増やすことが必要になり、逆に多すぎたら投与量を減らすことが必要になるという1つの判断基準が説明されているに過ぎません。

実際に上記の判断基準に従って決定した量で投薬するという工程までは明記されておらず、単に、適切な投与量の増減の必要性を判断する基準を説明したところで終わってしまっています。

血中濃度が閾地より低くて投与量の増加が「必要」になる、又は血中濃度が閾地より高くて投与量の減少が「必要」になるというようなこと自体は、単なる自然法則と解されても致し方ないでしょう。これらの「必要」を満足するための具体的な操作を行うことが、この自然法則を応用することです。

当業者であれば、上記Prometheus特許のクレーム文言から忖度して、上記の判断基準に基づいて制御された量で薬物を投与するところ(つまり、上記「必要」を満足するための具体的な操作を行うところ)まで読み込むことが合理的という考え方も出来るでしょう。しかし、クレーム文言通りに解釈して、血中濃度が閾地より低くて投与量の増加が「必要」になる、若しくは血中濃度が閾地より高くて投与量の減少が「必要」になったら、Prometheus特許の権利範囲ということになったならば、実際にそれに基づいて投与量を制御しなくとも、Prometheus特許を侵害してしまうことになり、公平性を欠きます。

また、上記のように『適切な投与量の増減の必要性を判断する』ということは、頭の中だけで出来ることであり、これは101条関連で、Bilsky事件後に、CAFCで争われたCybersource事件(CyberSource Corporation v. Retail Decisions, Inc., No. 2009-1358 (Fed. Cir. August 16, 2011))において特許適格性がないことが確認された「精神的プロセス」(mental process)に当たると言えます。

Prometheus特許のクレームにおける実際の表現は「必要性を示す」(indicates a need to …)であり、実際に「判断する」という表現が使用されている訳ではないので、この事件において、Prometheus特許のクレームが「精神的プロセス」だと認定されたわけではありませんが、特定の薬物血中濃度が投与量の増減の必要性を示すということは、観察者の判断によって決定されることなので、実質的に「精神的プロセス」であると言ってもいいのではないでしょうか。

101条問題の回避

上記のような問題は、基本的なクレームのドラフティングにより、容易に回避できた可能性があります。

例えば、上記の判断基準に基づいて制御された量で薬物を投与するところまでクレームに明記されていたらどうだったでしょうか?その場合、112条(記載要件)や102条(新規性)及び103条(非自明性)を満たすかどうかは別として、101条の問題は回避できた可能性が高いと思います。

また、単に101条を満たすことのみを目的とすれば、「治療効果を最適化する方法」ではなく、「免疫介在性胃腸疾患の治療方法」にしておけば、特許保護適格性が認められた可能性は十分にあると思います。「治療効果を最適化する方法」としたために、最高裁は、特定の薬物血中濃度が投与量の増減の必要性を示すという部分のみを、発明の実質的な特徴と見なしましたが、「免疫介在性胃腸疾患の治療方法」であれば、薬物を投与する工程が発明の実質的な特徴と見なされるはずです。いずれにしても上記の判断基準に基づいて制御された量で薬物を投与するところまで明記しないと、発明の本質的な特徴が明らかにならないとは思いますが、この『薬物を投与する』行為は、明らかに自然法則そのものではないため、101条の問題は回避できると考えます。

CAFCは、Prometheus特許の特許保護適格性を認めたことからも、本件は101条に関しては当落線上にあり、クレームの書き方次第で101条違反を免れることも十分に可能であったことが伺えます。

このように、プロメテウス事件は、Prometheus特許のクレームにおいて「言葉が少し足りない」ことにより大問題を生じてしまった残念なケース、と考えられます。

Prometheus事件に基づきUSPTOが作成した指針

プロメテウス事件の最高裁判決を受けてUSPTOが公表したガイドラインによると、自然法則を含む方法クレームの特許適格性の判断において、以下の3つの点を検討することとしています。

1.  Is the claimed invention directed to a process, defined as an act, or a series of acts or steps? [請求された発明が、行為又は一連の行為若しくは工程によって定義された方法に関するものか?]

2.  Does the claim focus on use of a law of nature, a natural phenomenon, or naturally occurring relation or correlation (collectively referred to as a natural principle herein)? (Is the natural principle a limiting feature of the claim?)

[クレームが、自然法則、自然現象又は自然発生する関係若しくは相互関係(以下、これらは纏めて「自然原理」と称す)の応用に焦点を当てたものか?(即ち、自然原理が、クレームを限定する特徴となっているか?)]

3.  Does the claim include additional elements/steps or a combination of elements/steps that integrate the natural principle into the claimed invention such that the natural principle is practically applied, and are sufficient to ensure that the claim amounts to significantly more than the natural principle itself?

  (Is it more than a law of nature + the general instruction to simply “apply it”?)

 [クレームが、以下のような付加的な要素/工程又は要素と工程の組み合わせを含んでいるか?: 自然原理を、これが実用的に応用されるような形でクレームされた発明に組み込み、且つクレームが明らかに自然原理以上のものに相当するものとなることを確実にするのに十分な要素/工程又は要素と工程の組み合わせ。

 (即ち、クレームが、自然法則と、それを単に応用しろという一般的な指示との単なる組み合わせとなっていないか?)]

上記項目1及び2は自明であると思います。今回の問題点は、項目3に集約されています。

項目3の最後の括弧書きには、Is it more than a law of nature + the general instruction to simply “apply it”?(クレームが、自然法則と、それを単に応用しろという一般的な指示との単なる組み合わせとなっていないか?)とあります。

上記のPrometheus特許の方法クレームでは、血中濃度が閾地より低くて投与量の増加が「必要」になる、又は血中濃度が閾地より高くて投与量の減少が「必要」になるというようなこと自体は、単なる「law of nature」に過ぎず、また実施に際して投薬量の調整が「必要」であるということが理解されても、それは「general instruction to simply “apply it”」の域を出ないということになります。

典型的には、方法のクレームの場合、意図した結果を得るために自然法則を応用して行われる操作を具体的に記載することにより、単に、自然法則そのものを請求していると見なされることを回避することが出来ます。Prometheus特許の場合、例えば、上記したように、上記の判断基準に基づいて制御された量で薬物を投与するところまでクレームに明記されていたら、101条の問題は回避されていた可能性が高いと考えられます。

いずれにしても、冒頭でも述べたように、Prometheus事件最高裁判決及び今回のガイドラインは、米国における特許適格性を有する主題の定義に関して問題提起するものと言うより、方法クレームのドラフティングを疎かにすると特許適格性が否定されてしまうこともあり得るという教訓ととらえるべきでしょう。

どんなに素晴らしい発明でも、特許出願の際のクレームの表現に欠陥があると、プロメテウス事件のような残念な結果となることがあり得ますので、クレームの作成には入念な検討が必要です。
また、審査中に、クレームの表現の欠陥について審査官から指摘を受けた場合は、審査官の誤解である場合もありましょうが、実際にクレームが重大な欠陥を有する可能性もあり、後者の場合は、補正で欠陥を未然に解決する絶好の機会となります。出願人であれ、審査官であれ、人間には常に誤りがつきものです。したがって、クレームの表現の欠陥について審査官から指摘を受けた場合は、たとえ一見して審査官の誤解であるように見えても、訂正すべき点(誤解される余地のある表現など)が本当に無いかについて、予断や偏見を排除して真剣に検討することが重要です。
なお、審査官の誤解による拒絶理由を受けた場合の対応方法については、当サイトのこちらの解説(進歩性の拒絶への対応(Part 2))の「(A)審査官の誤認・誤解」、及び、当サイトのこちらの解説(進歩性(非自明性)の判断基準)の、特に後半の「クレームの補正」をご覧下さい。


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